HOMMヨ「生きることの切なさ、生きづらさ、虚無の中から発せられる、大いなるYES」

ただただ衝動のままに

——まず結成のことから。結成して何年ですか?

ニイマリコ(G/Vo)13年目です。

——じゃ、学生時代から。

みちゃん(B)そうです。ニイちゃんは高校の軽音部の憧れの先輩で。

ニイマリコみちゃんも目立ってたんだよね。バンドをやるなら絶対この子を誘おうって。卒業してから誘ったんですけど…。

みちゃん私は浪人中で勉強しなきゃって時に(笑)。でもニイちゃんは尊敬してたし信じ られないぐらい嬉しくて。マジっすか?って感じで。とりあえず2人で曲作って、いいじゃ ん!いいじゃん!って盛り上がってましたね。

——こういう音がやりたいっていうより、もっと衝動的な?

ニイマリコですね。私はパンクやグランジが好きだったんですけど、グランジをやりた いというよりは、ただただ衝動のままにっていう。グランジこそ衝動の音楽だし。で、ちょうどその頃、関西ノーウェイヴを知って。私は洋楽一辺倒だったからライヴハウスに行ってなかったけど、関西ノーウェイヴを知って行くようになって。そこで見たオシリペンペンズが衝撃で。お客さんは10人もいなかったかな、いきなりパンタロンの兄ちゃんが血ぃ流してのたうち回って。なんじゃこれ!イギーポップじゃないか!って。そういう、最初はナンセンスなことをやろうと思ってたんです。でもみちゃんはカッコイイのが好きだったので…。

みちゃん私はアングラな匂いがするものはダメなんですよ(笑)。でも衝動は凄い出したい って思ってたので、そこはニイちゃんと共有していて。まぁ、かなりナンセンスなこともやってましたね。

ニイマリコタイトル“厚着でサーフィン”とか(笑)。とにかく初期衝動のみで。

——みちゃんはもともとどんな音楽を聴いていたんですか?

みちゃん兄の影響でビジュアル系です。ビジュアル系ばかり聴いてたので、どんどん暗 くなっていくんじゃないかって兄が心配して、こっちも聴いてみなってメロコアを持ってきたんです。それでハイスタを聴いたら、自分もバンドをやりたい!って思った。ビジュアル系は好きでしたけど自分でやろうとは思わなかった、世界観に浸ってるのが楽しいって 感じで。でもハイスタを聴いたらやりたいって思ったんですよね。

—–あ、話飛んじゃうけど、みちゃんがハイスタを聴いた時に感じたことと近いものを、 HOMMヨの今作に私は感じたし、きっとHOMMヨの若いリスナーも感じると思う。これまで聴き手は外からHOMMヨの世界観を見てたと思うんですよ。でも今作は中に入っていけるんですよね。

ニイマリコあぁー。自分達でも変わってきたと思います。

みちゃんそういう余地を作れるようになった。最初の頃はずっと突き放していて。だか ら話しかけてもくれないし友達できないし(笑)。そこに酔ってたとこもあったんです。孤独 ってカッコイイよねって(笑)。

キクイマホ(Dr)曲作りにしても、ボーカルがメロディアスにならないように、敢えて掴み

どころのない感じだったのが、歌もメロディも言葉もハッキリ出すようになったし。

ニイマリコなんか、頑なさが減っていったんだと思います。

——うんうん。そのへんの変化は追って聞きますね。話を戻して。ドラムのマホさんが加入して不動の3ピースに。

ニイマリコマホさんは私の大学の先輩で。一緒にやりたいって手紙を渡したんです(笑)。

キクイマホ当時、体調崩して入院してたんです。そこにお見舞いに来てくれたのはいい んだけど帰りがけに手紙くれて。「バンドやってください」って書いてあって。はぁ? 私、入院してるんですけど(笑)。

——誘うタイミングが浪人中に入院中(笑)。

キクイマホそれで2人が演奏してるMDをもらったんですけど、まんまニルヴァーナでした(笑)。ニルヴァーナは好きだからいいんですけど。

——マホさんはどんな音楽を聴いてきて?

キクイマホ主にJポップです。中学の頃からカスケードが好きで、それ経由なのかなんなのかナゴム系も好きになって。とにかくカスケードが好きでした。で、その頃はギターをやってたんですけど全然弾けなくて、ドラムやってみたいなって。ドラムも難しいだろうなって思ってたんですけど、叩く姿を後ろから見たら、どういうふうに叩いてるかわかって。そしたらすんなりできちゃって(笑)。

——おぉ、凄い。で、私がHOMMヨを知ったのは5、6年前なんです。60、70年代の匂いを感じさせていた。

ニイマリコサイケ期ですね(笑)。

——どんどん変化してきたってことですね。

ニイマリコアルバムごとに違うと思います。最初は爆音でグシャーッてことしかできな かったけど、だんだんできることも増えていくので。最初の頃はグランジっぽいって言わ れてて、2ndになってちょっとメロディが出てきて。3枚目ぐらいからサイケ的なものを取 り入れて、サイケっぽいって言われてました。そこからまた変化してます。

言いたいことは言わないとなって感じになってきた

——3人の共通項っていうと?

