ふたりの出会い
峯田:こんなことになるとわかってたからな、どっかで俺。
──癌の話を聞いたときからですか?
峯田:いや、もう全然前から。もっと酷かったから。酒、酷いときとか。
イノマー:アルコール依存症のダメなオイラを知ってるからね、峯田くんは。
峯田:野垂れ死ぬんだろうな、みたいな(笑)。10年前とかね。
イノマー:峯田くんと一番よく会ってたのは10年前くらいだけど、当時がいちばん酷かったよね。
峯田:やりたいこと全部やってましたよね?
イノマー:10年前、今の峯田くんの年齢くらい。廃人への準備期間みたいな。
──そもそも、ふたりの最初の出会いはいつ頃だったんですか?
イノマー:出会いだけだったら、スッゲー昔(笑)。オナマシをやってなかったかもしんない、出会ったばかりの頃は。『恋のABC』(2002年4月)を出す前だもん。
峯田:ゴイステが『さくらの唄』(2001年7月)っていうアルバムを出す前です。だから、会ったのは2000年くらい?
──イノマーさんがオリコン時代ですか?
イノマー:たぶん、そうなる。
峯田:まだ辞めてなかったんじゃないかな。
──仕事で会ったんですか?
イノマー:仕事、仕事。でも、その後に、オイラの2度目の結婚式のパーティーに峯田くんが来てくれて。呼んでもないのに(笑)。
峯田:あはははは。
イノマー:その会場のステージの上で、なぜかぶ厚いラブレターをもらった(笑)。
峯田:結局、奥さんとは別れたんだけどね。
イノマー:うん、離婚した(笑)。
理想と現実
峯田:高校3年生でイノマーさんが作ってた雑誌『インディーズ・マガジン』(1995年創刊)を知って、イノマーさんの文章と出会って。面白いライターというか、面白い文章書く人だなぁ〜〜って。
──会いたいな、と思っていた?
峯田:ずっと会いたかった。俺、だからバンドやって、いつか自分の出したCDとか、イノマーさんにレビューとか書いてもらうのが理想、憧れだった。
イノマー:でも、実際に会ったらこんな男でね(笑)。申し訳ないよ。
峯田:いや、実際に会ったら本当に面白くて、良くしてもらって。
イノマー:いや、何もしてない(笑)。
峯田:で、イノマーさんが『STREET ROCK FILE』(2001年創刊)って雑誌を新しく作るってときにまたお世話になった。長崎にもね、来てくれて。表紙の撮影して。
イノマー:そうそうそう。あれは楽しかったし、衝撃的だった。『さくらの唄』のツアー、九州方面に密着させてもらって。あんときのね、ゴイステのライブがハンパなかった。負けてらんねー! ってゲンコー書いたもん。
峯田:あはははは。
イノマー:離婚してオリコンも辞めて、生命保険とか解約して、それを元手にやることもないのに下北沢に事務所作って。ひとり引きこもって事務所でオナニーばっかしてた。
──仕事がなかったんですか?
イノマー:うん。ま、どうにかなるでしょ、って思ってたら、『STREET ROCK FILE』(宝島社)を創刊することになって。
──オナマシはもうやってたんですか?
イノマー:オナマシの初期ね(笑)。音源も出してなかったもん。当時、ギターのオノチンとずっと一緒にいた。オノチンも暇でやることないから、事務所で音楽聴いたり、お菓子食べたり、お絵描きしたりして。
──小学生みたいですね。
イノマー:いや、中学生かな? 恋バナばっかしてた。SMAPの「らいおんハート」とか聴いてた。オノチンに好きなコがいて「告っちゃえよー!」とか言って電話したりして。オナマシはその延長だから。
峯田:吉祥寺とかでライブやってましたよね?
イノマー:そうそう、オイラに黙って峯田くん、観に来てくれてたみたいで。
──なんで黙ってたんですか?
峯田:自分から声かけらんない。そんな仲良くなりたいとか……ムリ。
イノマーはすごいボーカリスト?
