「全てを踏みにじられた」 100ミリシーベルトの線引き 失望 被爆体験者第2陣訴訟・原告全面敗訴

 司法判断で初めて「被爆者」の範囲を広げた長崎地裁の判決から約3年。10日の福岡高裁判決は一転、被爆者と認められた原告10人の救済すら否定した。「全てを踏みにじられた」。被爆体験者第2陣訴訟の原告161人の全面敗訴。被爆地域拡大へ振り出しに戻されたどころか、一層高いハードルを突きつけられたとして、原告らは一様に失望した。
 「棄却」「却下」-。法廷内に次々と響く裁判長の言葉に傍聴者の表情が曇っていく。高裁前で掲げられた「不当判決」の垂れ幕の横で原告らはうつむいた。
 「この先どこを向いて戦っていけばいいのか」。閉廷後、原告団長の山内武さん(75)は「腹立たしい」の文言を繰り返しながら不安を語った。行政に加え司法による救済をも否定されたと映る二審判決。「全てを踏みにじる結果。こんな不条理な判決があるのか、情けない」と声を震わせた。
 判決では、年間100ミリシーベルト以下の低線量被ばくによる健康被害を科学的知見がないとして認めなかった。一審判決で一部勝訴の根拠となる「年間被ばく線量」の新基準を引き出した本田孝也・県保険医協会長(62)は「年間100ミリシーベルトを超える被ばくは、かなりハードルが高い。ここで線引きされると新たな被爆者は誰も生まれない」と懸念した。
 弁護団の三宅敬英弁護士も100ミリシーベルトの基準については「今の被爆者ですらほとんど認められない高い数値。ほとんどの被爆者が被爆体験者になる」と指摘。被爆者との「整合性」の問題を最高裁で争っていく姿勢を示した。
 判決を受けて中村法道知事と田上富久長崎市長はともに、関係機関と連携しながら「被爆体験者への支援の充実に努める」とするコメントを発表した。

判決後の記者会見で厳しい表情を見せる原告団長の山内さん(右から2人目)=10日午後3時11分、福岡市中央区

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