COP24②パリ協定の主なルールとは

COP24のメインテーマ「共に変えよう」のバナー ©WWFジャパン

地球温暖化対策の国際協定である「パリ協定」をどのように実施していくか、その詳細なルール(実施指針)が12月16日、ポーランドのカトヴィツェで開催されていた国連会議「COP24」で会期延長の末、無事採択されました。またもう一つの焦点「タラノア対話(後述)」についても一定の成果をみせました。今後の世界の温暖化対策で最も重要な合意であるパリ協定は、2020年からの本格運用の準備が整ったことになります。(WWFジャパン)

パリ協定ルールを採択して会議場は拍手に ©WWFジャパン

2015年から3年間にわたって、国連では、パリ協定のルール作りのための交渉が急ピッチで続けられてきました。京都議定書のルール作りに7年もかかったことを鑑みると、京都議定書よりもはるかに複雑なパリ協定のルールを3年弱で作ることは、国際社会にとって、非常に大きな挑戦でした。しかしパリ協定にかける世界各国の意気込みを反映してか、COP24では、140ページ以上にもわたるルール集に合意することができたのです。

難航した交渉

ルールに関する交渉とは、議題項目ごとに議論が進められ、その議論に基づいて草案が作成されていきます。さらにそれを基に交渉される形が何度も繰り返されました。

具体的な議題項目としては、国別目標に関して、次回の国別目標策定時にどのような情報を書き込むのか、国別目標の実施状況は、いつからどのような形で報告を提出し、どのように進捗を共有し合うのか、5年ごとの全体進捗評価はどのように進めていくか、といったことが挙げられます(後述する「パリ協定の主なルール集」参照)。

本来であれば第1週で、交渉官レベルでの技術的な論点の交渉を終えて、第2週に各国から入ってくる閣僚級に草案を送って、最後に政治的判断以外には決められない難題の解決をはかる、という予定でした。

しかし各国は、新しい交渉テキストが出るたびに、吟味する時間もあまりない中で、それぞれの言い分を強く主張。「これでは自国の意見は反映されていない」「各国の主張の取り入れ方がバランスがとれていない」などと不満をぶつけて、先鋭化した対立を見せていました。

結果として交渉は難航し、第2週目の半ばまで、技術的な論点の交渉も続けられたのです。

「差異化」をめぐる対立

特に対立が大きかったのは、この国連気候変動交渉の長年の懸案である「差異化」問題です。

先進国と途上国の温暖化対策に明確な差を設けていた京都議定書時代から、すべての国を対象とするパリ協定に移行することにはなりましたが、そうはいっても開発の程度に大きな差のある途上国を含めてすべての国に同じルールを当てはめることはできません。

ではどのようにルールの運用を柔軟にして差をつけるか?すなわちこの「差異化」を巡って、深刻な対立がこのルール作りの3年間にわたってずっと繰り広げられたのです。

これはいわば、長年の対立点である「歴史的な排出責任」をめぐる先進国対途上国の戦いが姿を変えて、ルール作りの交渉の随所に表出したともいえます。

たとえば、次回の削減目標を書く際に、すべての国に同じリストから情報提示を求めるのか、それともその情報の要件に「先進国」と「途上国」で区別するのか、という問題となって表れてくるのです。

すべての国を対象とした、ほぼ統一的なルール

特に最後まで紛糾したのは、国別目標をきちんと達成しているかを国連に報告し、その結果を検証する項目(透明性)についてでした。

先進国側は、基本的にはすべての国に同じ運用ルールを当てはめ、その中でまだ排出量の報告や削減行動などが難しい途上国に対しては、能力向上のサポートを行ないながらも、最終的には同じルール上に持っていきたい。特に排出量が急増している、中国、インドなどの新興途上国に対しては、先進国と同じレベルの取り組みを(今は求めなくとも)近い将来に同程度に持ってこられるような仕組みにすることを要求しました。

