膨張する企業データに新管理手法 ネットアップ社「オブジェクト・ストレージ」

「オブジェクト・ストレージ」の黎明期から開発に携わる米国ネットアップ合同会社ダンカン・ムーア氏(東京都中央区の日本法人オフィスにて)

IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)によるビッグデータ活用、4K・8K映像の編集など、企業が扱う業務データは近年急激に増加し、企業のデータ管理手法が根本的な変更が求められている。こうしたなか従来の自社内で構築・運用するオンプレミス型データストレージを活用しながら、新たなクラウド型ストレージを融合させ、両者の強みを生かして大量のデータを安価、安全に管理ができる「オブジェクト・ストレージ」というデータ管理サービスが注目されている。データストレージ企業の米ネットアップでオブジェクト・ストレージ部門を統括するダンカン・ムーア氏と、同社日本法人のシステム技術本部でソリューションアーキテクトを務める箱根美紀代氏に聞いた。

Q1:企業において業務データを取り巻く状況はどのような変化がありますか?

ダンカン氏(以下D):これまで企業が扱う業務データは、テキスト文書や表計算、画像など数KB~数MBと小さなデータ容量のファイルを扱うのがほとんどでした。そして、従来は小容量ファイルをフォルダの階層構造で管理する「ファイル・ストレージ」が主流でした。

これが最近では4K・8Kの高解像度の画像・動画などデータ容量の大きいファイルを扱うことが多くなり、IoT機器による膨大なログ生成やそれを活用したAI分析など、大量データを収集し活用するようになってきたため、データ容量が急速に増大しています。これにより1企業が扱う業務データ量は、年間数百TBやPBに及ぶようになっています。

そのため、従来の「NAS(Network Attached Storage)」や「SAN(Storage Area Network)」などの「ネットワークストレージ」では、物理サーバーによってファイル1つあたりのデータ容量の上限や、保存できるファイル数に上限があり、現在のような巨大データ容量を取り扱う環境に対応できなくなりつつあるというのが現状です。

またタブレット・スマートフォンなどモバイル端末やクラウドサービスの普及により、あらゆるデータにインターネット経由でアクセスする形態が一般的となり、アクセスが容易な一方で情報漏えいのリスクも高まっています。また法定保存文書や個人情報保護など法規制も厳しくなり、データの取り扱いが経済損失や法令遵守に大きく関わるようになってきています。

Q2:新しいデータ管理の手法「オブジェクト・ストレージ」の仕組みとメリットはどのようなものですか?

D:ストレージの歴史をたどると理解しやすいと思います。従来の「ファイル・ストレージ」は、階層構造になったフォルダにファイルを格納する「ディレクトリ構造」で管理するのに対し、「オブジェクト・ストレージ」はデータを「オブジェクト」という単位で扱うデータ管理方法です。各オブジェクトにはIDとメタデータをつけて管理することで、ファイルが階層構造を持たず、フラットに管理できるのが特長です。

データをオブジェクト単位で管理する最大のメリットは、重要なデータを保護することにあります。1つのサーバー上に格納されたデータは随時複製コピーされ、複数拠点のサーバーに分散配置されるという工程を自動的に行います。データの重要度に応じて、重要度の高いデータはコピーする数や分散配置する拠点数を増やし、重要度の低いデータはコピーの数や保存期間を減らしたりと調整できるようになります。同時に複数あるデータを参照できるので、読み取り性能を高速化できるメリットもあります。

もう一つの大きな特長は、専用のソフトウェアを使用することで、関連するあらゆる物理サーバーを繋ぎ合わせた一つの仮想サーバー空間(ネームスペース)を構築できることです。これにより、たくさんの支社やグループ会社をもつ企業が容易にデータを一元管理・活用できるようになります。これは国内に限らず、全世界中の拠点を繋げて、まるで1つのサーバーのように運用することができます。

さらにこれまでの「ファイル・ストレージ」では、物理サーバーの容量が足りなくなれば、新しいサーバーを購入し、そちらにデータを移し替える必要がありました。この点でも「オブジェクト・ストレージ」の特長を活かすことで、既存のサーバーを資産としてそのまま活用しながら、新しいサーバーを追加して、容量を拡張できます。

Q3:オブジェクト・ストレージというサービスはいつ頃からあるのでしょうか?

D:「オブジェクト・ストレージ」の考え方は1990年代からありましたが、ネットアップでは、2001年にこの「オブジェクト・ストレージサービス」事業を立ち上げ、厳格なデータ運用が求められる医療・行政・軍事分野で利用されていました。米国では2003年に医療機関に対して医療情報のプライバシー保護やセキュリティ確保を定めた法律「HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)」が施行され、この規格に準拠するサービスとして需要が大きく広がりました。

2010年頃になると、アマゾン・グーグル・マイクロソフトのような超大規模なクラウドベンダーが現れ、彼らがデータ管理手法として「オブジェクト・ストレージ」を採用したことで、一気に知られるようになりました。現在では、「オブジェクト」という共通の単位でクラウドとオンプレミスのデータ管理を連携させた「ハイブリッドクラウド」が普及しています。

Q4:現時点では、オブジェクト・ストレージはどのような企業が採用しているでしょう?

