「18歳選挙権ブーム終了……」で片づけさせないために、 教育現場が取り組んでいること

選挙の投票権を、20歳以上から18歳以上に引き下げて、はや2年。
この2年間に国政選挙が2回、その他の地方選挙が多数行われましたが、18歳選挙権導入当初は若年層では非常に高かった投票率が、選挙を重ねるごとに落ち込んでいます
“18歳選挙権”自体が、一過性のブームであり、導入当初は盛り上がったものの、すでにブームは終焉したのでは」という声も聞こえます。
このような状況を教育の現場では、どのように感じ、若者の主権者教育にどのように取り組んでいるのでしょうか。
主権者教育はもちろんのこと、ひとりの人間として社会参加や社会貢献の重要性を、学校生活全体を通して育成しているという鷗友女子中学高等学校の社会科主任教諭・村田祐子先生にお話を聞きました。

いよいよ選挙に参加できる、とワクワクする生徒たち

鷗友女子中学高等学校の社会科主任教諭・村田祐子先生

–選挙ドットコム編集部(以下、選挙ドットコム)
18歳選挙権導入当時は、若年層の中でとても高かった18歳・19歳の投票率が、国政選挙・地方選挙問わず、最近どんどん下がっているということですが、鷗友学園の生徒さんたちはいかがでしょうか。

–村田祐子先生(以下、村田先生)
今年の春に地方選がありましたが、選挙権が得られた当校の生徒たちは「いよいよ選挙に参加できる!」と非常に前向きにとらえていました。
アンケートなどをとったわけではありませんが、投票権のある(地方選の時点で18歳になっていた)生徒のほとんどが、投票所に足を運んだのではないかと思います。
毎回投票日前のホームルームでは「(投票にいくので)ワクワクしている」「(自分はまだ17歳で投票権がないので)投票に行ける子がうらやましい」などという声があがります。

–選挙ドットコム
鷗友学園の生徒さんたちが、選挙に対しての意識が高いのは、模擬選挙をしたり選挙について特別に学ぶ授業などを行っていたりするためですか?

–村田先生
いえ、模擬選挙や選挙前に特別な授業をするといったことは行っていません。
18歳投票権導入当時も、選挙だけをクローズアップした授業などは行っていないと思います。

「慈愛と誠実と創造」を校訓とする鷗友学園女子中学高等学校

しかし当校の「慈愛と誠実と創造(あいとまこととそうぞう)」という校訓のもと、とくに「創造性」という点で、自分自身の創造性を伸ばすと同時に、これからの“世の中・社会を創り出していける人づくり”に注力して教育を行っているところが、非常に大きいと思います。

–選挙ドットコム
“世の中や社会を創りだしていける人づくり”とは、具体的にはどのようなものですか?
–村田先生
社会の一員として、しっかり自立して社会参加・社会貢献ができるようにと、勉強やテスト向けの知識ではなく、まずは世の中をしっかり知ること・それに対する自分なりの意見を持つことを日々の活動の中で実践しています。

中3になると公民を含む現代社会(通常は高1で履修)を必修で学びます。新聞の時事ニュースを題材にテーマを選び、生徒それぞれが自分の考えを話し合います。
教員は、ニュースの背景や細かい法律などについてフォローすることはありますが、生徒たちは自由にテーマについて意見を述べます。
テーマによっては賛否が真っ二つに割れることもありますが、統一した意見(正解)を導き出すのが目的なのではなく、このニュースの「何が問題なのか」をしっかり理解し、そして「それに対して自分はどのように考えるか」をまとめる機会にしています。

高3では、総まとめという意味で政治経済が必修になります。
その中でひとりずつテーマを決めて、各自で深く調べたり取材をしたりするなどしてレポートにしてまとめ、発表を行っています。
生徒たちは、教育関係や人工知能、少年法、TPP、移民についてなどさまざまなテーマを選んで深く学んでいくわけですが、世の中のことをしっかり調べて知っていくうちに、さまざまな社会問題を解決し、社会の進み方を決める「政治」「選挙」の重要性を自分自身の発見としてつかんでいくのだと思います。

–選挙ドットコム
自分が問題だと思うテーマを調べ、考えていくうちに、その問題を解決し世の中を変えるには政治が大切、だから選挙に行かなくちゃという意識が芽生えるということですね。

昨日のドラマを語るように、ニュースを語り合う雰囲気づくり

–村田先生
一見、遠回りなイメージですが、単に「選挙で投票する」ことの重要性だけを教えても、いざ投票するとき、だれを選んでいいのかわからない、ということになってしまいます。
そもそも自分が実現したい社会がどのようなものか、それを実現してくれそうな政策を掲げる政治家は誰かを考えたり調べたりする力を養うことで初めて、18歳選挙権を行使する意味があるというところまで理解してほしいと考えています。

