プロデューサー、殺陣師として参加した短編映画「First Samurai in New York」が今年12の映画祭で上映され四つの賞を受賞した。1860年のニューヨークに移住した武士の一家の話で、女性の主人公が繰り出す本格的な殺陣(たて)が魅力の一つ。
「ちいさな短編ですが、賞をいただいたとき、やってきたことを肯定され、『海外で殺陣を広めていいんだよ』と背中を押された気がしました」
5年前、風の噂で「殺陣師がいる」と聞き付けた親子が自宅を訪ねてきた。「カンフーでは世界レベルの男の子で1時間ほど教えたら、夜に『どうしても習いたい』と連絡してきました。私が日本で初めて殺陣を習ったとき、『これが私の世界だ』と衝撃を受けたのと同じだと。こんな子が海外に一人でもいるのならやらなきゃ」。家族に無断で自宅の地下室を改築、道場を始めた。
「殺陣」とは映画や舞台での戦闘シーンに用いられる格闘を見せる技術で、刀の使い方だけでなく武士道の精神や所作も学ぶ。生徒が少しずつ増える一方で「刀を使うけど嘘の武道」「女性が武士というのはおかしい」と言われることも多かった。
6月、国連の要請で、平和を考えるための行事に参加し、武士としての所作を各国大使の前で実演する機会があった。最初は刀の借用の依頼だったが、最終的には香純さんが女性の武士としての所作を実演することになった。武器の刀を侍女に預け、にじり口から入り、位や宗教、人種も関係ない茶室という空間で茶を一緒にいただくという趣向だ。
「抗争する国同士や女性差別が残る国の代表に、疑問と提案を投げ掛ける意味で、女性の武士が所作を見せることに意味があったと思います」
以降、「女性なのに」という雑音は聞かなくなった。さらにこの後、世間では女性の権利を求める運動が盛んになった。「タイミングだったのかもしれないですね」と振り返る。
今年はプリンストン大学をはじめ、教育機関での講義の依頼も増えた。「講義は英語なので丸暗記です」と苦笑いする。殺陣を広めるためにはどんな苦労もいとわない覚悟だ。2019年には映像作品の制作にさらに力を注ぎたい。そして立ち返るのは道場での指導だとも。
「殺陣はお互いが尊重し相手を思いやる気持ちがないとうまくいかないんです」と香純さん。それを稽古で身に付けることで人としても成長し自信を持てるようになる。道場を開いてから4年、子供たちの成長を見てもそう思う。
「自分の道場を広げるというより、殺陣の楽しさを広げたい」