移住者、越前ガニ漁の船頭目指す

担い手不足の町で先輩の背中追い 「仕事、つながる」(1) 

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取れた越前ガニを運ぶ「高砂丸」乗組員の蔵元慎也さん

 福井県越前町の沖合約50キロに浮かぶ小型船「高砂丸」。目当ては越前ガニだ。「急いで引っ張れ!」。怒号のような指示が響く。次期船頭を目指す乗組員蔵元慎也さん(40歳)が船上で次々とカニを仕分けていく。

 蔵元さんは愛知県常滑市出身。中学卒業後、奈良県で約5年間大工として働いた。だが会社が倒産寸前と知り、地元に戻って転職活動を始めた。

 あなたも漁師に―。2001年、偶然めくった求人情報誌の漁師特集ページが目に留まった。

 「知らない世界に飛び込みたい」。釣り好きだたこともあり、北海道から南へと順に電話をかけた。最初に連絡が取れたのが高砂丸の船頭高矢孝祐さん(60歳)。「明日からやってみろ」。そう言われたものの、蔵元さんは「恥ずかしい話、電話したとき福井県ってどこだと思った」と苦笑い。期待を寄ながら越前町に向かった。当時、20代前半だった蔵元さんは「若気の至りなんですかね。漁師ってなんとなくかっこいいと思っていた」と振り返る。
 
 高矢さんが漁師となったのは18歳。父親が船頭を務める高砂丸を30歳で継いだ。春はホタルイカ、夏はバイ貝、秋はカレイといった季節の魚介類で生計を立ててきた。

 中でも11月から始まるカニ漁は単価が高く、漁獲量は収入に直結する。水深200~350メートルの海底に仕掛けた網を専用のクレーンで引き上げ、船上では腕の太さほどのロープや、取れたカニを入れた十数キロの箱を運ぶ。すべて力仕事だ。

船上で作業する蔵元慎也さん

 「楽しくなかった」。蔵元さんは漁師1年目を振り返る。深夜に出航し、揺れる船上で1、2泊は当たり前。慣れるには5年以上かかった。当時、町で唯一の移住者だったというが、持ち前の明るさと人なつっこさで町にはすぐになじみ、移住後まもなく結婚。子どもを授かったことで「家族が支えてくれた」。今では福井弁を流ちょうに話す。越前町は「故郷みたいなもんや」。照れ笑いを浮かべた。

 福井県は15年、一定の大きさなどの規格に合格したカニを「極」と名付け、ブランド化。越前町漁業協同組合によると14年まで同町で1杯の最高額は5万円前後だったが、ブランド化の成功により伸び続け、今年は35万円となった。最高額の伸び率に比例して、規格外のカニも1杯の平均単価が高くなったという。

 一方、福井県底曳網漁業協会によると、同族経営の漁業者が多い越前町では、高齢化と若者の流出で担い手不足が深刻化。船頭は体力仕事のため、65歳前後で引退する場合が多い。1989年に80隻あった船数は、今年49隻まで落ち込んでいる。

 町は、約10年前から外国人技能実習生としてインドネシアなどから若者を集め始めた。今では乗組員として乗せる船は半数を超えるほどになった。高砂丸にも3人のインドネシア人の男性が乗船しており、高矢さんは「日本語が分からなくても理解しようとしてくれている。要領よく仕事するし、助かっている」と話す。

カニ漁で使う網を仲間と修理する

 高矢さんは2年ほど前から体調を崩しがちになった。当時、息子はまだ小学6年生。後を継ぐ確証はない。「数年後は漁に出られないかもしれない」。長年家族同然に接し、きつい仕事にも愚痴一つこぼさない蔵元さんに船頭の指導を始めた。

 以降、高砂丸とは別の小型船を使う夏のバイ貝漁では、蔵元さんが乗組員を引き連れ、かじを取るように。漁の良しあしは天候などを見て、その日適した漁場を選ぶ船頭次第。経験が浅い分、不漁の日もあるが「大漁だと胸が躍る」。

 バイ貝での船頭経験は蔵元さんを変えた。「ほかの漁で、自分が船頭ならどう対応できるかと常に考えるようになった」。かじの取り方、仕掛けの網を入れるタイミング…。高矢さんのやり方を少しずつ学ぶようになった。

船上で波の状況を確認する蔵元さん

 自然相手のカニ漁は毎日が真剣勝負。20年近く高矢さんをそばで見てきてきた蔵元さんは「いつかは船頭としてカニ漁をしてみたい」と話す。

 だが、高矢さんのかじさばきと迅速な判断にはまだ到底追いつけない。「毎日同じ海なんてない。高矢さんみたいに状況を見て、見極められるように毎日勉強です」。高矢さんの背中を追い続ける。

取材を終えて

 漁師の実態を少しでも知るべく、漁に同行させてもらいました。「船酔いするなよ」「絶対しませんよ」。前日、そんな会話を笑いながら蔵元さんらとしていましたが、目的地に着くころには船酔いでK.O.寸前。立つのも精いっぱいで、笑顔はどこへやら…。けれど、揺れる船上で、寝泊まりしながら漁をこなす彼らはたくましく、かっこいいなと身をもって知ることができました。(共同通信福井支局=待山祥平27歳)

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