日本人技術者がリヴァウドとともに掴んだ世界一!ミズノ『ウエーブカップ』開発秘話

11月23日、ミズノから新たなスパイクコレクションである「レジェンドブルーパック」がリリースされる。

印象的なホワイト×ブルーの組み合わせで、各スパイクかなり魅力的な仕上がりとなっているのだが、その象徴が、ひと足早く11月3日に限定発売された『ウエーブカップ レジェンド』だ。

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ミズノの中では現在の『レビュラ』に至る“テクノロジー型スパイク”の元祖といえる存在で、1999年のバロンドール受賞者である名選手リヴァウドが開発に協力し、2001年に発売された。

クッション性と安定性を両立させた「ミズノウエーブ」を搭載し、日本では岡崎慎司が長く履いていたことで知られている。アマチュアプレーヤーにもファンの多かったモデルだ。

そのスパイクが復刻されたということで、Qolyでは今回、『ウエーブカップ』の開発を担当した大禮剛(おおれい たけし)氏にインタビューを敢行。開発に至った経緯や開発過程の苦労、さらにリヴァウドとのマル秘エピソードなどを聞いた。

開発プロジェクトは2000年4月にスタート

――ミズノのサッカースパイクといえば、1985年に発売された『モレリア』が何と言っても有名です。ミズノにとって『モレリア』はどんな存在ですか?

ミズノフットボールの原点となる、世界に誇る魂のこもった永遠の最高級サッカーシューズです。

※ミズノが世界に誇る名スパイク『モレリア』。1985年の登場以降、何度かのリニューアルを経ながら日本のフットボールを支え続けており、現役プロにも愛用者は多い。中村憲剛と大島僚太はその代表的な選手だ。

――そうしたなかで、いつ頃、どういった形で新しいスパイクの開発プロジェクトは始まったのでしょうか?コンセプトなども含めて教えてください。

2000年4月に開発プロジェクトはスタートしました。

ミッションは以下の3つです。サッカーにフィットするWAVE設計開発、Data Shower手法を用いた新テクノロジー搭載、そしてマーケティングストーリーを実現させるため、この2つを満たす画期的なシューズを開発するだけでなく、そのシューズをリヴァウドがワールドカップで着用するという、非常に難易度の高いテーマでした。

リヴァウドがスパイクに唯一求めたもの

――大禮さんはそれまでは陸上競技シューズを担当していたとうかがいました。陸上とサッカーのシューズ開発における共通点、また逆に、ここは全然違っていたという点はどういったところですか?

共通点は、人間が行うこと。すなわち、陸上もサッカーも人間の動きを徹底的に分析し、人間の動きを最大限に発揮するための設計を行うことが重要です。

異なる点ですが、サッカーという競技と陸上をはじめとした他の競技の客観的な違いとして、まず出足の一歩により得点、失点、反則、退場につながる、すなわち出足の一歩が試合の結果を決定づけてしまう非常に怖い競技であること。また長時間プレーをするため、陸上でいう長距離的要素が必要なことです。前者ではトラクション(地面と靴のグリップ性)が非常に重要となり、後者では長時間高いパフォーマンスを維持する機能(軽量、クッション)が必要となります。

――リヴァウド選手は1999年のバロンドールを受賞するなど、当時世界最高の選手の一人でした。彼がスパイクに求めたものは何でしたか?

「世界最高の選手」であるリヴァウドは、つまりサッカー競技において世界で一番正しい動きをする人です。我々はその選手の動きを徹底的に解析し、シューズ設計に活かせば、そのシューズを履いた方々に世界で一番正しいサッカー動作の動きを提供できると考えていました。

そのリヴァウドが唯一求めたものは、軽量性でした。

※中央の写真右が大禮氏。

――実際にどんなやり取りをしながら『ウエーブカップ』の開発を進めていったのでしょうか?

以下の6つのステップで開発を進めました。

1.リヴァウドの動作(キック、ステップ、ヘディング)を、ミズノ独自のバイオメカニクス手法で「採取」&「解析」。

2.コンセプト(本開発品がユーザーに対し提供する新たな価値)を決定。このプロジェクトでいえば、軽量、クッション&スタビリティ、グリップ性の3つでした。

3.ステップ1のデータをもとにステップ2のコンセプトを実現させる設計を見出す。

4.設計されたシューズをリヴァウドに提案。ただし、選手の意見を聞き具現化する「受け身」での開発ではなく、選手の動きをもとに提案する「提案型」開発でした。

5.リヴァウドに実際に履いてもらい官能評価してもらう。

6.その結果をもとに微修正。

――ひとつの製品を完成させるのはやはり大変だと思います。どこが一番苦労しましたか?

ステップ3の設計の部分です。具体的には、インステップキック、インフロントキック、センタリングキック、インサイドキック、ヘディング、ステップ(左右)という6つの動作で様々な足裏データを採取・解析しており、それらすべてにおいて最適となる設計を実現させることに苦労しました。

――スパイクのカラーはなぜあの色(ホワイト×ブルー×イエロー)になったのでしょうか?

