<金口木舌>多くの命を救った血清

 ノーベル賞の授賞式が来週行われる。115年の歴史を誇る同賞で、第1回の医学生理学賞の候補になった日本人がいる。細菌学の父、北里柴三郎だ▼北里はドイツ留学中に破傷風菌の純粋培養に成功して、世界初の「血清療法」を確立した。その後、後輩のエミール・ベーリングと共同研究した「破傷風とジフテリアの血清療法」が評価され、ベーリングは第1回医学生理学賞を受賞した。一方、彼がモデルにした北里は皮肉にも落選してしまう

▼2人が共同論文を発表したのが1890年のきょう。12月4日は血清療法の日だ。抗体のある血清を患者に注射して体内の毒素を取り除くこの治療法は、医学に革命をもたらした

▼北里は帰国後、伝染病研究所を設立する。ここで学んだのが、赤痢菌を発見した志賀潔や黄熱病研究の野口英世ら数々の逸材だ。ハブ毒の血清を開発した北島多一もいた

▼北島は1904年に来県し、県病院にハブ毒用の血清を提供した。1906年4月5日付琉球新報は、県病院が薬4種の比較実験をし「北島氏飯匙(ハブ)毒血清は有効なり」と報じている

▼2000年以降、ハブによる死者はゼロだが、咬症被害は年に50~90人いる(県衛生環境研究所調べ)。夏だけでなく、今月からのキビ刈り時季も被害が増える。多くの命を救った北里や北島の功績に感謝しつつこの日を覚えておきたい。

© 株式会社琉球新報社