愛媛プロレスが続ける被災地支援 〜力強く、そして一歩一歩〜

愛媛みかん発祥の地宇和島市吉田町は七月の豪雨災害で大きな被害を受けた。三か月を経過した今も復旧活動が進む同地で、献身的なサポートを続けるご当地プロレス「愛媛プロレス」のメンバーに話を聞いた。

のどかな風景に未だ残る災害の傷跡
谷あいの狭いエリアに住宅が立ち並ぶ同町北東部の奥白井谷地区は、今回特に被害が集中した地域の一つ。幸い人的被害がなかったため、その後の報道で取り上げられる機会が少なかったが、地区を貫く川沿いのガードレールは濁流で深く折り曲げられ、のどかに映る風景とは対照的に、地域が体験したことのすさまじさをリアルに感じられた。

水の勢いで折り曲げられたガードレール

誰にも出来ない仕事を被災地で続ける
九月末の晴天の日に、同地区で復旧活動に汗を流す愛媛プロレスの人気レスラー、ライジングHAYATOさんと石鎚山太郎(いしづち・さんたろう)さんに話を聞くことができた。

車でゆっくりと集落に入っていくと、被災したまま残る全壊家屋と水の勢いで大きくえぐられた川岸の斜面が目に飛び込んできた。民家の外壁には、上流から駆け下りた土砂が残した茶色い泥の跡が軒下にくっきりと残り、以前の穏やかな流れに戻った今も、川底にはゴツゴツとした大きな石が無数に転がっていた。愛媛プロレスの二人は、その場所で黙々と石を運び出す作業を行っていた。

二人で掛け声を掛け合っている様子に、挨拶もそこそこに駆け寄り引き上げるロープに私も手を掛けたが、その先に結んだ石の大きさを見て、二人が誰にも出来ない仕事をこの場所で行っていることを一瞬で認識できた。

川底から引き上げられた大きな石

愛媛プロレスの被災地支援は、県内が広く豪雨に見舞われた七月七日の直後から始まる。女性代表者のキューティエリー・ザ・エヒメさんが「動ける人から、動けることから」と広くメンバーに呼びかけ、素早い対応の指揮を執った。そうした動きを関係スポンサー各社もバックアップ。現地の状況が把握しづらい中で緊急性の高い物資を繰り返し被災者へ送り届けた。その後も、地元音楽アーティストやお笑い芸人、音楽関連施設などが行う支援活動と連携しサポートを拡大。地元愛で繋がる草の根の動きが大きな輪となり、被災直後の困難な状況を支えた。

同団体のエースとして活躍するライジングHAYATOさんは、これまでに明浜、吉田町内での復旧活動に参加。地元に出向いてニーズを確認した上で、泥かきなどその場で一番必要とされている作業に積極的な関わりを続けてきた。剛腕レスラーが被災地で積み重ねてきた貢献は、費やした時間の何倍もの成果として地域に見えてきているが、支援活動に込める自身の思いを聞くと、地元愛媛とファンを大切にする感謝の言葉が返ってきた。「愛媛プロレスは様々な地域貢献を目的に活動している。戦いに価値を付けてくれるのはお客さんであり、そのお客さんが困難な状況にあれば手助けをするのは当然のこと」。また、「自分の体を日々鍛え上げていく中で、強い肉体を活かせる機会を考えていた。その力を被災地に少しでも役立てることができれば充実感も大きい」。華やかな世界にいながら利他の精神と感謝を忘れないHAYATOさんのまっすぐな思いに胸を打たれた。

ライジングHAYATOさん

HAYATOさんと並ぶ実力者の石鎚山太郎さんは、同団体の副代表も務めるが、今回の水害で広島県東広島市にある実家が床上浸水するという直接的な被害を受けていた。自分自身が被災者という立場でありながら身近なボランティアの現場で汗を流し続けたが、そうした境遇にあったからこそ、被災した人たちが感じる繊細な感情にも意識を置くことができたという。「自宅の片づけのために戻った数日間は泥の匂いの中で眠った。被災するということのリアルな感覚が自分自身にも沁みついている。被災地の人たち一人ひとりの思いを推し量ることは出来ないが、何気ない励ましや安易な勇気づけが被災者の敏感な心を傷つけることもある」と話す。

石鎚山太郎さん

二人のそうした気付きは「思いを行動に移し、それを継続する」中で生まれてきたが、自分たちがこの場所でなすべきことについては、地域が目の前の一歩を踏み出せる「小さくとも着実な前進」へのサポート、と言い切る。泥をひとかきし、川の石を運び出す地道な活動の一つひとつが、被災前の姿に地域を引き戻す重要な役割を担っている。

被災地が生む特別な体験
ボランティアを終え、疲れた体で現場を離れる時、深々としたお辞儀で感謝を伝える被災者に出会い、気持ちが震える経験をしたという。困難に対峙する場所で行き来する人間の純粋な感情は、サポートをする側とされる側の両方に特別な体験を生んでいた。

地元のボランティア活動拠点の前で

取材・写真:吉良 賢二
取材日:2018/09/27
取材地:愛媛県宇和島市吉田町立間奥白井谷

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