【東名あおり】遺族、被告に憤り「謝罪すらない」

 なぜ最愛の息子夫婦は命を奪われなくてはならなかったのか-。神奈川県大井町の東名高速道路で昨年6月、「あおり運転」によって無理やり停車させられた男性=当時(45)と、妻=同(39)=が死亡した事故の初公判。被害者参加制度に基づき、検察官席の後方から法廷を見つめた男性の母(78)=静岡市=は「謝罪の言葉すらない」と、被告に厳しいまなざしを向けた。危険な運転がこの世からなくなることを願い、今後の法廷に臨む決意を新たにした。

 母は初公判後の3日夕、横浜地裁近くの会場で報道陣の取材に応じた。法廷で事故を記録したドライブレコーダーの映像を確認した瞬間を振り返り、「当時のことを思い出して泣いてしまった」。

 見つめる先には被告(26)の姿があった。「こちらを見ようともしない。今後も(態度が)好転する希望はない」と語り、あらためて厳罰を求めた。「家族の幸せな姿をもっと見ていたかった」。無念さをかみしめつつ、「同様の事故で不幸になる人がもう出ないようにしたい。あおり運転をなくすため、(意見陳述で)目いっぱい言うべきことを言いたい」と振り絞った。

 男性と高校時代から親交のあった男性(46)=同市=も初公判を傍聴。「被告は終始、人ごとのような感じだった。事実関係がきちんと明らかになる裁判になってほしい」と願った。

 「事実を知りたくて来たが、被告に反省の態度が見られず悔しい思い」。傍聴後にそう語ったのは、男性と仕事関係で付き合いがあったという男性(41)=同市。「危険運転致死傷罪の適用が焦点のようだが、そもそもあおり運転を明確に禁止する法整備が必要だと思う」と訴えた。

◆被害者を急追「海に捨てるぞ、こら」

 公判では、執拗(しつよう)に繰り返されたあおり運転の詳細や、停車後に被告が激しい口調で男性を問い詰めたことが明らかにされた。次女の供述調書も法定で読み上げられ、一家が不安に駆られる様子も浮き彫りとなった。

 検察や弁護側の冒頭陳述などによると、被告は中井パーキングエリア(PA)の通路に乗用車を止めてたばこを吸っていた際、男性に「邪魔だ、ボケ」と注意されて激高。走り去った一家のワゴン車を猛スピードで追い掛け始めた。

 妻が運転するワゴン車に追い付くと、前に割り込んで急減速する妨害行為を32秒間にわたって4回も繰り返し、車線を変更して逃げようとするワゴン車を追い詰めていった。停車時、一家のワゴン車と被告の車の車間距離はわずか2・2メートルだったことも判明、妻が避けきれずにやむを得ず危険な路上に止まったとみられる。

 PAでの発言を謝罪するためにスライドドアを開けた男性に対し、被告は「喧嘩(けんか)売ってんのか、海に捨てるぞ、こら、殺されたいのか」「高速道路に投げ入れてやんぞ」などと怒鳴りつけた。なおも謝る男性の胸ぐらをつかんで、車外に引きずり出そうとしたという。

 そうした被告の態度に、車内の緊迫した様子も明らかとなった。検察側が読み上げた次女の調書によると、被告が追い掛けてきたことに、妻が「どうするの。来ちゃったじゃない」と困惑すると、男性は「俺が謝る」と応じたという。停車後に被告が男性へ暴行を加えた場面では、「ママがやめてくださいと言ってパパの右手をつかんで止めに入り、姉の泣いている声が聞こえた」と振り返った。

 被告は同乗していた交際女性(23)になだめられてやめるまで、約2分間にわたって暴行や怒鳴るなどの行為を継続。トラックが追突したのはその直後だった。

© 株式会社神奈川新聞社