大佛の思想読み解く 横浜で「天皇の世紀」50年記念講演

 大佛(おさらぎ)次郎の未完の大作「天皇の世紀」が執筆からおよそ50年を迎えたことを記念した講演会「鞍馬天狗(くらまてんぐ)のいない明治維新 大佛次郎『天皇の世紀』再読」が24日、横浜市中区の神奈川近代文学館で開かれた。明治150年という節目の年に、大佛の代表作に通底する思想と歴史観を、日本女子大教授の成田龍一さんが読み解いた。大佛次郎記念館の主催。

 「天皇の世紀」は1967年に新聞紙上で連載が始まり、休載を挟みながら73年4月まで続いた。膨大な資料を用いて江戸時代の開国から戊辰戦争までをつづり、「正面から歴史を描く正史になっている」(成田さん)という。

 一方、65年まで書き続けられた鞍馬天狗は架空の物語。主人公を通じて大佛が自らの思想などをメッセージとして送っている。鞍馬天狗が明治維新とは何だったのかを考える描写もあり、「その問題意識で、大佛はもう一度明治維新を問い直そうと考え、鞍馬天狗を打ち切って天皇の世紀に向かった」と分析した。

 晩年に「天皇の世紀」を手掛けたことには、連載開始が明治100年の時期だったことを指摘。政府が大規模な祝典を行ったことなどへの危機意識や、同時期に盛んだった学生運動で多くの知識人が批判されたことから、「知識の重要性を説こうとしたのではないか」と推論し、「鞍馬天狗を書いていた大佛が、明治100年の時期に天皇の世紀に取り組んだことをよく考える必要がある」と締めくくった。 

大佛次郎の代表作を読み解いた講演会には、多くの人が集まった=横浜市中区

© 株式会社神奈川新聞社