富士通フロンティアーズ選手の食支えるマスター

 アメリカンフットボール社会人Xリーグで、3連覇を狙う富士通フロンティアーズの選手たちの胃袋を支える「マスター」がいる。川崎市高津区下野毛の練習場にほど近い「洋食と〇〇 武居食堂」を営む武居正孝さん(53)。Xリーグの頂点を懸けた17日の日本社会人選手権「ジャパンエックスボウル」に向け、「勝つと信じていますよ」と、見守るまなざしは優しい。

 ジャージー姿の100キロ近い男たちが店のドアを開けると、18席の店内はやや窮屈そうになる。ハンバーグや生姜(しょうが)焼きなどのメイン料理が二つ付く人気メニュー「Wメインのサービス定食」(880円)はご飯もみそ汁も食べ放題。練習を終えたばかりの選手たちは、出来たてのランチを実にうまそうに平らげた。

 武居さんは「来てもらった人には腹いっぱいになってほしい。自分が欲張りだからメインは二つ。飽きられないよう料理も毎日変えていますよ」。開店当初からの看板メニューを誇らしげに語る。

 店は2016年10月にオープン。東京・日大三高を卒業後、料理人の道を志した。東京・銀座でイタリアンやフレンチなどを学びながら、「いつかは自分の店を」と思っていた。

 祖父宗太郎さんは岩手県一関市で、同じように洋食などを出す飲食店を開いていた。夏休みや年末年始に帰省すると、後を継いだ叔父たちの働く姿がとにかく格好良かった。「居間にもお客さんが入ってきちゃって、地域に愛されていると思った」。15年12月に79歳で亡くなった父貞義さんも、店のメニュー表をアルバムに大切にとじていた。店名の「武居食堂」は、自身の店にも必ず付けると心に決めていた。

 同店の場所は国道409号線から一本離れ、最寄りのJR南武線武蔵新城駅から徒歩10分ほど。「正直、繁華街でやれば、はやり廃りに巻き込まれる。自分ができる昔からの料理を出したくて場所を選んだ」

 開店後しばらくしてフロンティアーズの練習日に選手たちが徐々に集うようになった。「マスター」と呼ばれ、店内にはサイン入りのTシャツや関連のポスターが張られている。ベテラン鈴木將一郎選手(39)は「コンビニには行かなくなった。ご飯もおかわりできるし栄養面でも助かっている」と感謝する。

 今季限りで練習拠点を移転する予定のフロンティアーズを支えるのも最後とあって、武居さんの声は一段と強まる。「うちの店にとって死活問題だが、今はみんなの顔を知っているし、結果もプレー内容も気になってしまう存在。正月明けの日本選手権まで勝ち抜いてほしいよね」。17日の決戦はもちろん、日本一を争う来年1月3日のライスボウルでも、チームカラーの赤をまとって東京ドームで声援を送るつもりだ。

選手たちに腹いっぱい食べてもらいたいと語るマスターの武居さん(中央)=川崎市高津区の「洋食と〇〇 武居食堂」

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