一方で途上国側には、最初から先進国と途上国とを別々に分けた運用ルールのシステムにすることを強く要求する国々もありました。

しかし途上国側も一枚岩ではなく、中国などの新興途上国と、温暖化の多大なる悪影響にさらされている小さな島国連合やアフリカ諸国連合とは、意見が異なっており、共通の厳格な削減ルールを定めることを求める途上国グループもあったのです。

そのため交渉は閣僚級でも非常に難航したのですが、項目によってそのニュアンスに差はあるものの、最終的には「すべての国を対象とした、ほぼ統一的なルール」が採択される結果となりました。

特に最後まで紛糾した「透明性」のルール作りのところでは、途上国はルールの項目によっては、柔軟性を適用したルール(先進国よりも緩いルール)を使っていいことになりました。

しかしその場合には「なぜその柔軟性が適用される妥当性があるのか」について説明し、「いつ頃までにその柔軟性を卒業する予定か」も提出することとなったのです。

定まった主なルール

最終的にCOP24では、140ページにものぼる膨大なルール集を採択して終了することができました。

このCOP24では決めきれなかったことも残っていますが、大枠では、パリ協定のルール集は環境十全性を確保できる形で完成したことになり、2020年からのパリ協定のスタートに向けて準備が整ったといえます。

パリ協定の主なルール集 
・【国別目標(NDC)への指針】(次回以降の)国別目標に何を書き、どうやってその進捗や達成を測るのか。
・【適応報告への指針】適応報告に何を書くのか。
・【透明性枠組みの様式・手続き・ガイドライン】各国にどのように取り組みを報告させ、それを国際的にチェックするのか。
・【グローバル・ストックテイクに関する事項】5年ごとの世界全体での進捗確認は、どのような情報を基にどう行うのか。
・【実施促進・遵守推進委員会の様式および手続き】どのように、各国が国別目標を守るように促すか。万が一守れなかった場合はどうするか。
・【共通のタイムフレーム】国別目標のタイムラインは5年か10年か。
・【パリ協定6条に関わる事項】新しい市場メカニズム(分散型・国連主導型)、非市場メカニズムの設計。
・【パリ協定第9条7項の下で、公的介入により供与・動員された資金の算定に関する様式】先進国(および自主的な資金支援国)が行う供与・動員はどのように算定されるか。

「タラノア対話」1年間の軌跡

「タラノア対話」は、2018年1年間を通じて、国連や各国内で開催されてきました。

各国がパリ協定の下で提出している現状の排出削減目標では、パリ協定の究極的な目標である「世界の平均気温上昇を2°Cより十分低く抑え、1.5°Cに抑える努力を追求する」という目標に届きません。

このため、削減強化を議論しなければなりませんが、一度決めた削減目標や対策計画の変更につながるような議論は、どの国にとっても難しい上、各国お互いの責任を追及し合う非生産的な議論に終始するリスクもあります。

このため、あえて「交渉」ではなく「対話」という形式をとり、建設的・生産的なアイデアを共有し合うという精神で行なわれてきたのがタラノア対話でした。「タラノア」は、フィジーの言葉で、包摂的で、参加の自由があり、透明性の高い対話のプロセスを指します。

COP24では、まず第1週目に、この1年間かけて行われた「準備的フェーズ」をとりまとめた統合報告書が報告され、第2週目には、「政治的フェーズ」として、各国大臣たち自身が21のグループに分かれ、対話を行なうラウンドテーブルが開催されました。

「準備的フェーズ」の統合報告書によると、1月の開設以来、国連の特設ウェブサイトでは、473件のアイデア・意見が寄せられたそうです。44件が国からで、429件が国以外、つまり、企業関係の組織、自治体関係の組織、研究機関、市民社会などからでした。また、全世界で90以上のタラノア対話関連イベントが開催されたとのことです。

COP24での「タラノア対話」

大臣たちが集まったCOP24での「政治的フェーズ」は、十数名単位でのラウンドテーブルが21個も開催されるという、国連会議ではあまり前例のない形式がとられ、それぞれが持ち寄ったアイデア、ストーリーなどが語られました。

