イライザ・ロイヤル × WAKAKO - パーソナル・イズ・ポリティカル! 私は黙らない

大事なのは自分で決めること

イライザ:ケーキ作ってきたの。おうちで食べて。

WAKAKO:わ、ありがとうございます。

——ありがとうー。イライザさんって料理が上手だよね。でも昔は、女だからって料理するのはおかしいって、料理しなかったそうで。

イライザ:そうなの。料理して彼の帰りを待ってるなんて、自分の考えに反してると思って。絶対に料理なんかしないって言って毎日毎日コロッケ弁当食べてたの(笑)。そしたら私、35の時に癌になって。入院して手術してって凄い大変で。退院してから体質的にしばらくはお粥しか食べられなくて作るしかなくて。それで料理を始めたらハマッちゃって。楽しくなっちゃって。

——それまでは、女だから料理をするっていう常識はおかしいってやらなかったけど、やってみたら好きだってことに気づいた。好きなことはどんどんやろうって。

イライザ:そう。今は料理が好き。好きなことはどんどんやるわ。でも料理ができることを女子力っていうのは違うのね。女子力高いですねって言われるのがホントに鬱陶しい。

WAKAKO:わかります。私もお菓子作るのは好きなんで。それ言うと意外だねって言われたりもするし。

イライザ:言われるー。意外だね、とか関係ないわよね。好きなことをやってるだけなのに。私、美容とか化粧とかも好きだしハイヒール履くのも好き。そういうのを女子力ってされると気持ちが悪い。なんなのよ、女子力って。それを言うなら人間力よ。

——今日はそういう話をどんどんしましょう。まず2人は表現者だと思うので、そこから。イライザさんはバンドマンで、WAKAKOちゃんは…、WAKAKOちゃんって呼んでいいですか?

WAKAKO:もちろんです。

——WAKAKOちゃんは抗議行動でマイクを持ったことも表現だと思うけど、5月に行われたTRP2018(東京レインボープライド2018)で渋谷の街をパレードした時、サウンドカーに乗ってラップをやってましたよね。こんなにできる人なんだ! って実はびっくりしました。何か表現していきたいという気持ちはずっとあった?

WAKAKO:SEALDsの時の国会前とかの抗議行動は、SEALDsのメンバーそれぞれスピーチをしてたんだけど、政治家みたいにライターが作るんじゃなく、自分で原稿書いて自分の言葉でスピーチしてたんです。で、私はずっと書くことが好きで。これからも書いていく人になりたい。書くだけじゃなく、言葉を発する人。私、歌は全然ダメなんですよ。だけど書くことや発することはできる。抗議の場でやってたことも表現のツールの一つだしラップをしたのもそうだし。自分でZINEを作ってるんですけど、それもツールの一つだし。たぶんツールはたくさん持ってたほうがいい。

イライザ:そうだ、ZINE買いたいの。

WAKAKO:あ、持ってくればよかった! そういうとこ全然ちゃんとしてなくて。

イライザ:私も作ってるのよ、ZINE。持ってきたわ。何号か出してて、一番最初の第一号だけど。あげる。

WAKAKO:ありがとうございます。

イライザ:私、お米が大好きで、6月に田植えしに行ったのね。

WAKAKO:へー!

イライザ:そういうことを書いてる新聞。イライザ新聞(笑)。自分の言葉で書いて残すことって私も好きだし、ZINEっていいわよね。

WAKAKO:増えてますしね。私もいろんなツールを使って言葉を発していきたい。

——イライザさんはバンド始めてから20年ぐらい?

