広がるエボラ 症例数がコンゴの流行史上最大に【情報まとめ】

マンギナのエボラ治療センター © Carl Theunis/MSF

マンギナのエボラ治療センター © Carl Theunis/MSF

コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の北東部で続くエボラ出血熱の流行に、国境なき医師団(MSF)は対応を続けている。11月9日、症例数はコンゴのエボラ流行史上最大となる319件に達した。北キブ州とイトゥリ州のエボラ治療センターでは、感染患者の治療とともに、感染制御と予防、除染と消毒、トレーニングなどを通じた支援を進めている。これまでの症例数やMSFの対応をまとめた。 

これまでの数字(2018年11月16日現在・コンゴ保健省発表)

合計症例数:344件(確定例 304件、および ほぼ確実※例40件)
死亡した人数: 202人(確定例 162件、および ほぼ確実例40件)
治癒者数合計:約100人
活動中のMSFスタッフ:100人以上 (北キブ州とイトゥリ州のエボラ・プロジェクト)

※「ほぼ確実」は、この地域で亡くなった人のうちエボラ確定例と関連があったが埋葬前に検査できなかった人。
 

現在の状況

これまでに、北キブ州とイトゥリ州内にある14の保健区域(マンディマ、コマンダ、チョミア、マバラコ、ベニ、オイシャ、ブテンボ、カルングタ、マサレカ、ミュジヤンエーヌ、キョンド、カトワ、ヴホヴィ、ムトワンガ)でエボラの確定例、またはほぼ確実例が報告されている。

流行の中心はもともとの発生地であるマンギナ村から、人口42万人の大都市ベニに移り、10月には確定例が増加。新規症例の多くが、これまでに分かっている感染経路とは別のところで感染しており、流行の拡大が懸念されている。さらに、ベニの3倍の人口を持つブテンボのエボラ治療センターでは症例数が増え続けており、多くの患者が周辺地域から町に入ってきている。

今回の流行でもうひとつ懸念されるのは、広い地域で散発的な流行が繰り返し起きている点だ。流行地はウガンダ国境にも近いため、隣国に飛び火する恐れも強まっている。ウガンダ政府は対応の最前線で働くスタッフ3000人にワクチンを接種して予防対策を始めた。また、隣接する南スーダンやルワンダでも、流行に備えた対応能力の強化や、安全で尊厳のある埋葬方法のトレーニングなどが行われている。

コンゴ保健省と世界保健機関(WHO)の疫学専門家チームは、引き続き感染経路の特定に取り組んでいる。感染地の人びとは村から村へ移動し、医療機関もいろいろな場所で受診するため、追跡調査は依然、難しいままだ。 

MSFのエボラ対応と役割

コンゴ保健省の要請を受け、MSFはエボラ対策の調整とともに、感染者の治療を担っている。また、防護服の装着方法や感染予防・制御、トリアージ※などの訓練と、疫学的調査・監視活動も支援している。

※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること
 

隔離病棟と治療センター

今回の流行を受け、発生地であるマンギナの診療所内に現地スタッフが急いで隔離室を設置したが、MSFはまずその改善に取り掛かった。疑い例と確定例を受け入れ、治療センターの建設が進む間、患者はここに隔離されて治療を受けた。その後、最初のエボラ治療センターを8月14日に開院。マンギナでの患者数減少と流行の中心が別の地域に移ったため、当初68床あったベッドを、現在24床に減らしている。

ブテンボでは、MSFが建設・運営する2つ目のエボラ治療センターの規模を拡大し、現在、ベッド数64床で対応を続けている。
ウガンダとの国境にあるアルバート湖付近、イトゥリ州チョミアでも確定例が出たため、MSFは10月12日に3つ目のエボラ治療センターを開院。このセンターは新規症例がなくなったため11月5日に保健省に引継いだが、センターで働く保健省職員の訓練や物資支援などは引き続き行っている。

MSFは11月第1週にイトゥリ州ブニアでベッド数16床の隔離センターを開設した。ここでは1日に約2000人が検査している。ベニでは疑い例を受け入れる一時滞在センターを新たに設置した。
 

開発中の薬による治療

エボラ治療センターでは対症療法を充実させている。経口あるいは点滴による水分補給、マラリアなど他にも感染している病気の治療を追加するほか、感染が確認された患者には、承認前の新しい治療薬をガイドラインに沿って勧めている。臨床医チームが随時、5つの候補薬(ファビピラビル、レムデシビル、REGN3470-3471-3479、ジーマップおよびmAb114)から治療薬を選び、患者、または家族へのインフォームド・コンセントで合意が得られた場合にのみ、対症療法に加える形で行われる。

この5つの治療薬はまだ臨床試験が済んでおらず、有効性は未知数だ。それでも、患者の回復につながる可能性があるため、保健省とMSF双方の倫理委員会の承認を受けた上で、厳格なプロトコルに従って使用されている。特に重視されるのは患者へのインフォームド・コンセントだ。正式な臨床試験の実施に関する協議は、現在も続いている。
 

感染予防と制御

エボラ治療センターでの治療に加えて、MSFは感染の予防と制御にも注力している。マンギナとベニで陽性例が出た医療施設では、除染・消毒作業を行い、さらにイトゥリ州でもマンバサとマケケ、ブニアからチョミアまでの地域で活動している。医療施設を訪問し、スタッフを訓練して適切にエボラ疑い例のトリアージを行えるようにするほか、隔離室も必要に応じて設置できるようにしている。

