これが“感謝の一杯” 苦難乗り越え、横浜の3店主コラボ

 交通事故に巻き込まれ、丸3年の創業記念日に休業を余儀なくさせられた神奈川県横浜市中区の人気ラーメン店主が30日、1カ月遅れの創業記念祭を開く。31日には、つらく苦しい時を支え合った親友のラーメン店主たちとコラボした“年越しそば”を提供。のれんを掲げ続けることへの喜びと感謝の思いを一杯に込める。

 鎌倉街道沿いの「自家製麺 麺屋M」(同区曙町4丁目)の店主、村上裕幸さん(38)は11月10日未明、ミニバイクに乗って赤信号で停車中、乗用車に追突された。相手は居眠り運転だったという。

 診断は頸椎(けいつい)と腰椎の捻挫。首から腰にかけて激しく痛み、働けない状態が続いた。20日後に不安を抱えながら昼間のみ営業を再開したところ、常連客らが列をなして復帰を喜んでくれた。

 村上さんは以前にも事故に遭った。運送会社の社員時代、重傷を負い1カ月ほど入院した。後遺症に悩まされ、仕事を失った。

 しばらく何もする気が起きなかったが、偶然知り合った自営業の経営者らから刺激を受けてラーメン店の開業を決意。アルバイトでためた資金を元手に、2015年11月22日に麺屋Mを開業した。

 目指すのは、子どもの頃に旅先で食べた煮干しラーメン。自家製麺にこだわり、心まで温まるような優しい味が評判を呼んだ。

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 「熱血ラーメン in Yokohama」を同区伊勢佐木町5丁目で営んでいた鉄谷好古さん(46)も常連として通い詰めた一人。折りに触れて“ラーメン初心者”の村上さんを励ました。

 その後、鉄谷さんは原因不明の難病「特発性大(だい)腿(たい)骨頭壊死症」を治療するため、志半ばで17年5月に閉店。ボルトを入れる手術が成功して順調に回復したため、今年6月から麺屋Mで働き始めた。ところが、2週間後にボルトの接続部が骨折、10月に人工関節を入れる手術を受けるために店を去らざるを得なくなった。

 「村上さんを助けるつもりで働き始めたが、逆に迷惑を掛けただけだった」。自責の念にさいなまれていた鉄谷さんを、今度は村上さんが支え続けた。

 昨年の大みそかは、村上さんと鉄谷さん、そして共通の親友である「麺場鶏源 黄金町店」(同市南区前里町2丁目)の店主、中山大典さん(37)がコラボした限定ラーメンを麺屋Mで提供。ファンらの評価が高く、村上さんと鉄谷さんはともに傷が癒えてはいないが、今年も大みそかに特別企画を催すことにした。

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 30日の創業記念祭で村上さんが提供するのは、カンパチ、ブリ、スズキのだしを使い、切れのあるさっぱりとした塩ラーメン「三種の出世魚そば」(千円)と「三種の漬け丼」(400円)。31日のコラボラーメンは「俺たちのタンタン麺」(千円)。刻みタマネギが入ったチーズリゾット(250円)も提供する。

 「鶏ガラや豚ガラではなく『人柄』が入っている。3人が目指す味のバランスが絶妙で最高の一杯ができた」と中山さん。鉄谷さんは「横浜はラーメン激戦区。年々舌が肥えているお客さまに喜んでもらえるはず」と自信をみせ、村上さんは「心を込めた一杯を提供できることが何よりも幸せ」と話す。

 両日とも午前11時から。ラーメンは各日150杯、丼は50杯限定。当日の売り切れなどは麺屋Mの公式ツイッターで伝える。

村上さん(中央)とともにコラボの一杯を提供する鉄谷さん(左)と中山さん =横浜市中区の「自家製麺 麺屋M」

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