──何だか今日は貴重な話が出てきますね。
イノマー:貴重なのかな?(笑)
──憧れてたイノマーさんとよく会ったりするようになったのは?
峯田:雑誌『STREET ROCK FILE』で、ふたりがダラダラ喋るコーナーがあって、その取材のたびに下北とかで会って。
イノマー:オイラはお酒、峯田くんはジンジャーエール。ゴハン食べながら、ずっと女のコの妄想話をするだけの時間。
峯田:『真夜中のふたりごと』って単行本(2002年刊行)を出すためにいろんなとこ行ったもんね? 女の子に会いに行って。あと、ラジオもやって。
イノマー:週の半分くらい会ってた(笑)。
──峯田さんがオナマシを生で初めて観たのはいつだったんですか?
峯田:『さくらの唄』を出す前だから、2000年くらいじゃないかな。吉祥寺のライブハウス。
イノマー:その辺のことは峯田くんがオナマシの『彼女ボシュー』のライナーで書いてくれてる。
峯田:当時、付き合ってた彼女がけっこう音楽好きな人で。彼女の部屋に遊びに行ったら『彼女ボシュー』があったんですよ。で、なんでこんなの持ってんの!? って。
──こんなの(笑)。
イノマー:あんなの(笑)。
峯田:こういうのを聴くタイプの人じゃなかったんで、びっくりした。
イノマー:良い話だ。
──峯田さんから見たオナニーマシーンはどうだったんですか?
峯田:いやもう最高すぎる。最初から印象変わんなくて、みんなどう思うかわかんないですけど、ボーカリストとしてすごいんですよ、イノマーさんは。
イノマー:さすが。わかってる!(笑)
──どういう部分ですか?
峯田:上手い下手とかじゃなくて。あんだけオノチンさんのうるさいギターの中でちゃんと埋もれない、通る声を持ってる。どこにもいないタイプのボーカリスト。本人はボーカルとも何とも思ってないけど。
イノマー:やっぱり、峯田くんは違うな。そういうこと、わかっちゃうんだな。オイラが言わなくっても。バレちゃう(笑)。
峯田:一度聴いたら、残る声なんですよね。
イノマー:もういい、もういいよ(笑)。オイラが言わせてる感が。あははははは。
峯田:いや、でも、音程も外れてるしさ。上手くはないのに。でも声がすごい。喋っててずっと思ってた。
イノマー:言ってよ〜〜、もっと早く。舌切っちゃたよ(笑)。
ライター・物書きとしてのイノマー
峯田:イノマーさんと知り合ってから、ふたり、めっちゃ仲良いってイメージあると思いますけど、どっかやっぱり仲良くなりすぎてない部分があって。距離はあるんですよ。
──あ、そうなんですか!? 意外ですね。
イノマー:そうね、そこは考えてる。ズブズブの関係にだけはならないように、って。オイラ、実はこれでもね(笑)。
峯田:お客さんからしたら“イノマー&峯田”ってコンビみたいな感じだと思うんですよね。でも、それはちょっと違うというか。
──そこは演じてるんですか?
峯田:だと思います。でもすごい好きな人だし。男の人にラブレター書くなんて(笑)。
──そこまで思いが強いと話せないですよね。
峯田:人が書く文章に惚れるってあるんですよ、多分。
イノマー:だからだと思うよ。文章からオイラに入ってきたから。完全にそれってアイドル(偶像)だからさー。峯田くんが勝手に頭ん中、妄想で作り上げた(笑)。
峯田:そうなんでしょうね。でも、一方的にだけど。『インディーズ・マガジン』、ヌンチャク解散のときのイノマーさんの「ヌンチャク解散に寄せて」っていう文章。「ザーメンまみれの男たちが旅を終えた」っていう1ページのコラムが忘れられない。本当にこんなこと書いてくれる音楽ライター……こういうところに、こういう人がいるんだな、っていうのがずっと忘れられない。
イノマー:いや、死んだわけじゃないから。
峯田:だから出会いが雑誌の中の文章だったから、いくら仲良くなってもあん時のイノマーさん。それはずっと変わんない。
イノマー:惜しい人を……って、まだ生きてるから(笑)。何かヤだな。
──その話、初めてされました?
