「サッカーコラム」日本代表とも互角に戦うのでは J1川崎に感じるうまさと強さ

FC東京―川崎 後半、2点目のゴールを決めた長谷川(左)を祝福する川崎・中村=味スタ

 一度でもおいしい料理を口にしたら、それまで普通に食べていたはずのまずい料理になかなか食指が動かない―。往々にしてあることだ。サッカーだって同じ。技術的にも戦術的にも洗練されたチームの戦いぶりを目にした後に、平凡なチームの試合を見たら「つまらない」と感じてしまっても仕方がない。

 その意味でサポーターというのは、チーム、そしてクラブにとって本当にありがたい存在だ。必ずしも面白い内容でなくても、勝利というご褒美を常に与えられなくても、「一つのユニホーム」の下に結束し、心の底から応援してくれるからだ。

 彼らのチームを支えようと思う原動力は、さまざまだろう。自分たちのチームが相手より実力で及ばなくても、勝負を諦めない姿に魅力を感じている人がいるかもしれない。だから、選手たちは、たとえ勝敗が決したと思われる試合でも、終了のホイッスルが鳴るまで全力でプレーしなければならない。そんな慈愛に満ちたサポーターたち。彼らにしても、自分の応援するチームが楽しいサッカーを展開し、強いに越したことはない。

 Jリーグにも、自チームの強さに酔いしれる。そんな幸せな人たちがいる。連覇を成し遂げたJ1川崎のサポーターだ。彼らは現在、サッカーで得られる喜びのすべてを享受しているといえるだろう。サックスブルーと黒のユニホームが披露する流れるように美しい攻撃は見ていて楽しいだけでなく、見る者の予想を良い意味で裏切るトリッキーさを秘めている。そして、守備も固い。リーグ最多タイの55得点(第33節終了時)をマークした攻撃面にばかり目がゆくが、失点も最少の26。これはリーグ5位につけるFC東京より「5」少ない。攻守に最高レベルでバランスが取れている。強いのは当然だ。初のリーグ優勝を飾った昨シーズンよりレベルは間違いなく上がっている。

 リーグ連覇を決めた11月10日のC大阪戦は1―2の敗戦。タイトルの価値が下がるものでは決してないが、素直に感情を爆発させることはできなかったはずだ。そして、約2週間を空けた第33節。FC東京のとの「多摩川クラシコ」が行われた味の素スタジアムは、その近さから“準ホーム”といえる。中村憲剛は、川を渡って応援に駆け付けたサポーターに「自分たちがチャンピオンだということを見せなければいけない試合だった」と試合後に語っていた。

 結果は川崎が2―0の完勝。その内容について、端的に表現したのが敵将が試合後の会見冒頭に発したこの言葉だった。

 「やはりチャンピオンチームは強かったということです」

 自身もG大阪でJ1制覇したことがあるFC東京・長谷川健太監督が脱帽する。それほどまでに力の差を感じさせられたということだろう。もちろん、FC東京がチャンスを作り出した場面もあった。しかし、プレーの精度と連携の面では川崎が一枚上だった。

 小林悠、大島僚太の主力が故障のために欠場した川崎。それでも、これまで出場時間が限られていた若手が輝きを見せた。先制点となった前半19分、FC東京の橋本拳人に対し初先発した20歳の田中碧が猛然とプレス。連動して中村も橋本を挟み込む。慌てた橋本が味方を確認せずに苦し紛れの横パスを出す。そのパスミスを狙っていたのが2年目の知念慶だ。ペナルティーエリア外から抑えの利いた右足ミドルシュートで先制点を奪った。

 現在の川崎の強さ。それを支えるのが、迫力を増した前線からのプレッシングだ。川崎のチェイスは、取るふりだけの「アリバイ」プレスと違い、本気でボールを狩りにいく。だから、相手は恐怖を覚える。この場面での橋本の判断と技術のミスを誘ったのは、まさにそれだった。

 2点目は対照的に、守備ではなく代名詞といえる攻撃力を遺憾なく発揮した。後半5分、起点はGK鄭成龍(チョン・ソンリョン)の正確なキックからだった。そこから守田英正、家長昭博、エウシーニョ、中村とつながる、再び受けたエウシーニョが放ったグラウンダーのセンタリングを知念がシュート。一度はGK林彰洋に防がれたものの、跳ね上がったルーズボールを長谷川竜也がヘッドで押し込み、今季初得点を挙げた。

 驚くのは、この8人を経由するゴールがわずか11タッチで生まれたことだ。2タッチ以上をしたのは「タメ」を作るために間を置いた家長と中村のベテラン2人だけ。あとはすべてがボールを1タッチで扱っている。ダイレクトで繰り広げられる、川崎の精度の高いパスワーク。それに対応できる守備はJリーグには存在しないだろう。

 どちらが強いのだろう。単純な疑問が浮かぶ。日本代表と現在の川崎だ。その昔、キリンカップには日本代表と天皇杯の優勝チームが出場した時期があった。1985年には、日本代表が読売クラブ(現在のJ2東京V)に0―1で敗れる結果となった。間違いなく読売クラブのほうが強かったのだ。現在では、そういう対戦カードは実現しないだろう。

 ただ、日本代表とも互角の試合を演じるのではないだろうか。そういう妄想を抱かせてしまうほど、今シーズンの川崎はうまくて強い。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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