シーズンオフ技術解説:20年で飛躍的進歩を遂げたF1エンジン。メルセデスが誇る耐久性の高さに迫る

 2018年シーズン、コンストラクターズチャンピオンシップ5連覇を達成したメルセデスは、パワーユニットの耐久性において圧倒的な安定感を見せた。前年と比べても年間で使用できるコンポーネントの数が厳しく制限されている中で、彼らの誇る耐久性はどのようにして築き上げられたのだろうか。

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 1基のレーシングエンジンをここまで長く使い続けることは、F1GPの長い歴史でもこれまでなかったことだ。ほんの1年前と比較しても、エンジン寿命は約40%伸びている。

 しかも驚くことに、パフォーマンスも同時に向上している。メルセデスV6ハイブリッドの生みの親アンディ・コーウェルが、その秘密を語ってくれた。

 ここでもう一度おさらいすると、2018年はICE(エンジン本体)、ターボコンプレッサー、MGU-H(熱エネルギー回生システム)が年間3基、そしてMGU-K(運動エネルギー回生システム)、ES(エナジーストア)、CE(コントロールエレクトロニクス)は年間2基しか使えない。つまりICEなどの3ユニットは、2017年には1基あたり5戦で交換できたのに対し、今季は7戦使い続けなければならなかった。さらにMGU-Kやバッテリーは、10〜11戦の耐久性が要求された。

 そんな中でメルセデス製パワーユニットの信頼耐久性は、群を抜くものだった。

■2018年シーズンのパワーユニット使用状況

ドライバー チーム パワーユニット V6 Turbo MGU-H MGU-K ES CE

ハミルトン メルセデス メルセデス 3 3 3 2 2 2

ボッタス メルセデス メルセデス 4 4 4 3 3 3

ベッテル フェラーリ フェラーリ 3 3 3 2 2 2

ライコネン フェラーリ フェラーリ 3 3 3 2 2 2

リカルド レッドブル ルノー 5 6 5 5 4 4

フェルスタッペン レッドブル ルノー 4 4 4 4 3 3

ペレス フォースインディア メルセデス 3 3 3 2 2 2

オコン フォースインディア メルセデス 3 3 3 2 2 2

ストロール ウイリアムズ メルセデス 3 3 3 2 2 2

シロトキン ウイリアムズ メルセデス 3 3 3 2 2 2

ヒュルケンベルグ ルノー ルノー 5 6 5 4 4 4

サインツJr. ルノー ルノー 4 4 4 3 3 3

ガスリー トロロッソ ホンダ 8 8 8 6 3 3

ハートレー トロロッソ ホンダ 8 8 8 7 3 4

グロージャン ハース フェラーリ 3 3 3 2 2 2

マグヌッセン ハース フェラーリ 3 3 3 2 2 2

バンドーン マクラーレン ルノー 4 4 4 3 3 3

アロンソ マクラーレン ルノー 4 4 4 4 3 3

エリクソン ザウバー フェラーリ 4 3 3 2 3 2

ルクレール ザウバー フェラーリ 3 3 3 2 2 2

■20年で飛躍的に進化したF1エンジン

「20年前のF1と比較すると、F1エンジンの開発の歴史には感慨を覚えざるを得ない」と、コーウェルは言う。

「当時は金曜日に1基、土曜日の朝に1基、予選用に1基を投入。さらに決勝当日には、朝のウォームアップ用に1基、レース用に1基と、1台あたり5基のエンジンをGP週末に投入していた。年間16戦だったら、80基ということになる。それが今はシーズンを通じて、たった3基なんだからね」

2018年シーズンに高い耐久性を見せたメルセデスPU

「そして予選時とレースでのパワー差は、20年前に比べれば非常に少ない。その意味するところはエンジンの長寿命化のために、パワーを抑えたりはしていないということだ」

「設計から開発、パーツ製作、メンテナンスに至るまで、実に緻密な作業を行ってきたおかげだと自負している。CAD(コンピューター支援設計)を始めとするコンピューターによる開発サポートが大きかったし、パーツの材質の進歩、表面仕上げの精度や潤滑油の飛躍的な進化も無視できない」

(技術解説その2に続く)

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