2018年シーズンのF1が閉幕した。しかし2019年に向け、すでに各チームは始動している。アブダビGPが終了した2日後には、同地で今年最後の合同タイヤテストが行われた。
このタイヤテストは2018年のマシンとパワーユニットで走ることが義務付けられているため、トロロッソ・ホンダに搭載されたパワーユニット(PU)は、今シーズン使用されたモノの中から状態を見て適当なものが選択されている。
4年前のアブダビでは、ホンダはF1に復帰するにあたってマクラーレンと組んでテストを行った。だがこれはホンダが7年ぶりに復帰するための例外的な措置で、今回は2019年から組むレッドブルに対してのパワーユニット供給は行っていない。
車体に関しても、2日間とも最初の1時間は新しいパーツを試すことができ、またセットアップも変更できるが、それ以外はマシンに新しいパーツを使用することも、セットアップを変更することも許されていない。タイヤテストではパーツやセットアップを変えると比較が困難になるからだ。
しかし、チーム側やPUマニュファクチャラー側が何もできなかったわけではない。『モノ』は変えられないが、『ヒト』の交代や変更、追加には制限がないのだ。
例えばトロロッソ・ホンダにいたピエール・ガスリーは、このアブダビテストでは来年移籍するレッドブルのマシンを走らせ、129周を走破した。ベストタイムも1分37秒916と、前日のマックス・フェルスタッペンのタイムをしのぐスピードを披露して、2018年を締めくくっている。
トロロッソ・ホンダも来季復帰するダニール・クビアトにSTR13のステアリングを握らせていた。こちらはベストタイムこそ1分38秒862と全体の8位だったが、周回数はこの日トップの155周を走行。また初日はショーン・ゲラエルが150周と、10チーム中最も多くの周回を走っていた。
■2019年シーズンはホンダの現場スタッフが約2倍に。アブダビGPを視察
アブダビテストでの新たな顔は、ホンダ陣営にもあった。来シーズンは2チームにPU供給を行うホンダは、シーズン中盤からスタッフの拡充を図っていた。10月中旬に行われたアメリカGPで、田辺豊治ホンダF1テクニカルディレクターはこう語っていた。
「2チーム供給となっても開発側のスタッフの数は大きく変わりませんが、現場スタッフは約2倍に増えます。シーズン中から検討を重ねて来ましたが、ほぼ見通しが立ちました」
詳細は明らかになっていないが、増員されるスタッフの中には、ホンダの外部から採用したスタッフが数名含まれている。ただし、田辺TDは「外部から獲得したスタッフに関しては、ホンダのやり方に慣れてもらうという部分はあるものの、現場を知っているという点ではスムーズに働くことができると思う」と心配はしていない。
むしろ、課題はホンダ内部のスタッフだという。それは、「現在HRD SakuraでF1に携わっているスタッフの中から新たに現場に来るスタッフについては、開幕までにある程度トレーニングを積んでもらう必要がある」(田辺TD)からだ。
アブダビGPでは、そのスタッフが現場に来ていた。木曜日に行われたトロロッソ・ホンダの集合写真では、ホンダのシャツを着た数名のスタッフが輪の中に入らずに、ピットウォールからトロロッソ・ホンダのスタッフを見ていた。それは、彼らが2018年を戦った同志ではなく、来年のためにアブダビに視察に来たトレーニング部員だったからだ。
ただしサーキットに入るためにはパスが必要になる。そして、その数は年間で定められている。
「パスの数が限られているので、チーム(トロロッソ)からトレーニングパスを少し分けてもらい、それに(我々が持っている)ゲストパスも使って、来年から新たに現場で仕事をするスタッフに少しでも早く現場での経験を積んでもらおうとアブダビGPに連れて来ました。彼らはグランプリ後のテストもそのまま残って仕事してもらいます」(田辺TD)
トレーニングパスというのは、現場で通常のスタッフと同様に実務を行って仕事ができるパスのこと。これに対してゲストパスというのはガレージに入ることはできるが、実務作業ができないだけでなく、クルマに触ることはもちろん、パソコンをいじることもできない。それでも何をやっているのかを見たり、エンジニアたちの会話を無線を聞いてたりすることができるため、現場がどのように動いているのかを目と耳で学ぶことができる。
もちろん、アブダビGPに来る前に、彼らはすでにミルトンキーンズにあるホンダのファクトリーであるHRD MKでトレーニングを済ませている。このアブダビGP視察は、田辺TDによれば「来年2月にスペイン・バルセロナでスタートする合同テストに向けたトレーニングを行う最後の実戦場所」となった。
車体もパワーユニットも2018年仕様のままで行われたアブダビテストだったが、ホンダのトラックサイドサポートエンジニアとメカニックに関しては、今回のアブダビGPから2019年シーズンに向けてのスタートを切っていた。