ボルボ 新型S60海外試乗|セダン好きの琴線に触れる1台が誕生!

ボルボ S60 R-Design

8年の歳月を経て3代目のボルボ S60がついにデビュー

近頃、セダンのカテゴリーに元気がないよな、と感じることが多々ある。種類はたくさんあってもパッと気を惹かれるモデルがあまりないというか何というか。まぁそれも然りといえば然り。世はまさにSUV全盛の時代で、スタイリッシュでキャラクターのハッキリした背高のクルマが増える一方で、セダンは何だか分が悪い。ボルボにしてもXC60とXC40は爆発的といっていいくらいの好調ぶりなのに、あれほど美しく魅力的だったフラッグシップ・セダンのS90はいつの間にか日本への導入が終わり、今では2010年デビューの2代目S60が残るのみ。個人的にはXC60もXC40もたっぷり試乗させてもらい、ものすごく魅力的に感じている。SUVというカテゴリーだって嫌いじゃない。けれど、それはそれとして、“大人の男(と女)のクルマはセダンだろ”という──ちょっと古臭いかも知れないが──信念じみたものもある。そしてそうした古臭いかも知れない感覚を捨てきれない人って、意外と少なくないと思うのだ。

そうしたセダン好きの琴線に触れる1台が誕生した。

例えばフォーマルなシチュエーションも難なくこなせるエレガントな姿。例えばリラックスしながら移動できる空間と乗り味。そうしたセダンとして持つべき条件を不足なしに満たしているばかりか、例えば必要なときや欲しいときに瞬時に得られる力強さとスピードなんていうものも、しっかりと持ち合わせているのだ。

3代目となった、新型ボルボS60である。

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アッパーミドルクラスに位置づけられるS60は、これまでも良質なセダンとして一定以上の評価は得ていたし、見た目以上にスポーティな走りもこなしてくれ、中には強力なパフォーマンスを持たされた特別なモデルも用意されたりもしていた。が、実はボルボ自身がはっきりと“スポーツセダン”と銘打ったのは初めて。成り立ちそのものは、まぁ先にデビューしているステーションワゴンであるV60のセダン版といってしまうと元も子もないのだけれど、実際のところその性格はかなり“スポーツ”を意識したものとなっている。

ボルボ S60 Polestar Engineered

走ることが楽しい”スポーツセダン”な仕上がり

スタイリングを見ても、そのことをそこはかとなく感じることができると思う。Bピラーから前はV60とほぼ共通で、そこから後ろをセダンとしてデザインしているわけだが、パッと見からしてシンプルでクリーンで若々しい。姉にあたるS90の伸びやかで堂々とした肢体も美しいけれど、S60のプロポーションもなかなかのもの。全長は約20cm短いのに幅はたった約3cmほど狭くなっただけで、なのに寸詰まり感など全くない綺麗なバランスを見せている。S90の元々シンプルだった線の類をさらに整理してすっきりさせたことと合わせて、逆にダイナミズムを得たかのような印象だ。

インテリアはXC60やV60の、いわゆる“60系”の意匠そのもので、そういう意味では新鮮味はないけれど、穏やかな水平基調を描くダッシュボード上半分とスクリーンやエアコン吹き出し口などの“機能”を取り囲むようなラインをあしらった動きのある下半分のバランスは、スカンジナビアン・デザイン特有の整然さと優しさが感じ取れるもの。加えて素材そのものや異なる素材の巧みな組み合わせ方などで上質感を演出したその雰囲気は、やっぱり魅力的だ。

そうした目で観ることのできる部分だけでも充分に心惹かれるのだけど、そこは“スポーツセダン”だ。走らせてみると、その好感度はさらに高くなる。用意されていた試乗車がラインナップの中で最もスポーティな仕様である“T8ポールスター エンジニアード”と、おそらくボルボがメイン・グレードとして考えているであろう“T6 AWD Rデザイン”だったのは、そこを味わえというメッセージだったのだろう。

T8ポールスター エンジニアードは、元はボルボのモータースポーツ部門と技術開発部門を兼ね、現在ではエレクトリック・パフォーマンス部門へと立ち位置を変えたポールスターが開発を担った特別仕立て、である。ボルボの上級モデルに積まれるT8ツインエンジンこと2リッター直4ターボ+スーパーチャージャー+プラグインハイブリッドをベースに、主として電気周りにチューナップを加えることで、パワーユニットをシステム全体で421psと670Nmまで引き上げている。また、オーリンズ製のアジャスタブルダンパーやブレンボ製のモノブロックキャリパーなどでフットワーク系も強化している。

