『ヒートテックでOK?』と聞かれた時に、登山では使わないよう説明する方法 寒い時期の定番インナーウェアであるヒートテック。登山にあまり行かない初心者は、秋冬の山に行く時にいつも着ている安心感から、登山でも着用しています。しかし街では重宝するヒートテックも、たくさん汗をかく登山では相性があまり良くありません。そのため、汗冷えの原因になって体調を崩してしまうことも。今回は「なぜ登山の時は、ヒートテックを着用しないほうが良いのか」を、実際に山で着用した感想もふまえながら、見ていきます。

登山の時のインナーにヒートテックは止めましょう!

秋冬のあったかウェアとして大人気のユニクロの「ヒートテック」。秋冬に普段登山をしない人と山に行く時、「寒そうだからヒートテック着ていくね!」と言われたことはありませんか?

実は編集部では、数年前に「ヒートテックが山でも使える」という記事を出した過去があります。(現在は削除済み)
確かに、普段使いには良いアイテムです。しかし、現在YAMA HACKでは、「登山のインナーとして、ヒートテックを着ていくのはさけてほしい」と考えています。

今回はそのような過去もふまえながら、ヒートテックが登山でおすすめできない理由を検証し、解説していきます。

「持っているもので済ませたい」

秋冬の山では保温性の高いウールや速乾性の高い素材のインナーを着用するのが一般的。

しかし、あまり山に登らない初心者の中には、登山用のインナーを持っていない人も。その人たちは「持っているもので済ませたい」や「暖かいウェアと言えばヒートテック」などの理由で、登山にヒートテックを選んでしまいがち。

「普段使っているものが安心」という気持ちもわかりますが、やはりそこは街と山。環境が違うので、同じようにはいきません。

なんで登山では着ない方がいいの?

ヒートテックは登山で使用するには乾きにくく、汗で体が冷えてしまう可能性が大きいのです。ヒートテックには暖かさを生み出すために、「レーヨン」という繊維を使用。しかし、レーヨンは濡れると乾きにくい繊維でもあります。肌に直接触れるインナーが濡れていると、特に秋冬の山では濡れた部分から体が冷えてしまう危険が。

体が冷えると体調を崩してしまうだけでなく、最悪の場合、低体温症になってしまうこともあるため注意が必要です。

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しかし、どれだけ危険かはイマイチわかりにくいもの。そこで、実際に編集部員がヒートテックを着用して登山をしてみました。

【検証】ヒートテックで登山に行ってみた

今回の検証場所は、登山初心者でも楽しめる茨城県の筑波山。12月中旬に行ったため、山頂の気温は約1℃と厳しい寒さ。

コースは御幸ヶ原コースを選択。ヤマプラでの目安のコースタイムは約120分です。

着替えのインナーや防寒ウェアを用意し、安全に配慮した上で実施。実際に山で、ヒートテックを着用して感じた内容をまとめました。

①汗をかき始めると一気に温まる

汗をかきすぎないように、標準コースタイムを意識してゆっくりと登りました。

それでも登りでは、ジワっと汗が。汗をかき始めるまでは時間がかかりましたが、体が温まって汗をかき始めるとヒートテックが発熱したのか、急激に体が温められたような感じでした。

そこからは発汗量も増え、特に背中や脇はたくさんの汗をかいたため風が吹くとかなり寒かったです。

②ベストなウェアの重ね着がわからなかった

風で汗が冷やされるのを感じたため、風よけのためにウェアを着用。「これで風で汗が冷やされない」かと思いきや、別の問題が・・・。ウェアを一枚プラスしたため、さきほどまでよりも暑くなり発汗量が増加したのです。

また風が当たらなくなったせいか、今までよりもヒートテックの濡れをかなり感じるようになりました。濡れた生地が肌にベタっとまとわりつくような感じで、普段着ている登山用インナー(モンベルのジオライン)が汗で濡れた時とは別の感覚。これが結構冷たくて不快でした。

③初心者だとなおさら汗をかきやすそう

もちろん汗のかき方には個人差があります。ですが特にレイヤリング(ウェアの重ね着)の概念があまり無い初心者の場合、「ダウンを着たまま登ったり」「少々暑くてもウェアを脱がない」という姿も。

そうなると行動中は汗をかいても寒さを感じないかもしれませんが、休憩で止まった時や風を受けた時に冷えを感じることになります。

薄着の時は外から寒さを感じるし、ウェアを着れば内側の濡れで冷えて不快、とウェアの調整がかなり困難でした。歩行ペースで発汗量を正確にコントロールするのには経験が必要なため、歩行ペースによる発汗量のコントロールもあまり現実的でないように感じました。

【まとめ】
・ゆっくり歩いても汗はかく。汗をかき始めるとウェアがどんどん発熱して暑くなっていった
・薄着だと外からの風で汗が冷える。ウェアを着ると、内側にかいた汗が濡れて冷たく不快
・快適に歩くにはペースやウェアの調整が細かく必要で、正直めんどうに思えた

初めて登山でヒートテックを着ましたが、街で着たような暖かさによる安心感は感じられませんでした。

登山のように常に動き汗をかきつづける場合は、運動による発熱+ヒートテックの発熱でかなり暑くなり、汗で濡れて冷たくなってしまうようです。

なんで暖かくなる素材が冷たくなったの?