–選挙ドットコム
確かに、18歳選挙権導入直後に投票した多くの十代は「投票」には参加しましたが、立候補者の公約をしっかり比較したり、そもそも自分はどのような社会にしたいのかを考えたりすることは、あまりなかったように思います。
学校で1回模擬選挙をやったり、特別授業をしたりするくらいでは、身につくことではないですからね。
単にニュースでブーム(お祭)になっている選挙に参加してみようか、と投票した人は、やはりその後は続かない、というわけですね。

–村田先生
若い人の多くが、政治や世の中の動きに関心が薄いようですね。
当校の卒業生のなかには「大学のクラスメートに時事ネタを振ると引かれちゃうから」と当校に遊びに来て、後輩の在校生や教員と時事系の世間話をしていく人もいます。
うちは女子校なのですが、HRで頻繁に話題にするためか生徒たちが昨日見たドラマについて話すのと同じように、新聞やニュースで見た時事関係の雑談をしているんです。
朝、教室に行くと机の上に新聞を広げて、お父さんのように読み込んでいる生徒も少なくないですよ(笑)。

–選挙ドットコム
女子校で、というか高校でも大学でも、いまどき若者が人前で新聞を読む姿ってたしかに珍しいですね。
今、ニュースをチェックするのは、ほとんどスマホなどでネットニュースという人が多いですし。

–村田先生
インターネットで情報を得るのは、即時性という点では非常に優れていますが、新聞などの紙媒体にはインターネットにない良さがあると考えています。
インターネットでは自分に関心のある分野・意見だけを自然に閲覧することになりますが、新聞だと、興味を抱いた見出しの記事の隣や、近くにある記事も目に入りますし、普段関心のない様々なジャンルの情報がいやでも目に飛び込んできますから。
幅広く世の中で起こっていることを知るには、新聞はとてもよい情報源といえます。
現代社会を必修にしている中3時には「この1年間だけは、必ず家庭で新聞購読をしてください」と保護者にもお願いしています。

選挙に行くのは大人として当然、という意識を育てる

–選挙ドットコム
選挙に関する特別授業や模擬投票が、投票所に1度足を運んでみるきっかけ作りとはなるものの、その後継続して選挙に参加して、しっかり自分の1票を活かしていくためには、新聞を読む習慣づけや、時事問題について自由に話し合う場づくりが重要なのですね。
でも、学校の中には「政治を教育に持ち込むのは……」と時事問題や政治などを話題に取り上げるのは、まだまだタブー視する風潮も残っていますよね。

–村田先生
生徒が世の中の動きに目を配り、それについて自分の考えを持つためには、家庭内はもちろん教育現場での働きかけが必要不可欠だと思いますが、それと同時に物事の是非を教員が判断して押し付けることがないように、十二分に気を配っています。
ひとつのニュースについて、クラスメートと意見を交わしながら問題点を拾い上げ、考えを深め、自分なりの意見を作り上げるのはあくまで生徒自身です。

生徒一人ひとりがクラスメートと意見を交わしながら問題点を拾い上げ、考えを深め、自分なりの意見を作り上げていく

教員は話題を提供したり、複数の視点を提示しつつ意見交換の進行を手伝ったり、生徒に求められたりしたときのみ知識面のフォローを行い、議論が掘り下げられるようにしますが「このように考えるのが正しい」「間違っている」とは決して発言しないようにしています。

–選挙ドットコム
このような教育を受け、社会について関心の深い鷗友学園の生徒さんたちの中には、政治家を志す人も多いのでしょうか?

–村田先生
政治家になった方、は存じませんが、大学在学中から社会貢献活動を行うNPOのボランティアに関わる生徒は少なくありません。
女性の自立のために世界的に活動している「かものはしプロジェクト」に参加している卒業生もいます。
生徒たちは卒業後に様々な進路を選んでいますが、自分で選んだ社会的テーマについて調べてレポートを作り、発表するという経験があるためか「農業経済を学びたい」「学びを楽しくする教育法を研究したい」など、学部ではなく「将来、どのように社会に関わるために何を学ぶか」という視点で、大学や専門学校を選ぶ傾向が強いです。
卒業生がどのように道に進むにせよ、社会を支えるひとりとして「選挙に行くのは大人として当たり前のこと」という意識を、ずっと持ち続けてくれるといいな、と思います。

–選挙ドットコム
ありがとうございました。

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