イライザ:20年ぐらいやってる。全然上手くならないの、歌もギターも(笑)。

——カッコイイですよ! 「パンクガールズ」を歌う時なんかガッと目を見開いて。

WAKAKO:いくつか動画を拝見したんですけど、パワーが凄い。私が叫ぶのは抗議行動の時だから怒りだけど、それとはまた違うパワーがあって。生きてる! ってエネルギーを感じて。それはなんだろう? って思って。

イライザ:WAKAKOちゃんも言葉ってことを言ったけど、私も生きてる言葉というか、自分に身についている言葉じゃなきゃ歌えないの。歌詞も全部自分の物語しか書けない。だから本当に思ってることだけで。「パンクガールズ」は、ライヴハウスでバンドのメンバーのガールフレンドが物販でかいがいしく売り子をしてるのを見てるとね…。いや、みんなでバンドやシーンを盛り上げようってしてる中で物販スタッフの存在は大事。でももし自分が何かをやっていて自分の時間を売り子をすることに費やすのなら、自分のことをやってって思っちゃう。彼氏をサポートするのも悪いことじゃないけど、自分にやりたいことがあるならやってほしいし、やりたいことを見つけてほしいの。表現してほしいの。そう思って作った曲。

——イライザさんの曲は自分の個人的な物語だとしても、女の子が共感したり鼓舞されたり、あと女性の立ち位置みたいなものに気づかされたり。「女の独立記念日」とか。あの歌詞は最高。

イライザ:“あんたのチンポは好きだったけど 頭の中身はどうかと思うわ”って歌ってて(笑)。

WAKAKO:うははは。

イライザ:その歌は、昔の彼氏のことで。震災後、私が反原発のデモに行っていたら、そいつ、「バンドやってる人は反原発反原発って言ってる人多いし、そっち側にいれば楽でしょ」とか言って。そんな感じの人だったのよ。冷笑的な人。

——女性の方がジャッジされることが多いじゃない? それがあの歌詞はイライザさんがジャッジしてる。だから個人的なことなのに、こう、世の中とコミットしてるんだよね。

イライザ:コミットしてもらえるとうれしい。

——でも以前はもっと社会的な歌詞だったこともあったそうで。

イライザ:10年ぐらい前、私ヴィーガンだったんだけど、動物実験反対で。ブッシュの頃、イラク侵攻反対のデモに行ったり。そういうことを歌詞にしてた時期もあった。戦争反対とかね。今はね、もちろん世界のことも大事だし心を痛めるけど、どんどん自分のことに向かってる。自分のことだから自分の言葉が出るの、自分の言葉が歌詞になるの。伝えたいことはいっぱいあるけど、自分のことを歌いたい。パーソナル・イズ・ポリティカルって、ホントに思うのね。

WAKAKO:私もそう思います。

——今こうして話してるのも社会だと思うし。で、パンクを聴いたのが先?

イライザ:パンクを聴き始めたのは中学生とかでバンドはその後。バンド始めたのは20歳ぐらい。当時、ライヴハウスでバイトしてて、仕事終わってから楽器使えるからジャムろうってバンドっぽいこと始めたんだけど、それは全然形にならなくて。ライヴハウスにお客として通い始めて、バンドやってる人も多かったし、それでなんとなく。バンドやるぞ! って感じじゃなくなんとなくやってたのよ。私、仕事はSMの女王やってるんだけど、プロの女王になってから15年ぐらいなのね。それまでも調教師的なことはやってたんだけど、やっぱり勉強したいと思って縄の師匠さんが教えてくれるクラブの門を叩いて入って。で、今は掛け持ちでカフェで仕事しててケーキを焼いてるの。ファンシーでしょ(笑)。私、自分の仕事、SMの女王も大好きなの。ただ女王になったのも絶対なりたい! 男を調教したい! ってのもなく。やっぱりなんとなくなの。全ては運命のまま(笑)。

——ちょっと女王のことを聞かせてほしいな。やっぱり師匠さんがいて…、

イライザ:そう。職人の世界で。師匠さんについて教えてもらったり、お姉さん方からセッション見せてもらったり。教えてもらうかわりに使った部屋を掃除するみたいな。そういう世界。それが面白かった。楽しかったなぁ。

