「裏」は複雑

 「裏」という字をよく見れば「表」の一字が中にすっぽり収まっている。「表」の字面はすっきりしていて、「裏」の方はややこしい▲表向きの安倍晋三首相の言葉は、すっきりとして分かりやすい。「外国人が働いてみたい、住んでみたいと思える制度の運用に全力を」。外国人労働者の受け入れを拡大する新制度の詳細が出そろった▲働く場と住まいが大都市に集中しないように策を講じるとしている。外国人が地方で働き、住むことを望み、地方が万全の形で受け入れられるとよいのだが、表向きの掛け声のようにすんなりいかない事情もある▲地方から若者が大都市に流れ、人手不足を招いている。それを多少なりと補ってきたのが外国人の技能実習生だが、より高い賃金を求めて実習生もが大都市に流れる傾向がある。この流れを変えるのはたやすくない▲新制度では外国人を働きやすいよう支援するという。在留の手続き、働き口、住まい、社会保障-と応じるべき相談は山とあっても、言葉の壁をどうするか。きちんと機能する窓口を設けられるか。「共生」を唱える裏っ側(かわ)で、地方は難問を抱える▲「幸」という字の中に、辛(つら)いの「辛」がある。日本に来て、働く人たちが心に抱くべきはいくらかの「幸」であり、字面は似ても意味の異なる「辛」ではない。(徹)

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