あおり運転、重大事故後も根絶至らず 全国で摘発急増

 幅寄せや進路妨害などの「あおり運転」の摘発件数が昨年比1・5倍のペースで推移していることが、警察庁のまとめで明らかになった。全国の警察が摘発を強化したこともあるが、重大事故が相次いだ後も危険な運転が後を絶たない実態が浮き彫りとなった。専門家からは、ドライバーの感情抑制につながる講習や教育が必要との声も上がる。

 警察庁があおり運転の具体例として挙げるのは▽前方の自動車に激しく接近する▽不必要に急ブレーキをかける▽執拗(しつよう)にクラクションを鳴らす-などの運転行為。同庁は今年1月、全国の警察に通達を出し、捜査の徹底や免許停止など積極的な行政処分を行うよう求めた。

 同庁の指示を受け、摘発件数は全国で急増。道交法違反の車間距離不保持の摘発は10月末時点で1万873件に上り、昨年1年間の数字を約3500件上回っている。このうち9割超の9864件が高速道路での違反だった。県内も同様に10月末時点で503件の摘発があり、すでに昨年1年間の件数(244件)の2倍を超え、高速道路での違反が306件を占めた。

 摘発が強化された一方で、危険な運転行為に起因する事故は県内でも相次いでいる。1月には横浜市保土ケ谷区の横浜横須賀道路で、ごみ収集車が横転し運転手の男性がけがを負う事故が発生。収集車の直前で急ブレーキをかけて事故を誘発したとして、韓国籍の男が自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)などの容疑で逮捕された。

 4月には伊勢原市の市道で、オートバイにあおり運転をした末に衝突して転倒させ、運転手の男性に重傷を負わせたなどとして、無職の男が同法違反(危険運転致傷)などの容疑で逮捕された。いずれの事故も直前に交通トラブルがあったとみられる。

 九州大学の志堂寺和則教授(交通心理学)によると、あおり運転は運転中のささいなことに逆上し報復として行われるケースが多いという。「危険な運転に及ぶドライバーは運転に自信を持っている場合が多く、自分が事故を起こすとは思っていない」と話す。

 危険な運転に巻き込まれた場合の対応策について、警察庁は「事故に遭わない安全な場所に避難して、110番通報してほしい」と注意喚起。交通犯罪に詳しい同志社大学の川本哲郎教授は、怒りの感情を自制するアンガーマネジメントなどを例に挙げた上で、「教習所では技能面だけではなく、運転適正の教育についても今以上に手厚くする必要がある」と訴えている。

高速道路上でのあおり運転を受けて横転したごみ収集車=1月

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