日米演習「初参加」のカナダ軍艦に“潜入” 大揺れの海上で洋上給油 艦内ルポ(2)

海上で「アステリクス」から「カルガリー」へ給油する様子=2018年11月23日午後

 自衛隊と米軍による共同統合演習「キーン・ソード」に初参加したカナダ海軍のフリゲート艦「カルガリー」で、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)から佐世保基地(長崎県佐世保市)へ2泊3日で向かった。途中、出港直後に行方不明になった乗組員を探す訓練に続き、その後も厳しい訓練が待ち受けていた。

(共同通信=福岡編集部次長 大塚 圭一郎) 

 エンジンが停止? 

 同じ寝室になった乗組員に「今からまた訓練があるから、見に来なよ」と誘われ、連れてこられたのが船のエンジンや空調などをコンピューターで調整する制御室だった。

 室内にはエンジンの稼働状況などを映し出すモニター画面が多く備え付けられており、少なくとも3人程度は室内で監視している。訪問時は10人を超える乗組員が集まっており、訓練を控えて緊張感が漂っていた。

 出された課題は、搭載している2基のガスタービンエンジンと1基のディーゼルエンジンのうち「1基のガスタービンエンジンから出火した」という非常事態をどう乗り越えるか。乗組員はコンピューターのキーボードなどを操作して消火作業に当たるとともに、延焼を防ぐために仕切りで閉ざして他の船室から隔離した。

 やがて酸素ボンベを背負い、防火服に身を包んだ若手乗組員が制御室に駆け込んできた。エンジンのある部屋の状況を上官に報告し、訓練終了となった。 

給油前、海上を航行する「アステリクス」(左)=2018年11月23日午後

 「何をしているんだ!」と上官の怒声 

 2日目の午後になると、ライアン・サルテル艦長が「リスクがある訓練だが、乗組員の能力向上に役立つんだ」と強調した航海中の大きなヤマ場が訪れた。同じ航路をカルガリーより先に進んでいた補給艦「アストリクス」から鹿児島県の東の沖合で、カルガリーのディーゼルエンジンに使う燃料の給油を補給する約40分間の訓練だ。

 約40メートル離れた両船が同じ時速約20キロで航行しながら、ホースを渡して給油するという難題だ。初日に手こずった船体の揺れもこの日は既に慣れていたが、アストリクスとホースで接続する時は大きく揺れる可能性がある。このため、カルガリーでナンバー2のエグゼクティブ・オフィサーのプレストン・マッキントッシュ氏に「普通に取材してもらっていいが、最初のホースでつなぐ時は皆と同じように壁にもたれかかって立っているように」と指示された。

 われわれは壁にもたれかかり、目の前には海に転落を防ぐための柵もある。しかし、アストリクスからホースを受け取り、給油する作業に携わる乗組員の前には柵がなく、慎重に進める必要がある。

 すると次の瞬間、「おい、そんなところで何をしているんだ!」とマッキントッシュ氏の怒声が響いた。作業に当たっていた1人の男性が海側に出過ぎていた際、船体が波で揺れた隙に体がよろめいたのを厳しくとがめたのだ。

 男性は慌てて船体の壁側に下がって事なきを得たが、一つ間違えば海に転落して命を落とすことにもなりかねない。一つのミスで命を落としかねない海上の厳しさと、そんなリスクから船員を守る必要がある上官の責務を再認識した。

 別の作業員がアステリクスのホースから出てきた軽油を採取した。「あれはエンジンを損傷しないように最初はサンプルを取り出し、品質を確認してから燃料タンクに入れるんだ」と乗組員が教えてくれた。品質を確認後に給油が始まり、軽油を143立方メートルが燃料タンクに注がれた。

 給油が終わると、カルガリーの乗組員は感謝の意を込めてアステリクスに向かって整列した。その際に大音響でロック音楽が流れたので、「あれは何という曲なのかな?」と尋ねた。すると、1人の男性乗組員が「『東京からの私の恋人』だよ、ハハハ!」と答え、周囲も「『東京からの私の恋人』、ね」と反復しながら笑った。

 しかし、その後インターネットで調べてもそのような曲名は見当たらなかった。あれは日本人向けにあつらえた即興のジョークだったのだろうか!?

 

「カルガリー」の食堂で昼食を楽しむ乗組員=2018年11月22日午後
「カルガリー」の乗組員に夕食を提供する様子=2018年11月23日午後

 楽しみは「家族と過ごすクリスマス」 

 船員の生活は規則正しく、午前7時には起床。朝食は目玉焼きやベーコンなどを選べた。軍隊用語で、正午からの昼食は「夕食」を意味する「ディナー」と呼び、午後5時からの夕食は「軽食」を指す「サパー」と呼称する。

 ただ、乗組員にはハードな作業と訓練が次々と待ち受けているからだけに、サパーといっても鶏肉やステーキなどのボリュームがある料理が用意されていた。。

 食事をする場所には大型テレビを備えたリビングを併設しており、夕食後などの休憩時間には乗組員が映画を楽しむ。SF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズを上映している時もあり、主役の俳優マイケル・J・フォックスさんがカナダ出身なのを思い出した。

 その脇には電飾で彩った小さなクリスマスツリーが飾られており、アレクサンドラ・ラプラントさんは「カルガリーは12月中旬にはカナダに帰還するので、乗組員はクリスマスを家族と過ごすのを楽しみにしているのよ」と笑みを浮かべた。

 そんな気持ちはサルテル艦長も同じ。家族のことを尋ねるとほおを緩め、「私には4歳の娘がおり、ずっと会えずに寂しいよ。再会が楽しみだ」とこの時ばかりは父親の表情になって打ち明けた。

 

「カルガリー」の艦橋でライアン・サルテル艦長=2018年11月23日午前

 2020年開催時の出動は?

  佐世保基地に3日目の午前10時半に予定通り到着し、私の同行取材は幕を閉じた。最初は波で常時揺れている艦内で3日間も過ごせるのか不安だったが、厳しい任務を遂行しながらも、明るく魅力的な人柄の乗組員の皆さんに親切に接していただき、気を使っていただいたおかげで充実した“船上生活”を送ることができた。下船する際は乗組員たちの素敵な笑顔を思い返し、名残惜しい気持ちに包まれた。

 カナダ海軍の艦船が今年初めて参加したキーン・ソードは、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に次の実動演習が予定されている。

 日本に駐在するカナダ海軍のウグ・カヌエル海軍大佐は「キーン・ソードについて判断するのは日本とアメリカだが、カナダは参加の意志がある」と前向きな姿勢を示す。また、来年も海上自衛隊とカナダ海軍の共同演習を予定しており、カヌエル大佐は「有事に備えて協力するためには、平時から緊密に連携するのが重要だ」と強調する。

 アジア太平洋地域の安全保障に貢献するため、新たな一歩を踏み出して存在感を発揮したカナダ海軍。有事のために備えた訓練の必要性を理解しつつも、あくまでも平和な状況下で人柄が魅力的な乗組員たちと再会したい。そう強く思った。

日米演習「初参加」のカナダ軍艦に“潜入” 2泊3日の艦内ルポ(1)

【動画】「カルガリー」

カナダ海軍のフリゲート艦「カルガリー」

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