音速ライン - 単なるアナログ盤化ではない! 音速ライン黎明期の名盤が今Vinylとして今よみがえる

当初は、「今なりの僕たちを魅せたい」と言っていたけど、実際は全然違っていた (大久保)

━先日の3ピースライヴを振り返っていかがですか?

藤井(Vo&G):単純に楽しかったよね。

大久保(Bass):合わせた印象が昔と全く変わってなかったんです。

藤井色々と思い出したなぁ。3人で顔を見合わせて演る感覚とか。MCでも俺をイジる感じだったけど、あれもあの3人ならではだったな…って。今、俺がイジられることがあまりないもん。あと、アイコンタクトも3人だと多かった。両側に居ると(4人体制)そんな必要もないからね。

━それは人数が少ないが故の一丸性の必要性から?

大久保:いや、逆トライアングルというのが大きいですよ。あの形だとイヤが上でも相手の動きやタイミングが目に入って気になっちゃう。でも演る前は、「今なりの僕たちを魅せたい」なんて言っていましたけど、実際、3人で合わせてみたら全然違いましたね。

━それはどの辺りが?

大久保:リハーサルで初めて3人で合わせてみて想像と全然違っていたんです。「現行の~」なんて言っちゃったけど、やっぱ変わってねぇな…って。

━課題だったギター1本のみでの表現に関してはいかがでした?

藤井やることは増えたけど、そのぶん燃えました。結局自分は昔、ボーカルやりたい人間というよりかはギターをやりたい人間だったことを思い出して。そこがより出ましたね。それこそギター少年だった感覚が蘇ってきました(笑)。でも大変は大変でしたよ。俺、当時はそれが当たり前で、「3ピースは大変」なんて一切思ったことがなかったんだけど。その実は大変だった感覚もついでに思い出しちゃいました(笑)。

大久保:でも、作品では藤井さんがギターを重ねているけど、根本は3ピースバンドスタイルで録ってますから。だからそんなにさほどの違和感はなかったかな。

藤井特に最近はギターを重ねる本数も少なくなってきたので、より3ピースのスタイルに近くなってきているからね。ライヴの再現性をより重視して出してるモードでもあるし。逆に昔はライヴが嫌いだったから(笑)。

━意外です。なんか「ライヴバンド!!」ってイメージがあったもので。ただし、マイペースですけど(笑)。

藤井最近はそうなんだけど、特に最初の頃は…。当時は自分の頭の中でオーケストラみたいにバーンと色々な音が完成形で鳴っていて。そこから作品化する為にそぎ落としていく作業が大変だったというか。ましてやそれをライヴで表現するとなると…。対して今は、“ここまでだったらライヴで再現出来るだろう”を前提にレコーディングをしていますから。最初から引き算になっている。やっぱり若い時はどうしても足し算の嵐だったからね。なんか物足りない、寂しいって。エンジニアさんによく怒られていましたもん。「まだ重ねるのか!?」って(笑)。

自分たちでも色々な方々が無理せずとも観れる環境づくりの大事さに気づいた (藤井)

━(笑)。当日のステージでお客さんを前にしてはいかがでした?

大久保:「待っていました!!」という表情の方が多かったのが印象深いですね。あと、熱量もこれまで以上のものを感じたし。まぁ、逆に僕らはこの3人でいつも通り演る、それだけでしたけど。

━ライヴがお昼帯というのも斬新且つ今や家庭や子供が居るファンの方には親切な時間帯でしたが。

藤井ライヴの形もその年齢に合わせて変わっていってもいいことが立証されました。今回はあの頃のファンの方も多く来るだろうとの予想もあり、その方々が最も来やすい形の一つにしてみたけど、あれはあれで正解でしたから。自分たちでも色々な方々が無理せず観れるような環境づくり、その大事さにも気づかされたライヴでもありました。

大久保:だけど、あれはたまにだったからいいんです。頻繁にやっちゃうと特別感が無くなっちゃう。だって、(藤井さんを見ながら)今はそう言っているけど、一番最初に飽きるのは、この人ですから(笑)。

