フードバンクNPO「行政との協力関係、未だ脆弱」

日本初のフードバンク団体「セカンドハーベスト・ジャパン」の創設者、マクジルトン・チャールズCEO ©Wild Tame

「なぜNPOには、行政との人事交流がないのか」とは、日本初のフードバンク団体「セカンドハーベスト・ジャパン(東京・台東、以下2HJ)」の創設者、マクジルトン・チャールズCEOの嘆きだ。10月に恒例のシンポジウムを開催した2HJ。フードセーフティーに向けたネットワーク構築のために、16年の歳月を費やしてきた同組織は、企業との取り組みが広がる一方で、未だ行政との関係性が脆弱であることを危惧している。(寺町幸枝)

シンポジウムは、食品ロスを必要な人に届ける「フードバンク」に関わる多くのステークホルダーが一堂に会し、取り組みを進める企業や団体の現状報告や意見公開、認知拡大を行う場として、2HJが2007年以降毎年開催している。

行政側の代表として農林水産省の担当者が発表した後、個別取材に応じた2HJのチャールズCEOの口からは、行政との間の協力関係について厳しい意見が聞かれた。

「受け取る」拠点に支援を

今年9月、フードバンクの手引きを作成したという農林水産省は、供給側の不安払拭が課題であり、不正転売や衛生管理などの不安が拭えれば、現在約357万トンあるといわれる日本の「事業系」が出す食品ロスの削減につながるのではないかと考える。

しかし、2008年の時点で2年という歳月を費やし、企業や受け入れ先を含め、様々な関係者へのリサーチをもとに、フードバンキングに関するマニュアルを作成していた2HJにとって、彼らの作成したものを認めず、税金を費やして、新たな手引きを作った行政に対して、不審感を抱かずにはいられなかったようだ。

©Wild Tame

「(日本の)フードバンキングにおいて今一番の課題は、(提供できる)食べものがそこにあるにも関わらず、サプライチェーンが構築できていないために、人々に届けられないということだ。我々のリソースに対して、多くの需要があるにも関わらず、その食べものを受け取る場所がなければ、それは需要がない状況と同じだ」と話す。

こうしたピックアップ拠点こそ、行政が積極的に担うべきだが、現時点ではまだ2HJが目指す拠点数(東京都内で37拠点)、や規模(10万人が十分に食料を受け取れるネットワーク作り)へは全く届いていない。

協力先が1500社を超えるまでに広がり、同組織の認知度も高まった一方で、資金難と、東京の人口に対して提供できる食品の規模の小ささを「恥ずかしい」と語ったチャールズCEOからは、行政に対する厳しい指摘が続いた。

行政とNPOの溝、人的交流で狭まる

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7割の日本人は NPOを信頼していないといわれる。その影響を受けてか、NPOと行政の人的交流は、民間企業のように行われてはいない。もしNPOと行政間で、4、5年というロングスパンの人的交流が行われれば、お互いの問題点を理解し合い、さらに人的ネットワークも構築ができるに違いないと話すチャールズCEO。

今後の東京、そして日本におけるフードバンキング活動の発展には、関係するステークホルダー間の協力なしには進まない。そのためにも、お互いの問題点を晒し出し、対等なパートナーシップをもとに、支援環境の改善を目指さねばならないことが、今回改めて明確になった。

ニッスイ:契約までに1年半を費やした

シンポジウムには、フードバンクに関わる関係者を始め、多くの市民が駆けつけた ©Wild Tame

一方で、企業によるフードバンクの支援活動は着実に広がっている。シンポジウムでは、日本水産とセブン&アイ・ホールディングスが取り組みを紹介した。

20世紀初頭から、水産物品を扱う日本水産株式会社(以下、ニッスイ)は、2HJの黎明期から関わっていた「ニチレイフーズ」の取り組みをテレビで見たことをきっかけに、サプライチェーンマネージメント(SCM)活動の一環として、2HJと通じた支援ができないか模索したという。

転売、再販の回避やトレーサビリティの確保といった諸問題を一つずつ解決し、1年半を要して契約にこぎつけた同社は、最終的に、枝豆、つくね、唐揚げなど、海外生産分の中で、検査のための抜き取りを行ったために、まとめて出荷ができなくなった商品を、寄付することになったという。

冷凍品の配送も、各団体に届けるまでニッスイが担当している。そのため費用がかかるが、捨てるにも費用がかかることを考えれば、企業としてその活動に意義を見出しているという。

「命をつなぐ大切な食べもの」として、多くの子どもを支援する受け入れ団体から、貴重なタンパク源を寄付してもらえていることで感謝されているという。2015年は3.5トンだった寄付量も、2017年には12.6トンに増量している。

セブン&アイ:食品ロス削減の一環として

2HJのキャンペーンポップ。企業・団体との協働の取り組みは着実に広がっている。 ©︎寺町幸枝

スーパーマーケットやコンビニエンスストアを運営するセブン&アイ・ホールディングスは、「食品ロスを出す可能性が高い業種、企業である」と自社を認識している。その上でサステナビリティ経営に取り組み、SDGs(持続可能な開発目標)を本格的に業務に取り込んでいる同社は、2016年4月から、2HJへの活動協力を行っている。

最初のきっかけは、ボランティアを派遣する人的支援であり、その後イトーヨーカドーやセブン・イレブンの一部店舗から寄贈商品(菓子、加工食品含む)の寄付に発展したという。

さらにセブン&アイ・ホールディングスの最大の特徴は、食品の支援だけでなく、店舗運営を行う企業ゆえに撤退店で出る備品や什器などを2HJに支援することで、同組織の運営に関わる部分にも手を差し伸べられている点だ。

同社のケースから、フードバンキング支援に、食品提供以外の形や手法があることが明らかにされた。

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