すべての人に就労支援を 日本財団が事業化へ、制度提言も

 高齢者や障害者、難病患者、引きこもり、各種依存症者、刑務所出所者ら、さまざまな理由で働きづらさを抱えるすべての人に横断的に就労の機会を提供しようと、日本財団(東京都、笹川陽平会長)が新たな取り組みをスタートさせた。2022年までの5カ年計画で、神奈川県内を含め全国でモデル事業を行い、具体的な就労支援制度の提案を目指すとしている。財団では、働きづらさを抱える人のうち潜在労働力は約600万人に上ると推計、今後の労働力不足を補う貴重な人材になりうるとしている。

 取り組みは、プロジェクト「日本財団WORK!DIVERSITY」。財団では「これまで労働力と考えられてこなかった潜在労働層があり、その人材を人財となるよう支援することは、個人の幸福の実現はもとより、労働力確保、経済活性、社会保障費・医療費の健全化にもつながる可能性を秘めている」と指摘する。

 具体的には、22年にかけて6段階の事業を展開する。第1段階は、ダイバーシティ就労の研究。社会制度化に適した展開モデルの提示、財政的な根拠の提示、海外事例の集約、支援方法のマニュアル化などを行う。

 第2段階は、全国の支援組織のネットワーク化。第3段階では、全国20地域におけるモデル事業。候補地としては、県内では川崎市が挙がっている。第4段階では、障害者就労支援事業所のダイバーシティ化研修。

 第5段階で社会制度化への提言を行う。第6段階では社会制度化の支援をスタートさせる。

 全体委員会の会長には清家篤・慶大前塾長が就任。笹川会長は「必要な予算は確保する」と意気込みを見せている。

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 財団では、プロジェクトにあたり、駒村康平慶大教授(社会政策)が各種統計に基づいて行った研究から、就労困難者、潜在労働力を推計した。

 各要因ごとに推計を行い、高齢者については、65~74歳の就業率を現在の5歳下の就業率まで上昇させることを目標に、その場合に想定される就業者数と、現在の就業者数の差である329万人を高齢者の就労困難者とした。

 その他では、非就労障害者(15~64歳)356万人、15歳から54歳までのニート(家事も通学もしていない無業者)145万人、アルコール依存症(15~64歳)109万人、薬物経験者(同)81万人、難病患者(同)60万人、広義の引きこもり(15~39歳)54万人、貧困母子世帯49万人、がん患者(15~64歳)48万人、若年性認知症(18~64歳)3・1万人、刑務所出所者(刑余者、20~64歳)1・9万人、HIV感染者(15~64歳)1・7万人、ホームレス(64歳以下)0・3万人などと推計した。

 これらの単純な合計は1459万人。重複を除くなどした結果、潜在労働力を約600万人と推計した。これは、民間の研究機関(パーソル総合研究所と中央大学の共同研究)が10月に発表した2030年の人手不足推計644万人に対し、かなりをカバーできる結果だ。

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 多様な人々への就労支援は、欧米などではソーシャルファーム(社会的企業、社会包摂企業)として制度化されている。日本でも障害者就労支援事業所などを活用し、障害者以外にも働く場を提供する取り組みが行われている。2008年には福祉関係者らによって「ソーシャルファームジャパン」(炭谷茂理事長)が発足し、制度化への研究、提言などを行っている。国会にも超党派の「ソーシャルファーム推進議員連盟」などが発足し、議員立法に向け活動している。

 日本財団のプロジェクトには、元厚生労働省事務次官や社会保障審議会の委員などを務めている識者らが参加しており、先行の取り組みと連携しながら、どのような形で制度改革に結びつけるのか注目される。

第1回全体委員会であいさつする日本財団の笹川陽平会長(正面右)と、清家篤会長(同左)=11月20日、日本財団

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