WAKAKO:私、山田詠美が好きで。メチャメチャ好きで。

イライザ:私が修業してたクラブって、詠美先生が働いてたといわれるクラブがなくなった後、その場所に新たに入ったクラブなのよ。だからちょっとだけ縁があるの(笑)。

WAKAKO:羨ましい(笑)。当時、エイミーの小説は叩かれるぐらいに新しかったですよね。たぶん、セックスに向き合って…、それまでとは違う姿勢でセックスと向き合ってる文学だと思って。コレを文学にできるってスゲェって。

イライザ:うんうん。文章自体の技術も凄いしね。作家に技術が凄いなんて言うのは失礼だけど、ホントに上手。

WAKAKO:読む人にとってはその内容を、消費されてるだけじゃんとか品がないじゃんとか言う人いるけど、わかってないなぁって。

イライザ:そういうふうに見られがち。SMというフィルターを通してるから色眼鏡でね。

WAKAKO:もしSMやセックスだけで売れようってものなら消費されていってたかもしれないけど、エイミーはセックスを書かないと文学ができないってわけじゃない。でも私はエイミーがSMで働いてた時の作品が大好きで。むしろそれに消費されないものを感じて、凄いなって。で、私の周りにもSMではなくてもそういう業界にいる人がいて、その子たちのほうがそういう業界に縁がない人より、だいぶ真面目にフェミニズムを考えてるように思う。考えざるを得ないとこもあるんだろうけど。

イライザ:真面目だし、ケアのことも詳しい。詳しくて当たり前よね、自分を守るためだから。

WAKAKO:検査にいくのも性的なことじゃなくて健康のためですよね。でもそれを言うと、そのイメージだけでとられる。産婦人科に行ってる女って。

イライザ:日本って、日本ってとか言うと主語が大きくてアレだけど、私の仕事にはいろんな国の人が来るのね。うちはセックスは一切ないの。ないんだけど、日本の男性は性に対して変に安心してるというか、ぼんやりしてるとは思う。プライベートでもそれは思う。

WAKAKO:ツイッターかなんかで、彼氏がコンドームつけたがらなくてどうしたらいいでしょう、みたいなのを見たんだけど…、

イライザ:その彼氏をここへ呼べ! 正座正座(笑)。

WAKAKO:ホント呼んでほしい(笑)。私、去年まで2年ぐらいドイツにいて、ドイツに行ってから低用量ピルを飲むようにして。向こうでは14歳ぐらいから当たり前に飲んでる。私が飲んでないって言ったらびっくりされた。妊娠しようとしてるの? って。いろいろ聞いて飲むようにして。それを日本の人に言うと、遊びたいんでしょって。

イライザ:もうー! ピルの話ってヘルスのこと、自分の体のことなのに。

WAKAKO:ホントにそう。あと遊びたいから飲んでたって、別にいいですよね。

イライザ:そうそう! 遊びたいことは責められることじゃない。それぞれの自由。大事なのは自分で決めるっていうこと。

WAKAKO:人によるだろうけど生理痛が減ったり肌荒れもなくなったりするのに、そういうのは知られてなくて。あと医者。飲まないほうがいいって言うとこもあるみたいで。手にすることもできなかったりする。

イライザ:産婦人科って差が激しすぎる。だから産婦人科には行きづらいってなって、必要な時に行けなくなる。

——性ということを世間が隠そうとしてるし。当たり前なことは隠して、隠すべきものを見せて。

イライザ:そう! おかしいのよ、逆転してて。セーフセックスなり検査なり避妊なり、教育としてやるべきことには蓋をされていて、セクシャルな広告とかは街にバンバン出てるわけじゃない? こんなのが法的にOKなの? ってものが視界に入ってくる。日本って、辛くない? 辛いよね。でも私、実家に帰ってそういうこと言ってると、日本から出てけとか言われるの。

WAKAKO:私も言われます。イヤなら出てったほうがいいよって。

イライザ:凄くない? 問題に向き合わない、その態度。

「私たち」じゃなく、「私」

——自分が信じてきた常識が崩されるのが怖いんでしょうね。ちょっと話飛ぶけど、WAKAKOちゃんの中学、君が代斉唱の不起立で停職処分を受けた根津公子先生がいらしたそうで。