ボルボ S60 Polestar Engineered

最上級にはポールスター仕様も用意

新型S60 T8ポールスター エンジニアードの速さはかなりのものだ。アクセルペダルをグッと踏み込んで行くと、低回転域から高回転域まで強力なトルクを絶え間なく発生させ、メキメキとスピードを上げていく。主としてモーター、スーパーチャージャー、ターボチャージャーがそれぞれの強みを見せながら相乗効果を生み出し、どの回転域においてもパワー不足、トルク不足を感じることは皆無。目覚ましい勢いで直線的に加速力を、スピードを生み出していくのだ。もっともバッテリーにゆとりさえあれば70km/hまではEV走行が可能だから、街中や幹線道路を普通に走る分には、ほとんどの局面をモーター駆動による滑らかで高級感のあるフィールを感じながら乗り切れてしまった。それでもそこから先にある段違いの力強さや速さを知ってしまうと、その楽しさや気持ちよさを味わいたいという誘惑には抵抗しがたいものがある。

ワインディングロードに入って抵抗するのをヤメたら、今度はシャシーの出来映えに驚かされた。オーリンズの脚が、かなりいいのだ。結構な速さを支える役割を担っている分だけサスペンションはしっかりと締め上げられてるから、基本的な乗り味としては硬め。だけどゴツゴツした角のようなものは感じられないから、街中でもその硬さが気になったりすることはなかった。その持ち味が最も活きるのがワインディングロードで、ロール少なめの鋭く素速いコーナリングを堪能できるわけだが、例えばコーナリング中に大きめのギャップやギョッとするほどのうねりが出てきてもスッと伸び縮みして、姿勢を乱すことなく、何事もなかったかのように脱出方向に向けて加速させてくれる。だから自信を持って攻め込んでいくことができるのだ。

そうした領域ではブレーキの効きもコントロール性も良好に感じられたが、でも現時点では残念なことが少々。街中で普通に走っているときに、フィールに違和感を感じることが多々あった。というか、制動力そのものには問題はないのだけど、回生ブレーキと油圧ブレーキの協調が今ひとつ上手くいってない印象で、これだけペダルを踏んだらこう効くだろうという予測からちょっと外れた動きをすることがあるのだ。実は今回の試乗車はまだ量産試作車で、ボルボのエンジニア達もその問題に関して認識しているから、市販までの間にはきっちりと埋めてくるのだろう。

ボルボ S60 R-Design

美しいスポーツ・セダンの上陸は2019年の秋辺り

そしてもう1台のT6 AWD Rデザイン。こちらはお馴染みの2リッター直4ターボ+スーパーチャージャーを搭載している。また車高が20mmほど低くなりサスペンションがやや引き締まったセッティングになるなど、他のモデルのRデザインと同じくスポーツシャシーが与えられている。

エンジンのパワーは320ps、トルクは400Nmと他のT6と横並びではあるけれど、このエンジンが5700回転までまっすぐにパワーを伸ばしていくことと2000回転辺りから5500回転辺りまでずっと400Nmのトルクを発揮し続けることで、充分なパフォーマンスを提供してくれるのはよく知られているところ。確かにポールスターには遅れをとるものの、その加速力もスピードの伸びも、一般的な尺度からいうなら結構なもの。速さに不満を覚えるような人は、そうはいないだろう。それに低回転域からのトルク感と高回転に向かって次第に膨らんでいくパワー感の連携のよさ。モーターの助けがない分だけ実質的な速度では劣るけど、逆にその分だけ全域に渡る自然なフィールがあって、それが気持ちよさに繋がっている。

またモーターやバッテリーの重さがない分だけ、クルマの動きも軽やかだ。さすがにライトウエイト・スポーツカーのようなヒラヒラ感を期待するには無理があるけれど、ハンドリングは車体の大きさからすれば軽快というべきレベル。ステアリングを切り込んだ分だけ正確に曲がってくれる素直さもある。エンジンもシャシーも、どちらが爽快かといえば、間違いなくこちらのT6 AWD Rデザインだろう。また乗り味はポールスターよりしなやかでフラットな印象だから、日常的な快適さを望む向きには、こちらのモデルの方がマッチングがいいとも思う。

──といった具合に、ポールスター エンジニアードもT6 AWD Rデザインも、スポーツセダンとしての矜恃をしっかりと持ったモデルである。それに加えて僕が個人的に気に入ったのは、見た目に過剰なところがなく、テイストとしても幼稚なところの見当たらない、大人のためのスポーツ・セダンとして仕上げられていることだ。その辺りの絶妙なさじ加減は、このSUV全盛の時代にあえてセダンを選びたい男(と女)にとって、かなりポイントが高いんじゃないだろうか?

このスッキリと美しいスポーツセダンが日本へ上陸してくるのは、おそらく2019年の秋辺り。わが国ではドイツ車以外の最良の選択肢とまでいわれるようになったボルボからの刺客が、ドイツ御三家のプレミアムセダンばかりを見てる人達にどんなインパクトを与えるのか、楽しみである。

[筆者:嶋田 智之/撮影:ボルボ]

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