至極の芸、惜しげなく披露=具志堅師範と斉藤教師『夢の競演』=会館ぎっしり、爆笑喜劇も

斎藤教師と具志堅師範の競演

 「具志堅先生には幼い頃から本当にお世話になっているので、その恩返しだと思っています。その素晴らしい先生と一緒に舞台に立てること、これは私にとって夢の競演なんです」―終幕直後に若手筆頭株の斎藤悟さんに感想を聞くと、興奮冷めやらぬ様子でそう胸中を吐露した。沖縄県人会本部会館で25日午後、玉城流てだの会具志堅シゲ子琉舞道場の具志堅シゲ子師範、玉城流扇寿会斎藤悟琉舞道場の斎藤悟教師による『夢の競演』(山城勇実行委員長)が開催されて約500人が詰めかけ、増席しても立ち見が出るほどの大盛況となった。

 二人は艶やかな踊り「仲里節」の後、舞台の上で正座し、床につきそうなほど頭を下げ、ウチナーグチで歓迎の言葉をのべた。
 開幕式で山城実行委員長は「二人とも琉球芸能への想いが深く、ブラジルの大地に定着するよう奮励努力されてきた。この想いを若い世代に」と期待をのべ、島袋栄喜副委員長も「伝統芸能は移民の心の支え。具志堅先生は婦人会連合会を結成され、踊り以外にも尽力されている素晴らしい方。斎藤さんは日系社会全体でも力を発揮されており、そのお二人が共演される姿を見られるのは、まさに幸せ」と語った。
 しっとりした男女の交歓を描いた踊りから、笑いのたえない喜劇まで17もの出し物が披露された。助演した約50人の平均年齢は20代ではと思われるほど若い。所作に切れがあり、指先、つま先まで気遣いが行き届いた舞が次々に繰り広げられ、演目が終わるたびに観客からは大きな歓声と拍手がわいた。
 歌劇のセリフはどれもウチナーグチだったが観客はしっかりと理解し、ドッと繰り返し笑いが起きた。最後の喜劇「花染み小」では、具志堅師範がこっけいな侍役を見事に演じて、客席を爆笑の渦に巻き込み、芸風の広さを見せつけた。歌劇風の場面では、若手が周りでしっかりとした古典舞踊の舞を踊る中、具志堅さんだけが基本動作を踏まえつつも、足をバタバタさせる喜劇調で踊るなど、まさに独壇場となった。

終演後、出演者一同が記念写真

 観客の和宇慶朝俊さん(82、二世、サントアンドレ在住)は、「今まで見たことがないすばらしい競演。舞台に目が釘付けになった」、比嘉幸子さん(79)も「二人の踊りがオッチモ。全体的に踊りのレベルが高い。踊り手に若い人が多くて将来性を感じる」との感想をのべた。
 最後には二人と山城実行委員長に花束、斎藤さんから具志堅さんに二人の写真パネルが贈られ、客と一緒にカチャーシーを踊って閉幕した。
 具志堅さんは「今までやったことのない芝居をやりたいって、わがままをいったの。1回だけって。だからわざとフェイア(醜い)役をやった」との心中を吐露した。「夢の競演」の主役が、わざとコッケイな侍役を選んで見事に演じきった。キレイな役だけでない芸の深みを、喜劇から感じさせる圧巻の芝居となったようだ。

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 『夢の競演』では最後の喜劇の途中、二人の見せ場で突然、機械トラブルで伴奏音が出なくなった。にも関わらず、しっかりと劇を進行させ、二人は最後まで演じきった。閉幕後に斎藤さんにそのときの心境を聞くと「内心は本当にびっくりしたが、台本にないセリフも織り交ぜてなんとか乗り切った。こんなにお客さんに来ていただいて本当にありがたい」と感謝した。具志堅さんは80歳の少し手前、斎藤さんは32歳、年こそ祖母と孫ほども離れているが、まさに阿吽の呼吸で舞台を演じきった。場数を踏んだ二人だけに、少々のことでは動じない肝っ玉が備わっているようだ。

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