イノマー:峯田くんとオイラ、そういう話は一切しないから。この20年。初めてだよ。
峯田:いや、イノマーさん、ちょっと弱ってるし。死にそうだからこういう話もちゃんとしないといけないな、と思って。
イノマー:死なないといけない流れに……。
峯田:本当ね、声も好きだし、曲も好きだけど、本当にこの人の文章はすげぇんだ! マジで。若い人が読んだらブッ飛ぶと思うんだよな。
イノマー:弱っちゃったな(笑)。
峯田:忙しいほうがいいよね、ちょっとくらい。
──両手空いてますからね。
イノマー:両手もチンポも空いてる。
峯田:声なんかなくったってね?(笑)
イノマー:要らないよ、そんなもん(笑)。
──書くほうもこれからすごい楽しみですね。
イノマー:まー、そうだね。第二の人生は。
峯田:一個感覚なくした人が、もう一個の残った感覚で研ぎ澄ましてやる仕事も見たいよね。
神様の悪ふざけ
──ところで、オナニーマシーンの20周年記念アルバム『オナニー・グラフィティ』が完成しましたね。
峯田:良いジャケっすね。
──これは今年の8月、ソフト・オン・デマンドに毎週通ってAVジャケットのデザイナーさんに作ってもらったんです。
イノマー:デマンドの素人モノを意識して。
──プロモーションビデオもAV監督に撮ってもらって。
峯田:発売が12月っすか?
──12月5日です。
峯田:おめでとうございます。もう何枚目になります?
イノマー:14か15枚目じゃないかな? バカだよね。変わんないよ。変わんない。全然変わんない。なーーーんも変わらない。
──20年、何も変わらず。途中、メジャー・デビューもして。
イノマー:ドーーーン! と落ちて(笑)。
峯田:メジャー行ってんすもんね。
イノマー:体感時間5秒くらい(笑)。
峯田:メジャーの洗礼がね(笑)。
イノマー:でも、よくもまー、同じメンバーでずっと何も変わらずやってきたなと思って。
峯田:すごい、本当に。いや、同じメンバーでやるって本当にすごい。
──癌になったことを最初に伝えたバンドマンは峯田さんだったそうですね。
イノマー:メールで伝えたら、次の日に電話がかかってきて。「イノマーさん、面白くなってきましたね?」って。ふたりで大爆笑。
峯田:あの時期、本当に忙しくて。ドラマの撮影で横浜行ってた夜中。撮影の合間に電話で話して。その直前にマネージャーの江口くんから聞いてたんですよ。「イノマーさんが大変だ!」って。「マジで!?」みたいな。でも俺、予感っていうか……大して驚かなくて。
イノマー:うん、驚いてなかった(笑)。
峯田:「こっからっすよね?」って。こうなるべき人だな、って。
イノマー:実はさ、スゲー落ち込んでたんだけど……そうだよな、面白いよなこれ、って。これを面白いと思わないとイノマーじゃない! って、脳ミソがパチンって切り替わる音がした。癌、バンザイ! って。
峯田:バカだなぁ(笑)。なんでこんなバカなんだろう?
イノマー:オイラも思う。バカだな、って。だってさ、なんでわざわざ癌になるのよ?
峯田:羨ましいよ。普通のバンドマンが同じ状況だったら立ち直れてないと思う。イノマーさんだから神様が「こいつバカだからこんくらいにしとこう」みたいな感じで。普通の人だったらもうヘコんで終わりで、もうバンドもやめますって。
イノマー:そう思う(笑)。神様は「20周年? 20周年はさすがに手ぶらじゃダメだろう!」って、癌っていうお土産を持たせてくれた。
峯田:だって世界中、どこ探してもこんなバカみたいなこと唄ってるバンドを20年やってる人間なんていないんだから。そんくらいの価値がつかないとね、ボーカルが。
イノマー:価値が癌かよ?(笑) 神様、見てるな〜〜。チェック厳しい。
峯田:神様っているね。ちゃんとね。バンドも生き物だから成人式迎えて、ステージをひとつ上に、するとステージ5だっけ?
