幕末の農民、旅楽しむ 日記を基に出版 横須賀の辻井さん

幕末の農民、旅楽しむ 日記を基に出版 横須賀の辻井さん

 横須賀市芦名の民俗研究家、辻井善彌さん(84)が「幕末を旅する村人」(丸善プラネット)を出版した。江戸時代末期の三浦半島に生きた農民の日記を基に執筆、当時盛んだった江戸や大山への旅を楽しんだ様子が伝わる。

 日記は、相模国三浦郡大田和村(現在の横須賀市御幸浜など)に暮らした浅葉仁三郎(1816〜92年)が記した。裕福な上層農家で浦賀の私塾に入門、当時の村内では相当程度の教養があったとみられる。

 農民ゆえか、降雨や豊作を祈願する「大山詣で」は日記に15回登場する。大田和村から藤沢宿を経由し約13里(52キロ)、宿坊に泊まる1泊2日から2泊3日の旅だった。総費用は約1両で、現在では約10万円に相当するという。

 「当時100万人都市でワンダーランド」(辻井さん)の江戸へは8回の記述がある。まき代金の受け取りなど用件を済ませると、繁華街の日本橋を見物、浅草のうなぎ料理に舌鼓を打つなど旅を楽しんだ。日記に書かれていない部分は辻井さんが時代背景を調べ「大胆に推測」した。

 辻井さんは「農民の日記から古文書では分からない村人の本音がうかがえる。高度に成熟した和食文化が幕末に確立されていたことも分かる」と話す。

 横須賀生まれの辻井さんは高校教諭として勤めながら、民俗学者宮本常一さんの指導を受けた。これまでに21冊の本を著した。

 仁三郎ら農民3代にわたり書き継がれた「浜浅葉日記」を基礎資料にしたシリーズは「幕末のスローフード」(夢工房)などがあり、今回で4冊目。辻井さんは「これが集大成で最後の本」という。「幕末を旅する村人」は1728円(税込み)。

© 株式会社神奈川新聞社