イライザ:あ、そうなのね。あの出来事は覚えてる。酷い話よ。

WAKAKO:そうなんです。先生が復帰して、校門の前でトラメガ持って抗議してたのが、私が中学二年生の頃。私の家はかなりリベラルな家で、何故、君が代斉唱を拒否したのか、その意味は教えてもらっていて。トラメガ持って校門に立つ先生に、頑張ってくださいって声をかけたかった。でも言えなかったんです。彼氏もいたし部活の友だちや先輩もいた。先生に声をかけたらたぶんみんな離れていっちゃうんだろうなって。おはようございますぐらいは言ったんですけどね。見てますよって感じで。で、それから8年ぐらい経って、私は国会前でガンガンやってて。そこで根津先生と再会して。頑張ってくださいって言いたかったって、やっと言えた。

イライザ:なんか泣きそう。私、すぐ泣いちゃうの(笑)。

WAKAKO:私もです(笑)。当時、根津先生は2ちゃんねるとかでも叩かれてて。10年後に自分もこれだけネットで叩かれるんなら声かけとけばよかった(笑)。再会してからお話をして、そしたら当時、職員室でも誰一人口をきいてくれなかった、無視されてたって。足ひっかけられたこともあったって。

イライザ:うわー。教師同士で!?

WAKAKO:私、そういう人たちが牛耳ってた教育の現場で育っちゃったんだってことが凄いショックで。授業はよくさぼってたんですけどね、さぼってて良かった(笑)。私がSEALDsでやっていた頃に凄く叩かれたのも、はいはい、ずっと世の中はそうなんですねって。

イライザ:空気を乱されることを怖がるのよね。だから叩く。あと女で思想を持つと容姿のことを問われるじゃない? 関係ないのに。それは日本だから? WAKAKOちゃん、ドイツにいてどう? 日本をどう感じた?

WAKAKO:私が知ってる範囲の比較でしかないんだけど、なんか、日本人って人を褒めない。

イライザ:日本って褒める文化がないよね。それで、ディスる=仲がいいみたいな感じもあるじゃない? あと変な謙遜とか。

WAKAKO:家族でもそうですよね。夫婦は勿論、親子も。

イライザ:うちの愚妻がとかうちの愚息がとかね。意味わかんない。あと肩書をつける時に美人弁護士とか美人女医とかつく。なんなの、それ。

WAKAKO:SEALDsやってた頃、メディアのインタビュー受ける時も必ず、何とかの女特集、怒れる女特集とかね。SEALDs女子って特集とか。男にはそれ言わないですよね。

イライザ:SEALDs男子とは言わないよね。バンドもそうね。女性バンドとは言われるけど男性バンドとは言われない。

WAKAKO:それだと個じゃないですよね。女の子っていう記号が先にきてそれで消費されていく。で、私、ドイツに2年弱いて、体重が増えたんですよ。去年の今頃帰ってきて減ったんです。ダイエットもしてないのに。なんでかなって思ったら、プレッシャーで落ちたんだと思って。帰ってきたら周りは細い子ばかりで、自分も知らない間にプレッシャー受けてたんだと思う。

イライザ:日本の若い子、細くなりたがってるわよね。ガリガリよ。

WAKAKO:太るなって彼に言われるとか。

——彼氏の基準が自分の基準になっちゃう。

WAKAKO:あと世間の基準が自分の基準になってる人も多い。

イライザ:世間がプレッシャーを与えるのね。ドイツではそれがなかったのね?

