反政府デモに直面するフランスのマクロン大統領|マクロン氏の経歴や今後の見通しは?

ここ最近フランスではエマニュエル・マクロン大統領に対する反対デモが続いています。2017年の大統領選挙で「前進!(En Marche!)」からの支持を受けて大統領に就任し、議会選挙でも勝利を飾ってきたマクロン大統領ですが、ここにきて国民の政権に対する不満が高まっています。ここで改めてマクロン氏の経歴と政策、今後の展望について確認してみることにしましょう。

マクロン大統領の経歴|史上最年少でフランス大統領に就任

マクロン氏は1977年生まれの40歳。2017年に史上最年少でのフランス大統領就任を果たしています。父親は神経学者、母親は医師という家庭に育ち、パリ政治学院や「フランス随一のエリート官僚養成学校」と言われる国立行政学院など名だたる名門学校を卒業しています。
卒業後は、フランス財務省に勤務し、2008年にはロスチャイルド銀行に転職。副社長格にまで昇進しています。銀行を辞めた後に政界に入り、社会党のオランド大統領の下で側近をつとめ、2014年に経済相に就任しています。在任中には、年間5回に制限されていた商業施設の日曜営業の拡大、長距離バス路線の自由化など、規制緩和を進める「マクロン法」と呼ばれる法律を可決させています。
プライベートでは、25歳年上の妻ブリジット氏の存在が注目を集めています。高校時代の教師であったブリジット氏は既婚で3人の子どもがいましたが、当時17歳のマクロン氏が猛アタック。10年後に見事ゴールインを果たしています。

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日本とは異なるフランスの政治制度

マクロン氏は「大統領」として選出されました。フランスでも大統領は強大な権限を持ちます。しかし、フランスではそれと並んで首相が存在し、内政について広範な権限を持ちます。形式上大統領が首相を任命しますが、事実上は下院多数派の支持を得なければなりません。そのため、大統領からすれば大統領与党が下院の過半数を有することが極めて重要であるといえます。
現在与党の共和国前進は、577議席中312議席と単独過半数を有しています。その結果、首相にはマクロン大統領に近いフィリップ氏が就任しました。そのため、マクロン大統領からすればきわめて政権運営しやすい状況であると言えるでしょう。

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絶望の中で生まれた大統領

マクロン大統領は極めて特殊な状況で大統領に就任しました。その背景にあるのが、フランス経済の長期的低迷と社会不安による政治不信です。2009年の金融危機以降、フランスでは7%程度だった失業率が9%を超えるようになりました。とりわけ、2013年から2016年にかけて失業率は10%超にまで達しました。また、2015年にはパリで、2016年にはニースで大規模なテロが発生するなど、パリのテロ以降2017年5月までに230人もの人がテロで犠牲になりました。
こうした結果、政治的な批判は既成政党に向かいました。そのため、2017年大統領選挙では、当時現職のオランド大統領のみならず、与党社会党や、かつてサルコジ大統領を輩出した共和党も苦戦することとなりました。その結果、善戦したのが、極右・国民戦線のルペン氏と、第三政党から出馬し清新なイメージを武器にしたマクロン氏でした。

マクロン政権の改革と批判

2017年の大統領選挙ではマクロン氏はいわば消去法で選ばれました。主要政党の候補でもなく極右でもない候補として、選挙に勝つことができたのです。そのため、彼の政策そのものは大きな争点とはなりませんでした。しかし、就任後は政策が問題となります。マクロン政権はこの点で大きな批判を受けているのです。
先述のように、フランス経済は苦境にあります。しかし、EUの財政赤字を国内総生産(GDP)の3%に抑えるルールもある関係から、マクロン政権はこの数値を堅持することを目標に財政支出の削減を図りました。そのため、打ち出された政策は緊縮政策という、日本でいうところの「痛みを伴う改革」です。
マクロン大統領は相次いで改革を打ち出しています。まず、労働規制の緩和のための法改正を行いました。それに対して、フランスでは伝統的に強い労働組合が強く反発し、反対デモやストライキが頻発しました。特に2017年9月12日に起きたデモは22万人強が参加したと言われています。2018年にも12万人におよぶ公務員削減などを打ち出しましたが、3月には数万人規模のストライキが起こりました
そして、今回燃料税の引き上げを打ち出しました。燃料税はガソリンなどに課税される税です。マクロン政権は自動車が排出し地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減と財政赤字の削減を両立する手段として位置付けていました。しかし、燃料税は庶民に対して広く負担となることから、有権者のマクロン政権が推進する一連の改革への不満が爆発しました。その結果起きたのが、11月24日、12月3日にパリで起きたデモでした。その結果、マクロン政権は燃料税増税の凍結をせざるを得なくなりました

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経済の低迷と支持率の下落

一方で、目に見える成果は出ていません。経済成長率は2017年には一時期0.8%に達していましたが、最近では0.2%に落ち込んでいます。また、失業率も9.1%と高止まりしています。さらには、フランス産業の象徴的存在である自動車メーカーのルノーをめぐって、ゴーン元日産自動車会長の逮捕によって、フランスの雇用を支えるルノー・日産連合が危機にさらされています。
こうした情勢を受けて、マクロン大統領の支持率は12月4日には23%と低迷しています。史上最も人気のない大統領と呼ばれたオランド前大統領と同じかそれ以上のペースで支持率を落としているのです。

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