「出会いこそ生きる力」 サヘル・ローズさんが語る共生

 誰もが自分らしく生きられる社会を目指し、神奈川県藤沢市で30年以上続く「人権啓発講演会」が15日、藤沢市民会館(鵠沼東)で開かれた。登壇したのは女優やタレントとして活躍するサヘル・ローズさん。自らの生い立ちや経験を振り返ったサヘルさんは「人との出会いによっていまの私がある。出会いこそ、生きる力」と語った。

 サヘルさんは1985年、イラン生まれ。当時イラン・イラク戦争下にあった母国は混乱が続き、サヘルさんは4歳のときに家族を失って孤児院で育った。

 人生を大きく変えたのは、後に養母となった女性との出会いだった。

 「彼女は学生でボランティア活動をしていた。孤児院で初めて会った瞬間、私が『マダー』(お母さん)と呼ぶと、抱きしめてくれて。彼女の香水の香りがして、それがお母さんの香りになった」

 女性は家族の大反対に遭いながら、サヘルさんを養子として迎え入れた。その後、2人は知人を頼って来日。サヘルさんは日本の小学校に通い始めるが、不慣れな土地で日本語も話せない。資金は底を突き、公園でのホームレス生活を経験した。

 そんなとき、出会ったのが「第二のお母さん」だったという。

 「あるとき、学校の給食のおばちゃんが校門で待っていて『大丈夫? どうしたの?』と聞いてくれた。『今、公園にいる』と伝えたら、母と一緒にお家にかくまってくれた。温かいお風呂に入ると、こたつにはシャケ、納豆とご飯が並んでいた」

 シングルマザーとして働く女性は来日間もない親子を気遣い、ビザ更新の手続きや仕事の紹介、さらにはアパートの保証人も引き受けてくれたという。

 「どこの誰かではなく、目の前の一人の子どもとして信じてくれた。信じてもらえると、人は強くなれる」

 現在、女優として活動する一方、国際人権NGOの活動で親善大使を務めるなど子どもたちを支える活動に携わるサヘルさんは、こう会場に呼び掛けた。

 「例えば、現代社会で流れる『難民』のニュース。いろいろな報道をされ、いろいろな見方があるけれど、国を出たくて難民になっている人はそういない。逃げることでしか生きられない。一人一人がどうしてそうなったのか。その人の背景に目を向け、その人の声に耳を傾けてほしい」

「自分自身を愛して、大切な人を抱きしめて」と語るサヘル・ローズさん =藤沢市民会館

© 株式会社神奈川新聞社