各国が語ったストーリー自体も興味深いものもありましたが、それ以上に大事だったのは、このタラノア対話を受けて、COP24としてどのような対応をとるか、でした。

タラノア対話の様子 ©WWFジャパン

タラノア対話で寄せられたほとんどストーリーや意見で、気候変動の危機の深刻さや、より進んだ取り組みの必要性が強調されていました。そして、COP24の直前(2018年10月)に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5°C特別報告書においても、世界は3°Cの平均気温の上昇上昇にむかってしまっており、1.5°Cに抑えるためには更なる対策強化の必要性が指摘されていました。

タラノア対話閉幕時には、名付け親であるフィジーの首相も、削減目標引き上げの必要性を強調。高まる危機感と、更なる対策強化の必要性に対して、COP24がどう応えるのか、に注目が集まっていました。

会期終盤、パリ協定成立時にも、最後の一押しを演じた「高い野心同盟(High Ambition Coalition)」と呼ばれる国々や、島嶼国、後発開発途上国のグループなどが、相次いで声明を発表。1.5°C特別報告書とタラノア対話を踏まえた、削減目標の強化を含む対策強化を訴えました。

これには、企業・自治体などの非国家アクターの連合体による声明も後押しをしました。しかし、先進国の一部の国や、中国・インドなどからなるグループは、削減目標強化に繋がる文言については反対し、「タラノア対話の成果に呼応したCOP24の決定」の交渉は難航しました。

このような中、残念だったのは、パリ協定成立時に「高い野心同盟」に、後から参加した日本は、今回もまた、結局参加もせず、沈黙していたことです。

削減目標の「引き上げ」について

最終的に、COP24の決定文では「タラノア対話の成果を考慮して、各国は国別目標(NDC)を準備すること」という文言が採択されました。

これに加え、COP24の決定文では、IPCCの1.5°C特別報告書の内容を今後の議論に活かすことが呼びかけられ、2019年9月の国連事務総長主催の気候サミットで、取り組みの強化を提示することも呼びかけられています。

そして、パリ協定が採択された2015年に既に「2020年までに、2030年に向けた国別目標を再提出すること」という決定があることも繰り返して述べられる内容となりました。

これらを合わせて読めば、その含意が「2020年に国別目標を再提出する際には、削減目標の強化が必要であること」は明白です。あくまで各国の判断に任されている形になりますが、2019年に議長国としてG20首脳会議を迎え、そこでは、首相自ら、気候変動問題についてもリーダーシップを発揮すると宣言している日本としては、決して無視することができないメッセージが、COP24からは発せられたことになります。

非国家アクターの躍動

近年のCOPは、国連の下でのルール形成の交渉の場である共に、非国家アクターとよばれる、企業、自治体、市民団体などの様々な組織がネットワーキングを行なったり、お互いの活動を報告し合ったりすることで、活動の幅を国際的に広げる契機として活用されています。

COP24の最終日には、各国のNGOが合同で、会場内の大階段に座り込み、実効性のある合意を求めるアクションを行った ©WWFジャパン

今回のCOP24でも、非国家アクターによる活動は活発でした。WWFもまた、その一員として独自の活動を行なっています。WWFジャパンが事務局団体の1つを務める気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative;JCI)も、今回のCOP24では3つのサイドイベントに登壇し、日本でも非国家アクターによる脱炭素化に向けた取り組みが進んでいることを報告しました。

JCIは、Alliances for Climate Action(ACA) という、非国家アクター連合体の国際ネットワークにも参加しており、アルゼンチン、メキシコ、そしてアメリカの同様の連合体とともに、WWFパビリオンでのイベントに出席、国際的な連携について議論しました。

将来的には、非国家アクターの連携が国境を越え、大きなうねりとなって、パリ協定の実施や、更なる対策の後押しに繋がることを、WWFジャパンは期待しています。

(寄稿・WWFジャパン)

参考記事
COP24①パリ協定のルール、合意なるか

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