藤井それは確かに言える。ちゃんとまともに考えて動いているのはいつも剛くん(大久保)の方だから。もう俺はそれに従うしかない。俺はほぼ思いつきなんで(笑)。だけど、タケちゃん(オリジナルメンバーの菅原健生)があんなに嬉しそうな顔をして叩いていたのがホント良かったし、嬉しかったなぁ。

大久保:ずっと音速ラインのことを気にしていたみたいだからね。

楽しく作っている感覚を捨て切れなかったから今だ売れていないとも言える (藤井)

━そんなインディーズ時代を象徴するかのように今回1stミニアルバムの『うたかた』がアナログ盤化されるわけですが…。

藤井今回改めて聴き返して感じたのは、当時はあまりギターロックバンドの中でも自分たちのような音楽性のバンドっていなかったなってところで。激しく且つ切ない音楽性のバンドがあまりいなかったんだよね。いわゆる和メロを日本語でやるギターロックバンドみたいな。意識してそこに落とし込もうとしていたわけじゃないだけど、結果俺たちがやりたくて演っていたことを当時はまだやられていなかったという。今だとけっこう居るじゃん、こういったバンドって。

大久保:今、凄くそれを感じる。

━でも、その一つの要因としては音速ラインの活躍のおかげもあるのでは?例えば今の若手のおいしくるメロンパンなんて、みなさんから多大な影響を受けたことを以前も語っていたし…。

藤井もっともっとその辺りに心当たりのあるバンドマンたちは公表して欲しいよね。俺たちの名前を出してくれって(笑)。

━今回改めて聴き直したのですが、当時からキチンとエモみたいな要素って入っていたんですよね。

藤井そうそう。ホント時代は回っている感じがするするもん。

━この時期、半年間で2作品というハイペースのリリースでしたが、これまでの活動の集大成的な意味合いもあったのでしょうか?

大久保:この『うたかた』も次の『青い世界』(その5か月後に発売された音速ラインの2ndミニアルバム)も、これまでに作り溜めていた楽曲から成立していますからね。まさにそんな感じ。駆け出しだったこともあり、これまでの自分たちの楽曲のベスト的な内容の2枚です。

藤井俺らここまでが長かったからね。それこそまるで蝉のように、地中で何年もその日がくるのを待ち続けていたような楽曲たちです。俺なんて22歳から30歳近くまでバイトやっていたから(笑)。でも、振り返ると人生ってピークやそこからのダウン等もあったりと、結局人生はプラマイゼロなんだと実感しています。

大久保:でも、この時期はそれこそ上しか見ていないというか。まっ、下が無かったとも言いますが(笑)。

藤井ある意味、これだけ苦労していたからこそ曲は、作り溜めていられたことが今になってよく分かるんです。それだけの準備時間があったからこそ、珠玉の楽曲たちで勝負できたし、それを収められたのだなって。当時は、「楽しくなくなったらバンドは解散」なんて気概で活動をしていましたから。仕事だと自覚した時点でヤメようと。だけど未だ一向に楽しくなくなってくれない(笑)。とは言え、今だに仕事じゃないと感じていること自体が本末転倒なのかもしれないけど(笑)。

大久保:今でも楽しく作っている感は端で見ていて感じます。今やもう好きでしかない部分のみでやっているなって。

藤井それを捨て切れなかったから今だに売れていないとも言える (笑)。

今回のアナログ盤化に際して、当時のスタッフ全てに再び集結してもらった (大久保)

━今回聴き直して、また最近こちら側に立ち戻ってきた状況も手伝ってのことかもしれませんが、あまり当時から変わってないなって。エモさはもちろん、美しいメロディやキュンとなる部分、清涼感やエバーグリーンさや初夏の感じ等々。音速の曲はどの曲も基本夏っぽいですよね。例えそれが冬を歌っている曲でも。

藤井自分でもそう感じる。冬の歌も結局は夏を想って書いたりしますから。

大久保:その辺りは拭っても拭いきれないところかなと。

━今回それらがアナログ盤化されますがいかがですか?