──上げちゃダメですよ(笑)。
イノマー:それ、死んでるから。
峯田:これがオナニーマシーンの「ステージ5」ですよ。こんな曲ばっかやってきたんだから。そりゃまともでいらんないよ。こんだけのことになってくんねぇと。
イノマー:因果応報だね。
峯田:結果としてはなるべくしてなったっていう。
死んだらおしまい
──このアルバムのツアーができたらいいですね。
イノマー:来年に考えてるよ。2月に名古屋、大阪、東京で。そのときまでにベースを持てるように。今、重くて持てないんだもん。来年は銀杏BOYZ、1月15日に日本武道館公演からのスタートだもんね? 楽しみだーー。
峯田:今ツアー中で(対談が行なわれたのは11月22日)。次、仙台で、来年1月が武道館。そっからアルバムのレコーディング。もう5年出してないから。
イノマー:今のメンバーでのアルバムってハンパないね。去年の日本武道館、スゲー良かった。あれ観て、オイラ、変わったんだよね。上手く説明できないんだけど。
峯田:本当ですか? 嬉しいです。
イノマー:素晴らしかった。しゃいこー。
峯田:嬉しいな。オナマシでもやってくださいね、日本武道館。
イノマー:いや、それはちょっと(笑)。
峯田:できるよ。やれるよそんなの。
イノマー:それは大事件だ。
峯田:ラママもいいけど、できるよ。ワンマンでやってほしいね、日本武道館。
イノマー:…………。
峯田:いや、オナニーマシーンが武道館できたら日本のロックは変わるね。変わる。そういうことだよね?
──目指しますか?
イノマー:め、目指そっかな?(笑) 30周年の目標に。だけど日本武道館に失礼だよ〜(笑)。
峯田:あと、イノマーさんがこの状態でレコーディングもしてほしいけどな。そんなCD聴きたいけど。何言ってんのかわかんないような。
イノマー:アウアウアアアアア♪
峯田:プシュプシュ言ってるだけの。環境音楽みたいなCD。どっかで良くなんないでほしいと思ってっから。
イノマー:カンベンしてよーーー(笑)。
峯田:治ってはほしいけど。お腹とか痛いところは良くなるんだけど、声だけは治んないでほしい。すごいボーカリスト。
イノマー:ベロがないボーカリスト。世界にひとりだよ、そんなの。知らないよ(笑)。
──峯田さん、20周年を迎えるオナマシに向けて最後に一言お願いします。
峯田:いろんな人のおかげでね。ホントいろんな人に迷惑をかけてきて。でも迷惑はかけてきたかもしんないけど、イノマーさんはイノマーさんなりのイノマーさんにしかわかんない意地というか、それがずっと消えない。それはわかるんで。
イノマー:オイラの意地かぁ……。
峯田:それがなくなんない限り、どんな状態になってもイノマーさんはステージに立ってる人だと思うんで、人前に立てる人だと思うんで、この感じでいてほしい。
イノマー:かなりボロになったけど(笑)。
峯田:ベロがなくなっても、チンコが立たなくなっても、この感じでいてほしいな。こういう先輩がいるから俺もやれる。
イノマー:ホントかよ?(笑)
峯田:こういう感じにはなりたくないけど、俺なりのこういう奴になりたい、こんな感じでステージに立ちたいってのがある。イノマーさんはそれをずっと教えてくれた人。俺もバンドは22年なんですけど。こういうバンドが20年も存在できるっていうのは尊敬します。
イノマー:なんか、ごめん(笑)。
峯田:「かきくけこーまん♪」だもん(笑)。でも、死んだら終わりだからね!
イノマー:僕は死にましぇーーーん!
峯田:「死んだらおしまい」でもいいんだけど、もうちょい先でいいじゃん。もうちょっとやりましょうよ!
イノマー:アウアウアアアアアアアア♪