さらに、北キブ州とイトゥリ州内にあるMSFの全てのプロジェクトで、防護服などのエボラ対応備品を準備し、適切な衛生・感染制御ガイドラインを導入。患者を感染リスクから守り、流行拡大を防いでいる。
 

緊急チームの立ち上げ

エボラ対応は、いかに素早く反応して調査し、活動の体制を組めるかが鍵となる。そのためMSFは、医師、看護師、給排水・衛生活動の専門家で構成される緊急チームを編成した。9月9日には、陽性例の報告を受け緊急チームが北キブ州南部に派遣され、ルベロ近郊のルオトゥ村で症例調査を行うとともに、感染疑い例を受け入れるため、現地の医療施設内に小さな隔離室も建設した。当初報告された陽性の患者は、医療施設に入院後に自宅で亡くなったため、医療スタッフや家族への接触感染の恐れがあった。幸い、確定例はなかったため、MSFは9月27日にこの施設を保健省に移譲した。緊急チームは、チョミアで最初の確定例が現れたときも現場へ急行した。 

予防接種と健康教育

北キブ州からイトゥリ州への感染拡大防止のため、州境の地域で医療スタッフ、宗教指導者、埋葬人など、感染リスクの高い人に予防接種を実施。マンギナで暮らす住民はイトゥリ州へ行く人が多いことから、予防接種で州を越えたさらなる感染拡大の防止が期待されている。これまでに、最前線で対応に当たっている感染リスクの高いスタッフ480人と、その他の医療従事者や確定例と接触した可能性のある人など606人に予防接種をした。こうした活動は地域社会との調整が重要となるため、MSFの健康教育チームが地域のリーダーと連絡を取り、エボラについて、地域の状況についての情報交換を行っている。 

エボラ対応の課題

現地で続く情勢不安により、医療活動を全面的に停止しなければならない事態が起こっているほか、治安の悪化により、追跡調査も難しくなっている。

また、エボラ対応で重要な地域社会の信頼獲得も課題だ。コンゴでは、長年の紛争により住民の当局への不信感が根強くある。恐怖や抵抗を感じている人びとに対し、なぜエボラ治療センターに来ることが重要なのか、治療に来れば、愛する家族や友人を感染から守ることができると納得してもらうこともMSFの仕事だ。これは地域社会との良好なコミュニケーションを通じて初めて実現する。MSFは特に流行の中心となっているベニで、地域の信頼を得るための努力を続けている。
 

MSFのエボラ対応の流れ(11月15日現在)

7月30日

北キブ州ベニ/マンギナのエボラ疑い例について連絡を受ける

8月1日

保健省がエボラ流行を宣言

8月6日

隔離病棟をマンギナの拠点病院に設置。防護服装着方法や感染予防・制御、トリアージ※などの訓練を開始。(※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること)  

8月7日

国立医生物学研究所の遺伝子解析結果から、流行しているウイルスが、最も致死率が高いザイール株であること、2018年前半に赤道州で報告された菌株とは異なることが確認された。 

8月8日

WHOの監督の下、流行に対応する医療従事者への予防接種が始まる。  

8月14日

エボラ治療センターをマンギナで開院。37の疑い例と確定例が同日に入院。設計当初ベッド数は30床だったが、すぐに68床にまで増床。必要であれば最高で74床まで増床できるようになった。地域の診療所と、そのほか確定例を受け入れた診療所の除染・消毒も行った。  

8月24日

マンギナの治療センターで基準に該当する患者に治療薬の提供を開始。 

8月28日

マケケに一時滞在センターを開院。  

9月8日

ブテンボで隔離センターを開院後、エボラ治療センター建設も開始。

9月9日

緊急チームを北キブ州南部に派遣、ルベロ近郊のルオトゥ村で症例を調査。 

9月19日

マケケ一時滞在センターの活動を終了。 

9月20日

保健省と連携して、ブテンボにベッド数28床のエボラ治療センターを開院。 

9月22日

ベニで、ウガンダの民主同盟軍(ADF)とみられる勢力に攻撃を受け、少なくとも19人が死亡(うち14人は民間人)。エボラ対応が実質的に停止。 

9月24日

確定例2件の報告を受け、イトゥリ州アルバート湖付近にあるチョミアにチームを派遣。隔離室を設置し、保健省と共同でベッド数12床のエボラ治療センター設置を準備。 

9月27日

新規症例が出なかったことを受け、ルオトゥ村での活動を終了。 

10月12日

チョミアでエボラ治療センターを開院。 

10月17日

WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」にあたるか協議を開始。この時点ではPHEIC宣言は出さない決定。 ベニで感染リスクの高い人医療従事者を対象にエボラの予防接種を開始。 

10月20日

ベニでADFによるとされる攻撃が再発。 少なくとも12人が死亡。また、報道によると10人がこのとき拉致された。22日には全ての活動を通常通り再開した。 

11月5日

チョミアのエボラ治療センターを保健省へ引き継ぐ。流行から3ヵ月で症例数が300件に達する。 

11月7日

イトゥリ州ブニアの総合病院で隔離センターを開設。 

11月9日

症例数が過去のエボラ流行を超え、319件に達する。 

11月15日

 流行の中心となっているベニに、疑い例の患者のための一時滞在センターを開設。

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