142試合目で消えたCS進出 2018年、DeNA選手&関係者の「REAL」な声

横浜DeNAベイスターズのドキュメンタリー映画が公開される【写真提供:横浜DeNAベイスターズ】

DeNAを追いかけたドキュメンタリー映画「FOR REAL」で描かれているもの

「FOR REAL」

 横浜DeNAベイスターズを追いかけた映画が今年も公開される。惜しくも142試合目でクライマックスシリーズ(CS)を逃した2018年、チームには何がおこっていたのか。この映画はDeNA関係者が語る「言葉」にフィーチャーした、極上のドキュメンタリーだ。

 長い低迷に苦しみ、ハマスタに閑古鳥が泣いていたのは過去の話。今やDeNAはNPBを代表する人気チームとなった。

 チームに確固たる地力がついた。年々、成績を上げ、17年はレギュラーシーズン3位からCSを勝ち抜き、98年以来の日本シリーズ進出まで果たした。優勝候補に挙げられるほどのチーム力を支えるのは、タイトルホルダーや確固たる実力を誇る外国人選手、そして毎年のように現れるイキの良い若手選手たち。誰もが魅力的である。

 本拠地・横浜スタジアム(以降ハマスタ)は平日でもチケット入手が難しいほど。加えてロードゲームでも横浜ファンが増え始めている。20年の東京五輪開催地にも選出され、収容人員増などハマスタの大規模改修も現在進行中だ。またチームや選手の魅力のみでなく、球団も様々な経営努力をおこなっている。本拠地での試合日以外のイベントなど、多くのことにトライを重ねる。優良企業としてジャンルを超えて多くの企業が参考にするほどである。

 そういったさまざまな取り組みの一つとして力を入れているのが、このドキュメンタリー映画製作である。

ラミレス監督「すべてのことを自分自身で決めすぎるようになってしまった」

 新生横浜DeNAベイスターズとなった12年から制作された今シリーズ。当初は等身大の選手たちを取り上げる「ダグアウトの向こう」シリーズとしてスタート。14年に一旦、完結した後、ラミレス監督就任の16年から「FOR REAL」としてリニューアルされた。そして今回の「FOR REAL」、選手の直の心の声、叫びが様々な形の言葉となって聞こえてくる。

「すべてのことを自分自身で決めすぎるようになってしまった。コーチの方々の意見を聞かなくなってしまっていた。」

 18年シーズン、CS出場をかけた巨人との終盤戦、デッドヒート。可能性は十二分にあったが1試合を残した時点で、惜しくもその夢が断たれてしまった。

 10月9日、神宮球場。チームはヤクルトに勝利を収めたが、阪神に大勝した巨人がCS出場進出を決めた。
試合後、ラミレス監督は上記の言葉を語った。

 全編を通じて、今作には選手、関係者のリアルな感情が描かれている。

 試合中、足を大きく腫らすほどのケガをしたにもかかわらず、宮崎敏郎はチームトレーナーに翌日からも試合に出場し続けると直訴する。

 度重なる足の故障に悩まされ、やるせなさを吐露するホセ・ロペス。

「4敗したうちの1つでも負けることがなかったならば……」

 ストッパー山崎康晃は1勝差でCS出場を逃したことを自分の責任であると悔いている。

 故障者続出の投手陣を引っ張ったルーキー東克樹。好投しながらもチームはサヨナラ負けを喫した10月6日の阪神戦で悔しさを露わにした。

「結果や失敗を恐れたりせず、勝つためにできること、今を大事にしよう」

 キャプテン筒香嘉智は大事な局面で常にチームを鼓舞する声を出し続けた。

言葉がDeNAの力の1つになっていた?

 今時、ドラマや映画でも聞けないような、青くてクサイ台詞もある。自戒や後悔の念が、切なさを感じさせる。だが、そこには何の脚色もない、まさにリアルがあるからダイレクトに響いてくる。

「みずからの手で掴み取る」

 シーズン前からラミレス監督をはじめ、チーム関係者がことあるごとに口にしてきたセリフ。ポジションも試合出場機会も、そしてタイトルも。すべては自分自身で勝ち取るしかない。18年、頂点への道は惜しくも手のひらからこぼれ落ちてしまったが、最後の最後まで懸命に戦い抜いたDeNAは、必ず大きなものを「掴み取っている」はずだ。

 主力選手の故障や不調でシーズン序盤から苦戦続きだった。その中で希望を、夢を、紡いできたのは言葉の力だったと、この映画には感じさせる。時に言葉は人を楽しくさせ、明るくさせ、優しくさせ、前向きにさせる。それらは心を揺すぶり、熱くさせ、行動への強い原動力となる。口に出せば霊が宿って現実となる、古来から伝わる「言霊」。それこそがDeNAの力の1つになっていると思えるのは気のせいか。

 タフで長いシーズン、バックステージでのやり取りはもちろん、「言葉」にも是非注目してほしいドキュメンタリー映画である。DeNAファンのみならず、すべての野球ファン、スポーツ好きにオススメしたい。

「FOR REAL」は2018年12月14日から神奈川県を中心に、全国で劇場公開される。(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。

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