小さな拳で日本一に 男子30キロ級制す 「夢は世界王者」

 プロボクサーの育成などを目的に今年始まった「ジュニア・チャンピオンリーグ全国大会」で、平塚市立松延小学校6年の大澤陽(ひなた)君(11)がU12(小4~6)の男子30キロ級で初代王者に輝いた。身長137センチと小柄だが、夢は大きく「いつか世界王者に」。スピードと技を磨き、日々の厳しい練習に汗を流している。 

 JR平塚駅前のボクシングジム「チームテンカウント」に、ミット打ちの音が響く。小さなサウスポーが小刻みにステップを踏み込んでストレートを打ち込んでいく。ジムの川端龍也チーフトレーナーは「誰よりも練習をする。日々、レベルが上がっている」と期待の目を向ける。

 チャンピオンリーグは、これまで日本プロボクシング協会などが開催していたU15(15歳以下)の全国大会を、新たに18歳以下のプロ志望のジュニア世代を対象とした大会に再編。選手の育成や競技の普及などを目指している。

 各階級で地区予選トーナメントを勝ち抜いた代表が10月、東京都内で行われた全国大会でぶつかり合い、26階級で初代王者が決まった。予選から3戦を勝ち抜いた大澤君は「自慢のストレートとフックを的確に当てることができた」と笑顔で振り返る。

 小学3年生の時、平塚市出身の諏訪佑選手のプロデビュー戦を観戦したのがきっかけだった。リングの熱気に憧れ、諏訪選手の所属するテンカウントの門をたたいた。

 「最初は運動音痴で縄跳びもできなかったし、スパーリングも泣きながらやっていた」と話すのは、母の美奈絵さん(41)。しかし、毎日欠かさずジムに通い、土日は10キロのランニングに加えて、近所の神社で150段の階段で走り込んで足腰を鍛えてきた。今では「練習が楽しい。体力も誰にも負けない」と自信もついた。

 まだまだ育ち盛り。身長はクラスで一番低いというが「階級があるので体が小さくても活躍できる。だからこそボクシングに居場所を見つけた」と美奈絵さんは話す。

 胸に秘めた思いもある。ボクシングを始めたばかりの2016年3月、祖父の松橋令和さんが80歳で亡くなった。病院の見舞いでグローブを見せに行くと祖父が言った。「今度、おじいちゃんがボクシングを教えてあげるからな」。その日の会話が最後となり、ほどなくして祖父は帰らぬ人となった。

 「釣りに行こうと約束もした。一緒に行きたかったな。けがをしないように、おじいちゃんに見守っていてほしい」。天国からチャンピオンベルトを巻いた自分を見てほしい。「まだここはスタート地点」と日々の鍛錬は続いている。

ミット打ちの練習をする大澤君(左)=平塚市宝町のボクシングジム「テンカウント」

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