リヴァウドが唯一求めていた「軽量」を実現させるため、実際のシューズの質量だけでなく、視覚的にもっとも軽量性を感じられる白のアッパーを提案。ブルーとイエローはブラジル代表のユニフォームカラーから採用しました。

『ウエーブカップ』まさかの公式戦デビュー

――シューズ開発以外でリヴァウドとの印象的なエピソードなどがあれば教えてください。

開発においては、本当にたくさんのエピソードがありました。強く記憶に残っているものを中心に紹介します。

・2000年6月10日に行われた『ウエーブカップ』開発スタートのミーティング時、本人の第一声が「開発の必要がない」と言われました。本人は『モレリア』に十分満足していたため…。

※リヴァウド「開発の必要がない」

・『ウエーブカップ』の最初のテストシューズを見せ説明した際(2000年11月ごろ)、リヴァウドは終始無言でした。といっても、不満に思っていたのではありません。感動して言葉が出なかったためです。

・急に電話で奥様を呼び出し、シューズとその開発手法について奥様に説明するよう依頼。奥様に自慢したかったようです。

・試合で使わないよう依頼していたにも関わらず、そのテストシューズをいきなり公式戦(※リーガのオサスナ戦)で使用。どうしても試合で使いたくなり、我慢できず履いてしまったとのことでした。

※当時のリヴァウド。通常はこのように『モレリア』を履いていたが、1試合だけイエローラインのスパイクを履いたことがあった。それが『ウエーブカップ』のプロトタイプモデル(下写真)である。

※このように練習で着用し、気に入って試合でも…。

・オサスナ戦後、食事に招待され、バルセロナのチームメイトだったフランス代表MFエマニュエル・プティと1998年ワールドカップ決勝戦の話をしだしたこと。

・その際、リヴァウドに依頼を受けプティさんへシューズと開発手法を説明すると、プティさんから「ミズノのシューズ開発手法(Data Shower手法)はどのメーカーよりも正しい手法だ」とお褒めの言葉をいただきました。ようするに、プティさんにも自分のスパイクを自慢したかったようです。

リヴァウドの“恩返し”

・最初のテストシューズを練習&試合で評価した後、「可能であればもう少し軽くして欲しい」と要望を受けました。最初のテストシューズは217gで『モレリア』より約28g軽量でしたが、リヴァウドはさらなる軽量化を望みました。

・すべての素材、設計(アッパー&ソール)を見直し、最終的に200g(テストシューズから17gの軽量化)を実現。そのシューズを2001年2月に再度バルセロナで提案したとき、リヴァウドは子供のように喜び「パーフェクト」との言葉をいただきました。

・最後のリクエストは、息子と娘の名前をスパイクに入れて欲しいというものでした。リヴァウドは非常に家族を大事にする人で、家族の大事さを彼から教えてもらいました。

・『ウエーブカップ』の開発中、ブラジル代表チームは南米予選で非常に苦戦しており、10番を背負っていたリヴァウドも当然非難の的になっていました。本人はそのプレッシャーに耐えきれず、代表辞退も考えたらしいのですが、「俺がワールドカップで活躍するための素晴らしいシューズをミズノが開発してくれた。その恩返しのためにも南米予選を勝ち抜き、ワールドカップも活躍できるよう頑張る」と言ってくれました。

※結果、ブラジルは2002年の本大会で見事優勝。リヴァウドも“相棒”の『ウエーブカップ』とともに5得点をあげるなど大活躍した。

――そんな名スパイク『ウエーブカップ』と、今月リリースされた『ウエーブカップ レジェンド』、どこが違うんでしょうか?

細部にこだわったアッパー、ソールの素材、設計は2002のスペックとまったく同様にして欲しかったので、それは忠実に守ってくれています。さらにインソールなど、当時にはない現在の新たな設計&素材を採用し、2002モデルよりスペックは上がっています。

開発精神は現在、『レビュラ』へ継承

※ここからは現シューズ企画担当の陳氏にバトンタッチ。

――今回、なぜ『ウエーブカップ レジェンド』として復刻されることになったのですか?

世界中にいるミズノフットボールユーザー・ファンに向けて、改めてミズノのモノづくりにかける情熱・そしてその継承を伝えたいと考えました。「過去から学び、未来に繋げていく」というプロダクトストーリーを『ウエーブカップ レジェンド』を通じて表現するため、またシンプルに『ウエーブカップ』を復刻させたいという企画マンとしての強い好奇心もありました。

――『ウエーブカップ』から生まれた革新的なスパイクというコンセプトは現在、『レビュラ』へと受け継がれています。『レビュラ』はどんなスパイクですか?

スピードとボールタッチ、その両方をコントロールして、試合で決定的なプレーをするために生み出されたのが『レビュラ』です。

クラフトマンシップ×テクノロジーの最新モデルである『レビュラ 2』には、繊細なボールタッチを可能にするCTフレームという機能をアッパー部分に施し、スピード感を生み出すD-FLEX GROOVE・スタビライザースタッドを搭載したソールを採用しています。『ウエーブカップ』から受け継がれる開発精神が『レビュラ 2』に詰め込まれています。

――『レビュラ』着用選手では吉田麻也選手ら日本人に加え、タイ代表のチャナティップ・ソングラシン選手の活躍も光ります。タイなど東南アジアでのプロモーションやスパイクへの反応はどうですか?

タイ・東南アジアでのミズノスパイクの反応はとても良いです。特にタイではチャナティップ選手との契約を最大限に生かすことで、大きく売上成長を実現することができています。これからも東南アジア攻略を進めていきます。

――最後に、『モレリア』『モレリア ネオ』を含めたミズノのスパイクが今後どうなっていくのか。ここを楽しみにしてほしい!という点を教えてください。

詳しいことはお答えできませんが、皆さんがワクワクする、最高のものを作っていきます。ご期待ください。

名作『ウエーブカップ』の流れをくむレジェンドブルーカラーが配された、『モレリア 2』、『モレリア ネオ 2』、そして『レビュラ 2』。

ピッチでも目を引くこと間違いなしの新作「レジェンドブルーパック」は、11月23日から発売される。

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