ドラフト84番目の男が2年目で見せた成長 大学同期投手コンビに受ける刺激

DeNA・佐野恵太【写真:荒川祐史】

DeNA2年目の佐野恵太、開幕1軍掴むも結果が残せず…

 DeNAは今季、最終戦前日までクライマックスシリーズ進出の望みをつないだが、最後の最後で力尽き、3年ぶりにAクラス入りを逃した。リーグV3を飾った広島が独走する一方で、2位以下は混戦を極めたが、6月から3か月連続で負け越して最下位に転落。9月後半の巻き返しで4位に浮上したものの、失意の1年だったことは否めない。だが、同時に未来のDeNAを背負って立つ若手選手の成長が見えたシーズンでもあった。その1人が、2年目のシーズンを終えた佐野恵太内野手だ。

 明治大学から2016年ドラフト9位で入団。ルーキーイヤーだった昨季は18試合出場(24打席)にとどまったが、今季は73試合に出場し、130打席に立った。6月1日の敵地ソフトバンク戦では、千賀滉大投手の147キロのストレートを右翼席まで運び、プロ初ホームランを記録。打率.230ながら5本塁打14打点と、秘める才能の一端を見せた。

 昨オフは台湾で開催されたアジア・ウインターリーグ・ベースボールに、NPBイースタン・リーグ選抜の一員として参加した。17試合に出場して打率.391、5本塁打、18打点と大活躍し、チームの初優勝に貢献。自身も最優秀打者賞に選ばれた。この経験を自信に臨んだ今季は、開幕1軍を掴んだものの結果を残せず。1軍では今季無安打のまま、5月は2軍での再調整を余儀なくされた。「1本目のヒットがなかなか出なくて焦って空回りしていた」という佐野は、嶋村一輝ファーム打撃コーチのアドバイスを受けながら、オフに取り組んだ打撃のポイントを再復習。5月31日に1軍に昇格すると、翌日のソフトバンク戦でプロ初アーチを描いた。

「がむしゃらにやっていたのが、やっと落ち着いて、心と気持ち、頭の整理ができて打席に向かえるようになりました」

 打者は3割打てば成功と言われるが、代打となれば話は違う。与えられた1打席で結果を出さなければならない。レギュラー定着を目指す若手選手にとって、避けては通れない試練だ。「1日1打席あるかないかの中で、結果がそこで出てしまう。バットにも当たらず三振なんてした時には、今日はこの1打席で終わりか……って」。代打の難しさを痛感する中で、改めてその凄さに感銘を受けたのは、クリーンアップを担うホセ・ロペス、筒香嘉智、宮崎敏郎の3打者だ。

「自分が打てば勝てるっていうバッターになりたいです。代打での出場が多いので、チャンスで使ってもらっている。勝負強い打撃をしなければいけないとは思っているんですけど、それがまだできていないな、と。宮崎さん、筒香さん、ロペスさんってクリーンアップを見ていると、勝負強いバッターだなって思います」

目標の毎試合出場へのカギは「打ち続ける」

 もちろん、目指すは毎日試合に出ること。プロ入り後は、主に一塁と外野を守っているが、広陵高3年時から明治大2年時頃までキャッチャーを務めた経験もある。複数のポジションを守れることは、出場機会を増やすための武器となる。だが、あくまでも自身の強みは思い切りのいいバッティング。「打ち続ける。打たなきゃ自分の場合はアピールにならない」と打撃から道を切り拓いていく心積もりだ。

 野球界では特に、「松坂世代」や「大谷世代」など同じ学年で一括りにされることが多く、選手もまた同学年の仲間を意識し、刺激を受けている。佐野にも切磋琢磨を意識する同級生がいる。それが、明治大学の同期、星知弥投手(ヤクルト)と柳裕也投手(中日)だ。投手と野手の違いはあれど、今でも連絡を取っている2人は「もちろん気になります」と明かす。

 2016年10月20日。その年のドラフト当日、佐野は星、柳らと大学で指名がかかることを待っていた。だが、待てど暮らせど名前は呼ばれない。「本当にだめかと思いましたね。選択終了の球団も半分くらい出ていたのかな。柳と星が上位で決まって、胴上げとかにみんなが行ってしまった中、自分だけ1人ポツンと残っていたんです。そのうち、みんなが胴上げを終えて戻ってきて。あ、もうだめかもな、みたいな感じで」。1位指名から約1時間後、DeNAから9巡目で指名を受けると「ホッとした」と正直な気持ちを明かす。支配下登録選手としては87人中の84番目、セ・リーグでは最後の指名でプロ入りを掴んだ。

 ドラフト1位であろうが、9位であろうが、プロに入ればみんな同じスタートラインに立つ。先発ローテに定着しようと奮闘する星、柳に負けじと、佐野も1軍出場試合数を1年目の18試合出場から、2年目の今季は73試合に大きく伸ばした。代打出場が多い中でも5本塁打を放ってアピール。「2人ともまだ対戦していないんで、早く対戦したいなって思います」と同級生の存在を発奮材料にしている。

 来季はもう3年目。若くて生きのいい選手が多い中、さらに存在感を光らせるためには、今オフの過ごし方が大きなポイントとなるだろう。「佐野が出てきたら、何か起こしてくれるって思ってもらえるように、起爆剤じゃないですけど、チームに勢いがつくような選手になりたいです」と語る24歳。キャンプインを迎える来年の2月1日には、一回り成長を遂げた佐野が見られることを楽しみにしたい。(白井京子 / Kyoko Shirai)

© 株式会社Creative2