金属行人(12月11日付)

 「有事の金」と言うことなのか、貴金属の金がにわかに値上がりしている。円高気味のため日本の店頭価格では分かりにくいが、ニューヨーク先物市場のトロイオンス当たり価格は先週末で1253ドルと、1200ドルを割っていた夏場から70ドル近く上昇した▼特に先月末以降の上昇カーブは急である。世界的に株安が進んだ時期と重なっており、米中貿易摩擦に絡んだ心理的な影響が、世界のお金の動きを揺るがしている一端が窺える。リーマン・ショックやアジア通貨危機。約10年に一度の周期で起きている世界的な金融危機が、そろそろやって来るのだろうか▼2008年当時の海外鋼材市況を振り返ると、リーマンブラザーズが破綻する9月の前月ごろから変調が出始めている。今年は10月から11月にかけてアジアの鋼材市況は急落した。リスクに敏感な金と景気を先取りする素材の鉄鋼。二つの金属の値動きからも心配なところはある▼ただ、かつてはお金としても使われていた金属の価値は、多少の揺らぎこそあれ無くなることはない。アジアの鋼材市況も先週ごろから反発の気配が見られ、そろそろ底値が近そうな雰囲気がある。ここで落ち着き、危機の再来も杞憂で終わるのかどうか。

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