「難民問題は人類の危機」、芸術家が映画で訴える

森美術館キュレーターの近藤氏

世界では今、約7000万もの人々が紛争や気候変動などに追われ、さまよっている。現代美術家のアイ・ウェイウェイは、23カ国40カ所の難民キャンプや国境を巡り、ドキュメンタリー映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』を2017年に発表した。日本で上映が始まる1月12日に先立ち、東京・六本木の森美術館では1月20日まで「カタストロフと美術のちから展」を開催中だ。同展キュレーターの近藤健一氏に話を聞いた。(瀬戸内千代)

六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展でもある同展には、テロや震災といったカタストロフ(大惨事)をテーマに40組の作品が並ぶ。

社会に対する美術の力を問い続けてきた近藤氏は、「アクティビストでもあるアーティストたちの制作活動が展覧会の一つの核。ウェイウェイは外せないと思った」と語る。

2009年に同館で初個展を開いたウェイウェイは今回、古代ギリシャの冒険譚『オデュッセイア』を思わせる「オデッセイ」を出品した。壁一面に、難民の長距離移動やテント生活、ボートで漂流する人々や、打ち上げられた小さな亡きがらなどが描かれている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、地中海では2016年に5000人以上の難民が命を落とした。支援が追い付かず、2017年の犠牲は3000人以上、2018年も11月上旬に2000人を超えた。

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「ギリシャは、アフリカや中東から欧州を目指す多くの難民がたどり着く所だ。作品には、彼が映画取材で訪れた各地の難民の様子や自身の姿、『境界を開けろ』『誰も非合法ではない』といった悲痛な叫びが描き込まれている」(近藤氏)

北京五輪の「鳥の巣」のデザイナーでもあるウェイウェイは、政府批判から迫害に遭い、2015年以降、中国に帰れない状況にある。難民問題を人間問題と捉え、「無関心こそ人類の危機」と発言している。

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映画には、環境難民など、国連が1951年に採択した難民条約の定義に収まらない「難民」の増加も記録されている。1月12日からシアター・イメージフォーラム(東京・渋谷)ほか全国で順次公開。劇場拡大と難民支援のためのクラウドファンディングは、12月28日まで実施中だ。

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