みちゃんジャンルの共通点はないです(笑)。あるんでしょうけど好みはバラバラだし。 それより共通しているのはスタンスだと思います。

ニイマリコ曲の向かい方とか曲がどこを目指すのかとかね。

みちゃんだからバラバラだなって感じたことはないんですよ。

ニイマリコやっぱオルタナティブだよ!とか言ってまとめるんですけど(笑)。オルタナテ ィブなロックを聴いてオルタナティブをやろうではなくて、本来の意味でのオルタナティ ブ。各々の好きな音楽、全部が共通してるわけじゃないけど、部分部分が重なってレイヤーになっているんですよ。レイヤーになっていったり、レイヤーの部分が分厚くなっていったり。自分達でもこういうジャンルですって言い切れないけど、周りもだんだん言い切れなくなってきて、HOMMヨぽいって言ってくれるようになって。

——「グランジっぽいね」「サイケっぽいね」ではなく、「HOMMヨっぽいね」。いい変化ですね。あと「女の子なのにクールだね」とか、「女の子なのに」って言葉がついてくることも多いと思うけど。

ニイマリコそうなんです。必ず「女の子なのに」って言葉がついてきた。

——ジャマ臭いですよね。女性バンドは男はしなくていい苦労があると思うけど。

ニイマリコ圧倒的にあります。

——そのへん、ジェンダーについてはどう考えますか?

みちゃん私は最初、ドラムは男子がいいなって思ってたんです。女だけだと舐められる から。自分ではギャルバンに括られるのに違和感があったし女子であることを意識したこ ともないつもりだったけど、それが実は逆に意識してたってことなんですよね。

——HOMMヨというバンド名は?

みちゃんニイちゃんが男性ファッション誌を見るのが好きで、そこから。

ニイマリコ記号みたいだし、読みづらいとこもいいかなって。

みちゃんでも、「ギャルギャルしたバンドじゃないぜ」ってメッセージも含まれてたよ ね?

ニイマリコメッセージもあったけど、当時はそこまで考えてなかったかな。2人をメンバ ーに誘ったのは、背が高いしショートカットで中性的でカッコイイだろうなって。その雰 囲気に合ったバンド名だとも思ったので。私は女の子だけでバンドやりたいって思ってい て、それは自然なことで。でも周りから「女なのに」って言われて。それが誉め言葉であっても違和感がありますよね。

——当たり前にやってるのに「女なのに」って言われたら、そりゃ違和感あるし、女であることを意識せざるを得なくなる。

ニイマリコそうなんですよね。ギャルギャルしてないぜ!って、更に頑なになってた時 期があり。

みちゃんつまり逆に女子であることを意識してたんだよね。

ニイマリコでもそれより大事なのは自分らしさ、自分達らしさなんだって、しばらくして気づいて。

みちゃん話し合ったり意識して変えたわけじゃないんですけど、3人とも頑ななとこがな くなってきたんです。

キクイマホ曲作りとか演奏とかライヴとかで、やりたいことができるようになっていくのと同時に、女だからどうのってことも意識しなくなってきたんだよね。

——あぁ、「グランジっぽいね」とか「サイケっぽいね」じゃなく「HOMMヨっぽいね」って言われるようになってきたら、「女なのに」とも言われなくなった。

ニイマリコそうなんですよ。なんかね、私はこのメンバーで、最初から手応えがあったんですよね。漠然とだけど、この2人となら安心できるなって思ったし、自然でいられるなって。

——それが結実してるのが今作ですよね。

キクイマホやっぱ歌が大きいですよね。

みちゃんニイちゃんは以前はハッキリ歌うことが恥ずかしいという感じがあったけど、 それが抜けてきて。

キクイマホそしたらメロディが出てきたし、どう歌を伝えるかを考えるようになったん じゃない?

ニイマリコ言いたいことは言わないとなって感じになってきた。自分自身もそうだし、 世の中的にもそういう時なんじゃないかと。もうカッコつけたこと、カッコつけてたわけ じゃないんですけど、もやもやしたことを歌ったところで、なんつうこともねぇよなって。アイドル(ヤなことそっとミュート)に歌詞を書いたのも大きいです。アイドルって、ファンに前向きな気持ちで帰ってもらうっていう役割じゃないですか。だからステージに立つ若い女の子達が、歌ってて気持ちいい言葉を選んで歌詞を書いた。そしたらHOMMヨとは雰囲気が真逆な歌詞になって。でも意外と自分の本心だったりもして。他人に歌詞を書くことで、自分のことも少し客観的に見られるようになった。そしたら逆に素直になれたというか。で、どっちの歌詞にも真ん中にはシニシズムがあって。私は虚無的なことから逃れられないとこがあるので、そこをどう出すか。今までは、自分の暗いとこをわかりにくい言葉でやってたんですけど、でもたぶん誰でも虚無的な気持ちって持ってるんですよね。自分だけじゃない。