D:かつては、厳格なデータ運用が求められる医療・行政・軍事分野で利用されていましたが、 最近急速に採用が増えているのは、自動車産業、行政や研究機関、放送・映像メディアの分野です。どの企業にも共通するのは、自然災害など外部要因で起こるリスクを軽減させ、誤操作や喪失など内部要因で起こるリスクを保護し、サイバーセキュリティを高める、ということです。

また今後はあらゆる業界で、「過去の業務データが溜まって数百TBになった」「業務改革でこれまで支店・部署ごとにサイロ化した業務データを全社で一元的に管理・活用したい」「IoT機器のログを分析して業務効率化やマーケティングに生かしたい」といった企業が多くなれば、「オブジェクト・ストレージ」のニーズはますます高まっていくと予想しています。

Q5:今後、データ管理の方法として、オンプレミスとクラウドをどのように使い分けていくのがよいと考えていますか?

D:業務データの管理手法として、オンプレミスとクラウドどちらにも特徴があり、どちらか一方を選択することではなく、使い分けていくことが主流です。一般的にはオンプレミスではより高パフォーマンスで高信頼なシステムを構築でき、クラウドにすれば安価で柔軟に利用することが可能です。

かつてはパブリッククラウドに、セキュリティやコンプライアンスの懸念を感じて、重要なデータを移行することに抵抗を持つ企業もありました。またクラウドは利用ごとにコストが発生するため、使い方によってはコスト高になってしまう場合もあります。

ネットアップは、オンプレミスのインフラとパブリッククラウド・プライベートクラウドの双方のメリットを得られる「ハイブリッドクラウド」の環境構築を推奨しています。これこそが最も良いデータ管理の環境ではないかと考えています。

Q6:具体的にハイブリッドクラウドはどのように活用するのでしょう?

D:オンプレミスの「オブジェクト・ストレージ」とアマゾンのクラウドサービス「Simple Storage Service(以下S3)」が連携できれば、様々なアプリが利用できます。

例えばオンプレミスのストレージグリッドに格納された顔写真を、イメージ分析サービスである「Amazon Rekognition」と連携させることで、「男性」「メガネ」「中年」「恰幅(かっぷく)がよい」などの解釈をオブジェクトのメタデータとして追加することも可能です。オンプレミスとクラウドによる自動のワークフローを構築できることになります。同じくS3の全文検索エンジン「Elasticsearch」もクラウド・オンプレミスの境界なく両方で使うことができます。

つまり機密性の高い顧客名簿や営業計画書などのデータは、オンプレミスに置き、クラウド側のアプリケーションにデータを渡して処理した上で、オンプレミスのサーバーに加工したデータを戻せば、高いセキュリティを維持しながら、クラウドサービスのメリットを享受できるのです。

そのほか頻繁に参照・加工する使用頻度が高いデータは、レスポンスや管理性を重視してオンプレミスに置きは、使用頻度が低いデータは安価にクラウドに保存する、などと使い分ける工夫が可能です。

オブジェクト・ストレージとパブリッククラウドのハイブリッド利用のイメージ(図表提供:ネットアップ)

Q7:今後サービスはどのように進化していくと考えていますか?

D:今後、企業が取り扱うデータは指数的に増加していくことが予想されます。他方で、企業のビジネスルールや行政当局の規制は常に変化し、その都度新しいデータ管理のルールを適用させていかなければなりません。

こうした変化に対してデータの階層構造を気にすることなく、ルール自体を変更することでデータ構成全体を変更できるのがオブジェクト・ストレージの強みを最も生かせるポイントです。

IoTやAIの世界もまだ走り始めたばかりで、今後新しいサービスが生まれれば、それに応じてデータ管理の在り方も急速に変わっていきます。おそらく今から1年後には今では想像できないようなサービスが生まれているはずです。オブジェクト・ストレージという考え方に興味をもってもらえれば幸いです。

ネットアップ合同会社 システム技術本部 ソリューションアーキテクト部ソリューションアーキテクト 箱根美紀代氏

Q8:最後に、具体的に御社が提供するオブジェクト・ストレージサービスについて教えてください。

箱根氏:弊社が提供する「StorageGRID」の特長を3つご紹介します。1つ目は拡張性です。オブジェクト・ストレージのメリットは、専用ソフトをインストールすることで、従来の物理サーバーをひとつの仮想空間に統合管理できることです。とくに弊社が提供する「StorageGRID」の特長は、距離の離れた事業所間のデータであっても、ベアメタル、仮想化マシン、アプライアンス、複数クラウド、テープまで、あらゆる格納形態のデータであっても、一元管理できるのが特長です。本サービスで管理するデータの最小構成は40TB程度としていますが、1サーバーあたりの上限は144PBまで。サーバーは幾つでも連結できるためシステム全体としての容量は無制限です。

2つの特長は開発スピードです。顧客企業のニーズに応えるかたちで、約6カ月に一度のペースで新機能をリリースしています。こうした取り組みが評価され、米国の市場調査会社IDCが2018年6月に発表した「世界のオブジェクト・ストレージ市場」において最上位にあたる「リーダー」の評価を受けました。

■「世界のオブジェクト・ストレージ市場分析」(2018年6月公表)
https://public.dhe.ibm.com/common/ssi/ecm/52/en/52017552usen/idc-marketscape-worldwide-object-based-storage-2018-vendor-assessment-6-2018_52017552USEN.pdf(出典:米市場調査会社IDC )

3つ目の特長はコストパフォーマンスの高さです。前述のように既存のデータサーバー資産を最大限活用することで、初期投資はできるだけ押さえることができます。またパブリッククラウドとオブジェクトストレージをハイブリッド利用することで、ランニングコストも業界標準のAWS「Amazon S3」をフルに利用するより割安に運用できるのが強みです。 

(了)

リスク対策.com :峰田 慎二

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