藤井今回全て改めてマスタリングをし直して。聴き直した時にその当時の気持ちが蘇りました。「ああ、当時はこういった気持ちで演ってたな…」とか。それも今回の機会がなかったら一生思い出さなかったかも。

大久保:完成したものを聴いた瞬間、感動でしかなかったですから。実はプレス工場に立ち合いにいったんです。そこで見た完成までの過程は感動的でしたね。意外に手作業も多くて。それこそアナログ的でした。あと今回はホント奇跡的に、このCDの際のスタッフにアナログ用にミックスをしてもらったり、マスタリングをしてもらったんです。スタッフもほぼ当時の方々で。

━ちなみにアナログに思い入れ等は?

藤井もちろんあります!!僕らアナログ世代ですから。

大久保:今の時代、自分の作品がアナログ盤化されてそれを聴ける。それって凄くヤバくないですか?

藤井溝を削ってその振動で音楽を聴くんだぜ。その方法論ってヤバい。だって絶対に無音が無いもん。そうそう、マスタリングの際は各曲、より余韻を楽しんでもらえるように、あえて曲間も更に空けてもらったんです。

大久保:(レコードの)溝も広めにとっているので、かなりいい音ですから。あと、やはりひと手間かけて聴く作業。これにも尊さがありますよね。ホント、アナログ盤化は嬉しいです。

━ジャケットも大きいですし。

藤井そこなんです!!実は俺、このアルバムのジャケットを拡大カラーコピーにしてリビングにずっと飾ってもん。ほんとインテリア的にもいい。

━当時、この猫は?

藤井デザイナーさんのお知り合いの猫です。今回もデザイナーさんは当時もお願いしていた方で。その方の粋な計らいで、実は中の歌詞カードの裏には現在のこの猫ちゃんの姿も入っているという。もう14歳になったらしいのですが。

大久保:音も今回、最もアナログで聴いた時に良く聴こえるミックスやマスタリングをしてもらったので、ほんといい音だし、より当時のレコーディングした際の音に近いです。なので、CDを持っている方もそれとは別モノとして是非手に取ってもらいたい。音は当時より元気になっていますから。「あれ?俺たち昔、こんなに元気だったっけ?」と自分でも思いましたもん。可能であればにより大きなスピーカーで聴いてもらいたいです。

藤井あの当時、綺麗にフェイドアウトで終わっている曲も最後まで収めていますから。最後、余計な音まで入っているという(笑)。その辺りの新たな楽しみやおまけもあります。もう一家に一枚飾って欲しい。

大久保:それこそ絵を買う感覚で。それから特典で先日の3ピースライヴの際の音源も入るので、来れた方も来られなかった方も楽しんで欲しいです。

━このアナログ盤の聴きどころを教えて下さい。

藤井「音速ラインって名前だけは知っています」って方も多いと思うんだけど、そういった方にこの機会に聴いてもらいたいです。今、若い子でもけっこうアナログを聴く子たちが居るとのことなので、是非その子たちにも手に取ってもらいたい。

━では最後に年末年始にかけてのツアーの意気込みを教えて下さい。当然この盤からの曲は演るのでしようが。

大久保:やらないと詐欺ですよ。その前にキチンと思い出さなきゃいけないですね。それこそコピー感覚で演ったり(笑)。

藤井こないだの3ピースライヴの際もそういった気概で演ったけど、結局は現行の俺たちに更新されるので。これをこのままの再現には絶対にならないと思う。今の俺たちが演ったらこうなる。そんなライヴになるでしょう。

大久保:ホントやるのが楽しみで。それこそ10年以上演っていなかった曲もあるので。で、そのライヴの感覚を帰ってアナログで聴いて、その違いも楽しんでいただければなと。

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