大河津分水路改修事業(新潟)、新第二床固など鋼材約8600トン使用

 新潟平野の治水を守る大河津分水路改修事業が2018年度から本格化している。洪水処理能力(流下能力)の不足、第二床固等施設の老朽化、河床低下による右岸部地すべりの危険性という課題を解消すべく、(1)河口左岸の山地部掘削(2)第二床固の改築(3)川幅の拡幅に伴う野積橋の架け替えを実施する。事業は2032年までの長期にわたる。事業の特徴として、狭隘河道での施工や並行して大規模工事が実施される等の厳しい施工条件への対応や、CIM導入などICTの全面的な活用による生産性の向上等が挙げられる。約8600トンの鋼材需要が発生する主要工事を紹介する。(杉原 英文)

 《主要工事の鋼材需要》

 現時点で発注が計画、もしくは発注済みの取付擁壁、新野積橋橋脚部、新第二床固の主要工事では多くの鋼材需要が見込まれている。

 右岸側の取付擁壁には鋼管杭が採用された。

 進ちょくは約6割。全体延長232メートルのうち、132メートルが完了(2018年12月末予定)。

 施工済みの工事は「大河津分水路右岸部取付擁壁その1工事」。工事延長74メートル、鋼管杭は1・5メートル径、長さ18・5メートルで総重量は約756トン。同じく施工済みの「大河津分水路右岸部取付擁壁その2工事」は工事延長58メートル、鋼管杭1メートル径、長さ14メートルで総重量は約292トン。

 18年度契約で発注された「大河津分水右岸部取付擁壁その3工事」は工事延長79メートル、鋼管杭1・5メートル径、長さ18・5メートルで総重量約799トン。

 三つの工事はいずれもジャイロプレス工法が採用された。理由は既存擁壁を存置しながら施工可能であったため。

 「大河津分水路右岸取付擁壁その1工事」の現場施工に関わる工夫は鋼管杭の溶接を横継とした。溶接作業を事前に陸上で済ませることにより、ジャイロパイラーの稼働が溶接時間に拘束されず、効率的な施工が可能となった。同工事では作業効率が向上したことにより作業員の休日確保等の時間短縮につながった。

 また同工事は現場の鋼管杭溶接施工箇所に「溶接小屋」を設置した。天候に影響を受けず、品質の良い溶接作業を行うことが可能になった。

 新野積橋橋脚はケーソン等で鋼材需要が発生した。全体の進ちょくは橋脚4基、橋台2基のうち現在は橋脚3基、橋台1基を施工中で上部工は未着手。

 現在施工中の新野積橋右岸橋台工事の鋼材使用量は172トンでうち土留めに111トン、本体に61トンが使用される。

 現在契約中の新野積橋橋脚その1工事(P3橋脚)ケーソン基礎の鋼材は275トン、同工事(P4橋脚)ケーソン基礎は75トン。新野積橋橋脚その2工事(P2橋脚)ケーソン基礎は58トン。

 新第二床固は現在の床固よりも下流に設置される。鋼殻ケーソンや仮橋、仮桟台等で多くの鋼材が見込まれる。

 工事名は大河津分水路新第二床固改築I期工事。工期予定は19年2月頃~23年3月まで。発注予定はニューマチックケーソン基礎工9基、本堤工1式、減勢工1式、護床工1式、仮設工1式。うち鋼材は本体鋼殻ケーソン(止水壁部、鋼殻上部、鋼殻刃口部)で約4150トン。仮橋(上部工、下部工、鋼管杭基礎)で約670トン。仮桟台で約1370トンを予定している。

 《改修による効果》

 大河津分水路改修で洪水処理能力が向上することで、戦後最大規模の洪水が流下した場合のシミュレーションでは改修前が床上浸水6222戸、床下浸水5569戸、浸水面積217平方キロメートル、被害総額4616億円―との想定となっていたが、改修によりいずれもゼロになると効果を見込んでいる。

 《見学施設》

 信濃川河川事務所では10月下旬、大河津分水路河口部右岸の第二床固付近に工事情報の発信基地、通称「にとこ工事みえ~る館」をオープンし、11月は400人を超える来館者となった。

 2階が展望台となっており打設済みの鋼管杭や対岸(左岸)の工事の様子、現・第二床固の状況を一望することができる。施設内にはさまざまな視点で事業内容に触れることができる。

 PCからは工区ごとの工事の特徴、山地部掘削の現場から持ち込まれた土砂のサンプルが並ぶ。また、AR、VRを効果的に活用している。ゴーグルを装着すると現在の大河津分水路が徐々に変貌し、完成イメージをあたかもそこにいるかのように体感できる。

 《ジャイロプレス工法採用》

 現地では見学施設の脇に打設された鋼管杭による護岸を眺めることができる。右岸部の河岸浸食が懸念される部分に既存のコンクリート擁壁を残置しながら、新たな鋼管杭による擁壁を構築した。経済性や安定性を考慮し、鋼管杭が採用された。

 後背地が狭隘で崩落しやすい地質であることから、ジャイロプレス工法にふさわしい工区でもあった。

 取材当日は近隣の漁協が見学に訪れていた。

大河津分水路改修事業(新潟)/大河津分水路改修工事でジャイロプレス工法採用

 信濃川河川事務所が進める大河津分水路改修の鋼管杭打設工事「大河津分水路右岸取付擁壁その1~その3工事」でジャイロプレス工法が採用された。

 同工法は、新日鉄住金と技研製作所の共同開発によるもので、専用の圧入機により、先端ビット付き鋼管杭を回転圧入する工法だ。硬質地盤や地中障害物がある条件下でも適用が可能で、さらに狭隘地や空頭制限などの厳しい施工条件下での省スペース施工を実現といった特長がある。

 大河津分水路の床固下流部取付擁壁は、壁高が高く、水中での施工となることから自立式擁壁構造が最良であり、さらに基礎地盤が強固な泥岩と砂岩の互層であるため、硬質地盤でも施工可能なジャイロプレス工法により鋼管杭列を築造し、自立式擁壁とする構造が選定された。

 近年、頻発する自然災害に対し、国土強靱化に資する製品・工法として、様々な利用目的・利用条件のもとで鉄鋼製品・工法が提供され、防災・減災に貢献している。

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