ヒートテックは、暖かさが売りのインナーウェア。検証中も最初のうちはその暖かさを感じていましたが、なぜ途中から冷たくなったのでしょうか?
【1】水分が熱を生み出す仕組み
【2】暖かさを感じる流れ
【3】冷えた原因
の3ステップで考えてみましょう。

【1】水が熱を生み出す仕組み

水分で熱を生み出す?というと、なんだかよくわからないことに感じますが、その仕組みは意外とシンプル。
水は水蒸気になる時に、周りにある熱を奪います。それを「気化熱」といい、夏のひんやりグッズなどはその働きを活用して冷涼感を生み出しています。

反対に、水蒸気が水に変わる時に発生するエネルギーが凝縮熱(吸着熱)。ここで生まれる熱を利用して体を暖かくするのが、ヒートテックなどの「吸湿発熱インナー」と呼ばれるものです。

【2】吸湿発熱インナーで暖かさを感じる流れ

上の図は、ヒートテックなどの吸湿発熱インナーが暖かさを生み出す仕組みをまとめたものです。

①人は何もしなくても、汗などで水分を発散しています。その水蒸気を吸湿発熱素材(ウェア)が吸収。
②その時に水蒸気が凝縮され、水分に変わることで凝縮熱が発生。
③その時に発生した熱が体に伝わるので、暖かく感じる。

水をたくさん含むことができる素材のほうが、長い時間熱を生み出すことができます。ヒートテックは、レーヨンというたくさん水分を含むこと(保水)ができる繊維を使用することで、暖かさを生み出し続けているのです。

【3】冷えた原因は”保水力の限界”

繊維には、水分を保水できる割合(公定水分率)が決まっていて、その量を超えてしまうと飽和状態に。水分が飽和すると、どんな素材でも蒸れて気化熱が発生し、結果として冷えにつながります。レーヨンに限らず、ポリエステルやコットン、ウールでも同じことです。また、たくさん保水できる繊維は、「乾きにくい繊維」なので要注意。
今回の検証ではこんなことが起きた
①山を登り始めて汗をかいたことで、最初は吸着発熱が起きて暖かく感じていた。
②しかし、汗をたくさんかいたことで乾きが追いつかずヒートテックが濡れて飽和状態に。
③結果、発熱も起きず、さらに気温や風によりカラダが冷えた。

登山でヒートテックを使うことに関して

ヒートテックと登山の相性に関しては様々な意見があります。その一部を見てみましょう。

編集部J

初めて高尾山に登山に行った時、当時はなにも知らなくてインナーはヒートテックで登りました。汗で冷えてお腹が痛くなって、かなり辛かったのを覚えています。事前に登山インナーの快適性を知る術があれば、ヒートテックを選ばなかったんでしょうけど・・・。初心者はそういうことも知らないので、準備の時に教えてほしいですね。

事前に登山用インナーの良さを知ることができれば、ヒートテックを選ぶ人が少なくなるかもしれません。初心者を連れていく時には当たり前と思わず、丁寧にウェア選びなども教えてあげましょう。

山岳ガイドYさん

秋冬の山にヒートテックはタブー。一番の理由はヒートテックでは汗冷えするからです。ポリウレタンやポリエステルに比べレーヨンは速乾性に劣るため、冬の山では一歩間違えれば命の危険があります。まずは安全第一でウェアを選びましょう。

山の怖さも知っているガイドさんはやはり安全性を優先。もちろん価格は商品選択の時に重要ですが、安全性は忘れないようにしないといけないですね。

ヒートテックはコスパ良し!でも、登山では控えよう

ヒートテックは街で使うには、コスパに優れた商品です。ですがやはり街と山では環境が違います。街用で作られたものを山でも使う場合は、命に関わることもあるので慎重に。
初心者の方が登山を好きになるかは、「登山が楽しかったかどうか」にかかっています。せっかくの登山を楽しい思い出にするため、初心者の方のウェア選びは安全第一でいきましょう。登山は寒くても汗をかくため、インナーは速乾性があるものやウール素材のものを選んでください。

\まとめ/
【1】発熱したては良いが、徐々に暑くなって汗をたくさんかいてしまう
【2】ヒートテックは汗で濡れると登山中は乾きにくく、冷えにつながる
【3】汗で冷えると体調を崩して、登山が楽しくなくなる

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