——以前のニイちゃんの歌詞は、心象風景や脳内宇宙って感じだったけど、今作は外の世 界とコミットしてるよね。

ニイマリコそうですね。

みちゃん 変化はしてるけど、変わってないのは絶対に嘘はつかないってとこ。ニイちゃんから出た言葉ってことに嘘はないです。

ニイマリコ徹底的に嘘はついてないです。でも言葉が出てこないこともあって。デヴィ ッド・ボウイが亡くなって、精神状態がちょっと変になって。曲も作れなくなって。でも少しずつ死を受けいれていくと、曲も、言葉も出てきた。今作、自然に作れたアルバムではあるけど、重くはあるんですよ。暗くはないけど。音が重いってことじゃなく。

——内包してるって感じですよね。私、歌詞にそんな言葉があるわけじゃないけど、今作のメッセージは「大丈夫だよ」ってことだと思って。

ニイマリコあ、まさにそうです。生きづらさを感じてる人に、自分のままで大丈夫だよって。

自分に嘘をつかなければきっと本当の孤独にはならない

——1曲目の「デラシネ」は空気が広がっていく感じで凄くいい。歌詞も“たとえどんなス ーパースターでも たった一人にめがけて歌う きみかもしれない”って、グッとくる。

ニイマリコそれは木村拓哉が言ってたんです(笑)。

——えー、そうなんだ(笑)。

ニイマリコ何年も前ですけど、木村拓哉が、何万人の前で歌う時に気を付けてることは なんですか?みたいな質問に、「俺、目ぇいいんすよ。元気なさそうな子を見つけたら、その子に向けて歌うようにするんです。そしたら不思議と会場に広がっていく手応えを感じるんです」って言ってて。ずっと残ってて、今回使いました(笑)。私もその言葉を聞く前は闇雲に歌ってたんですけど、目の前に人がいるっていうこと、そこに焦点を絞ること、そして出てくる集中力っていうものを、なんか実感できるようになってきた。何に向かって歌うのか、迷うこともあるんです、上手く歌おうとしたり余計なこと考えたり。でも、ここにいるお客さんに向けようって思うようになったら迷いはなくなった。「デラシネ」 は元気のない女の子に向けてた曲で。2年ぐらい前からライヴでやってるんです。この曲が あってアルバムに向かっていけた感じです。

——「KOOKOO」は珍しくスロウな曲。

キクイマホライヴでみんなトイレに行かないかな?って思ったんだけど、大丈夫でした (笑)。凄い不安だったんですよ。録って聴いてみたら、遅すぎるんじゃないかって。私は普 段から後ノリで叩く癖があるので、遅い曲だと更に遅くなっちゃう。こんなに遅くて大丈 夫か?って。

みちゃん全然大丈夫。

ニイマリコ全然いいと思った。

——凄くいいです。ズシッときた後に余韻があるんですよね。

キクイマホありがとうございます。自分としてはキチッとやりたかったんですけど、逆 にこれがいいって言ってもらえるのはありがたいです。

ニイマリコ人力の醍醐味ですよね。その人の音が出て、それが合奏になった時に、この3 人じゃなきゃ再現できないものになっている。

みちゃん信頼があるってことですよね。自分では気づかないことに気づかされるし。

——最後の「ノクターン」は具体的な歌詞ですね。

ニイマリコ街の景色をそのまま書いたような歌詞。デヴィッド・ボウイのことで。彼の目を通して何が見えてるんだろう?、そういうイメージ。デヴィッド・ボウイが空から私のことを見ていて、「落ち込んでるあなたのことを見てるから」って言ってくれてるイメージ。この曲が終わってリピートで1曲目に戻った時、最後の曲の「ノクターン」がスタートに感じたり。循環していくような流れを意識して。

——あと「#0」はそれこそ虚無ってことだと思うけど、ポップだし元気が出るし。“僕ら自 体こそが 変化になっていく”って歌詞は、変わっていこうってことじゃなく、変わらない でいい、そのままでいいってことですよね?

ニイマリコそうです。そのままで行けーって。大変なことでもあるけど、自分に嘘をつかなければきっと本当の孤独にはならないよって。私自身、好きにやらせてくれるメンバーがいるし、ポスターやフライヤーを描いてくれる人、写真撮ってくれる人、インタビューしてくれる人、何よりお客さん、友達。いろんな人に囲まれてきたんだなって。人に気に入られようとしなくても、自分のままでいればいい。私はそれを実感してきたし、だからずっと変化できた。ならば伝えたいですよね。

——真ん中には虚無があるけど?

ニイマリコ虚無はあるんです。でも、大いなるYESがあるってことだと思います。NOがあった上でのYES。ロックに感じてきたことってそれなんだなって。表現したいってことは、その動機が不満や反抗であっても、前向きな行為だし前向きな気持ちからですよね。 表現すること自体はポジティブなことだと思うので。それがなかったらロックは繋がって こなかったと思うし、NOを歌っても大いなるYESがあるのがロックだと思う。それをやっていきます。

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