どんな人も見捨てない

 フィギュアスケートでトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)という大技を武器に今年シニアデビューを飾った紀平梨花選手は、通信制高校の生徒だ。競技に集中するために選んだ進学先という▲定められた登校日以外は自宅で学習し、リポートを提出して単位を取得する通信制高校。少子化が進む中でも、全国的に学校数や生徒数は増加傾向にあるという。かつては中卒社会人の学びの場というイメージが強かったが、生徒の幅は広がっている▲県立鳴滝高通信制が先日実施した生徒と地域との交流会に参加し、絵本の朗読や折り紙工作などの時間を共にした。口数の少ない10代の少年少女に優しく接する教員の姿が印象的。彼らの心はガラスのように壊れやすいと気遣う▲対人関係につまずいて不登校になり、全日制高校から編入した生徒がいる。その一方で、複雑な家庭環境からやむを得ず経済的負担の軽い通信制を選ぶ生徒がいる。ベッドの上で授業を受ける病弱な生徒がいる▲教員は多様な生徒の背景と向き合う。「教職を志した原点を思い出す。こんなにやりがいのある現場はない」とある教員▲生徒それぞれの事情に丁寧に気を配り、どんな人も見捨てないという学びの空間。そこから多くの生徒が社会の一員として巣立っていることに、心温まる思いを抱く。(泉)

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