「警察官離れ」歯止め奔走 神奈川県警受験者、6年ぶり増 

 就職戦線で売り手市場が続く中、2018年度の神奈川県警警察官採用試験の受験者が6年ぶりに増加に転じた。雇用情勢の好転で、民間企業が採用枠を拡大して旺盛な活動を展開。相対的に公務員人気に陰りが生じ、神奈川の治安の担い手確保も苦戦を強いられていた。状況打開の鍵は、県警組織を挙げた積極的なリクルート活動と、時勢に応じた柔軟な制度の見直しにあった。

 県警警務部によると、春と秋に行われた本年度の警察官採用試験の受験者数は前年度比8・1%増の4174人。ここ10年で最多だった2012年度(6351人)以降続いていた減少傾向に歯止めがかかった。

 「民間の採用意欲が高まり、黙っていても人材が集まる状況ではない」。県警採用センター副所長の根目沢あや子警視は現状をシビアに分析する。同センター自体も、受験者減に危機感を募らせる県警が今春、採用体制の強化を目指して新設した部署だ。

■オール県警

 巻き返しに向け重視したのが、担当者任せでなく、組織全体でリクルートに努める意識づくり。代表的な取り組みが17年秋から本格化した各署でのインターンシップだ。

 これまでも「ENJOY!ポリスワーク」と銘打って年2回、総合的なインターンシップを実施してきたが、「実務を通じて現場の空気や体温を伝える格好の場」(同センター)として県内54の警察署に着目。参加者10人前後の小規模ながら、こまめに開催し、本年度は11月末時点で計167回実施した。前年度のおよそ3倍に当たる回数で、全署が協力。参加者からは「警察官の仕事を肌で感じることができた」などと好評で、根目沢警視は「海に面したり山岳を管轄したり、各署の特性を前面に出した職場体験を提供できる。警察の多様な仕事を発信する貴重な機会になっている」と手応えを語る。

 このほか、各署の主導で管轄エリアの学校訪問を徹底したり、若手警察官の母校訪問を強化したりと、地道な取り組みを蓄積。本年度の訪問回数は千回近くに達した。

■開拓精神で

 制度面でも本年度から、受験資格年齢の上限を30歳から35歳に引き上げた。より多くの人に門戸を開くとともに「社会経験豊かな多様な人材確保」(伊藤泰充警務部長)につなげる狙いで、31歳以上は約200人が挑戦した。

 また、近年の犯罪情勢で顕著なサイバー空間を悪用した事案への対処能力を高める観点から、従来の柔道、剣道の段位取得者らに加え、情報処理技術の資格を持つ受験者についても教養試験で加点する措置を始めた。

 警察官には「きつく、厳しい」とのイメージが強いが、警務部は年次有給休暇の取得促進をはじめ、ワークライフバランスの推進に向けた諸施策にも力を入れている。根目沢警視は「組織全体で優秀な人材を確保しようという意識が浸透してきたが、取り組みは緒に就いたばかり。受験者増が一過性にならないよう、正義感に燃え、人の痛みが分かる人材の新規開拓に努めたい」と今後を見据える。

 来年度の県警警察官採用試験の概要は19年2月にも公表される。

鑑識活動など、少人数でさまざまな警察業務を体験できることから好評な警察署でのインターンシップ=2018年4月、加賀町署

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