【寿町火災】福祉の街、惨事再び 宿泊者「どこへ行けば」

 かつての日雇い労働者のよりどころから様変わりした福祉の街を、また惨事が襲った。新年早々の4日朝、横浜・寿地区で10人が死傷した火災。出火した「扇荘別館」は、介護が必要な高齢者や障害者ら140人近くが身を寄せる簡易宿泊所(簡宿)だった。自力で逃げられない宿泊者は、立ち尽くし、死も覚悟した。

 

 「これで終わりか」。全焼した部屋の斜め向かいに泊まる男性(64)は、充満した黒煙に最期を悟った。脳梗塞で左脚がまひし、エレベーターが止まったと知って絶望した。間一髪で消防隊が現れ、はしご車で救助された。

 

 9階の男性(60)も脚が不自由だったが、外階段から逃げ延びた。黒煙が立ちこめ、気は急(せ)いたが、「手すりを握りしめて一段一段ゆっくり下るしかなかった」。

 

 寿町勤労者福祉協会によると、一帯の簡宿の宿泊者は全体的に高齢化し、介護サービスの利用者が増えている。扇荘別館はバリアフリー化された比較的新しい施設で、別の簡宿の管理人は「高齢者や障害者から住みやすいと定評があった」と話す。死亡した2人も体が不自由だったと、複数の宿泊者が証言した。

 

 3階の男性(81)によると、宿泊者の半数近くが車いすを利用していた。火災を知らせる警報が流れても、救助を待つほかなく、途方に暮れる宿泊者が複数いたという。男性は「助けようにも、自分のことで精いっぱいだった」と振り返った。

 

 正月明けの災難だった。身寄りもなく、行き場を失った5階の男性がつぶやいた。「おれはこれから、どこへ行けばいいのか」。毛布にくるまり、寒さをしのいでいた。

火災があった簡易宿泊所に入る県警の捜査員=4日午後0時40分ごろ、横浜市中区寿町4丁目

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