イギリス・メイ首相が直面する課題|EU離脱の行く末はいかに

イギリスではEU離脱をめぐって混乱した状況に置かれています。今回の記事では、この混乱について解説したいと思います。

EU離脱の経緯

今回の混乱の発端は、2016年6月イギリスにおける国民投票において、イギリスのEU離脱が残留を上回ったことにあります。まずは簡単にこの投票の経緯を振り返りましょう。2010年代にEU離脱を訴えるイギリス独立党が台頭しました。この時の台頭の背景には、経済成長に取り残された農村部の保守派の不満や、また労働党の地盤である工場労働者の格差拡大への不満を取り込むことに成功したことが挙げられます。こうした不満がEUというグローバル化の象徴と結びついたことで、離脱が過半数を獲得するに至ったのです。

メイ首相の置かれた状況

しかし、このEU離脱の決定は具体的な方法や内容によって定めたわけではありません。EUは様々な条約によってイギリスの政治のみならず経済をも拘束してきました。そして、産業界にとっては、EUはイギリスに大きな市場をもたらしてきました。そのため、EUとの調整をしないままEUを離脱するということ(合意なき離脱)は、とりわけ経済に対して大きなダメージを与えます。そのため、メイ保守党政権は離脱をめぐるEUとの合意を取り付けることを目指してきました。
メイ首相は、2018年11月、EUとのEU離脱に向けた合意を取り付けました。この内容は、イギリスの離脱条件を定めた離脱協定案と、離脱後の通商などの大枠を示す政治宣言案からなります。問題となる離脱協定案では、20年待つまではイギリスをEUの単一市場・関税同盟に残留させる「移行期間」を設けたほか、陸続きの国境を持つアイルランドとの厳格な国境管理を避けることを示しました。

このEU離脱合意を実行するには議会の支持を取り付ける必要があります。しかし、下院は現在様々な思惑から主張が分裂しています。まずメイ首相のお膝元である保守党が大きく分裂しています。保守党はもともとEUに批判的な議員を多く含んでいます。彼らは、EU合意が実質的に単一市場・関税同盟を残し国民投票を反故にするものとして批判しています。一方で、EU残留を訴える議員もおり、彼らは国民投票の再実施を訴えています。また、事実上の与党であり北アイルランド地方を地盤とする民主統一党は、国境管理問題に対して懸念を表明しています。一方、最大野党の労働党では、党略もありメイ首相に対して再交渉を訴えています。EU離脱合意は離脱強硬派と残留派の妥協を狙ったものといえますが、現状では双方から強い批判を浴びているといえます。
このような状況のもと、様々な形でメイ首相には批判が突き付けられています。まず、保守党からは党首不信任案が突き付けられました。メイ首相は信任を得たものの、投票では保守党下院議員317人のうち、4割弱の117人が不信任票を投じました。また、労働党は議会でメイ首相への不信任案を提出しています。一方で、EUは再交渉を拒否しています。
このような状況の中、国民投票の再実施を訴える声が高まっています。多くの世論調査では今になってEU離脱が過半数を占めるようになっているのです。また、ブレア元首相が2回目の投票実施を訴えている他、メディアはメイ首相側近が労働党議員と接触して国民投票をめぐる協議したことを報じています。また、EU司法裁判所は「イギリスは一方的に離脱を撤回できる」と判示しています。

今後のスケジュール

しかし、時間は残されていません。来年3月29日にはイギリスがEUを離脱することが定められており、再投票もなく議会の支持がないまま3月29日に至った結果、「合意なき離脱」に至ることが懸念されています。その場合、経済に大きなダメージを与えることになるでしょう。

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