WAKAKO:うん。でも…。私、料理は基本しないんですよ。でもドイツの食べ物が合わなくて。ソーセージは美味しいしビールも美味しいけど他は苦手。やっぱお米食べたいし、そしたら炊かないとないし。イライザさんみたいに必要だから料理しただけで、彼のためにやってたわけじゃない。なんだけど、彼氏が仕事で凄く忙しい時、頼まれてもないのに、私、5時起きでお弁当作っちゃって。彼氏、日本好きだから全部日本のおかずとかで。朝から米炊いて揚げ物も作って。

イライザ:朝から揚げ物はハードル高い(笑)。

WAKAKO:凄い喜んでくれて。でもなんか、送り出してからスゲェショックで。何やってるんだろうって。

イライザ:わかるわかる。普通に美味しいものは食べてほしいのよ。そういう愛情はあるしそこは否定したくないんだけど。

WAKAKO:美味しいもの食べてねって愛情と、社会にあるいい彼女のイメージ、そのバランスが私はまだとれてないんだろうなって。

イライザ:私もよ。自分で作ったご飯もお菓子も自分で食べるのはなんの抵抗もない。でもお弁当問題はあるわね。私もフランス人と付き合ってた頃、彼にお弁当作ってあげて楽しかったけど、ふと思ったことあるもん。自分がやりたくてやってるのか、彼氏のためにやってるのか、そしてそれは社会が作ったいい彼女のイメージに沿ってるんじゃないかって。

WAKAKO:私、彼氏はドイツ人でフェミニズムに関しては私より全然わかってる人で。絶対にお弁当作ってくれなんて言わない。そういう人に、5時起きでお弁当作るのは、それがいい彼女なんだって自分で思ってるわけで、無意識のうちに。見送ってキッチンの洗い物見たら、うーんってなっちゃって。誰に負けたわけでもないんだけど負けた気になって。

イライザ:わかる。だからといって、作らないぞ!ってなるのは違うのよ。このモヤモヤ、人には伝わりにくいし考え過ぎじゃない? って言われると思うけど。

WAKAKO:でも大事だと思う、考えることは。

——やりたくてやってることと社会が求めるいい女性像みたいなものが合致すると、普通はいいことじゃんって思うだろうけど。

WAKAKO:でもそういうモヤモヤっていろんな場面であると思う。例えば、私は週末にヒール履いて遊びに行くんだけど、痛いじゃないですか、高いヒールは。帰りはたいていヒール脱いで裸足で歩いてるんですけど(笑)。ヒールも好きだし好きな服を着てるんだけど、どこか、30%ぐらいは期待されてることをやってる部分があるのかなって、無意識にも。

イライザ:わかる!

——2人はセクシーであることを期待されているとこがあるのかもしれないけど、期待に応えてるんじゃなく、これが私よって胸張ってる感じでカッコイイです。あと、セクシーなファッションは男性が期待するものだからフェミニズムには反するって思ってる人もいるわけで。それに対しても、セクシーはフェミニズムに反してないって。

イライザ:そうそう。反してないのよ。だからそれを、何故ナチュラルにできないのかなって。ナチュラルにさせてくれないものがあるんじゃないかなって。だからWAKAKOちゃんが言うように考えていくことは大事なのよ。

WAKAKO:やっぱそれって、なんだろうな、タブーにしなくていいことをタブーにしちゃってる世の中が…。私、ドイツに行ってからタトゥーを入れたんです。SEALDsでやってた頃はタトゥーはマズイだろうなって思ってたから。でも今は別にいいじゃんって。コレもアートだし表現の一部だし。そんなたいしたことじゃないって思ってる。でも一定の人には受け入れられない。それはタトゥーだけじゃなく、隠さなくていいことも隠さなきゃいけないようになってて。セックスワークは隠してたほうがいいみたいなとこあるし、政治的な思想もそう。おかしいですよね。

イライザ:社会が未熟ってことなんでしょうね。社会が未熟だからオープンにできない。私自身、職業のことはオープンなんだけど、私のお客さんは自分の性癖に気づいた人たちなのよ。それは隠さなきゃいけないことかもしれなくて。でも私のとこに来れば解放できるわけ。今の世の中でそういう場所を見つけたっていうのは凄くいいことだと思うの。

WAKAKO:あぁ、うんうん。

イライザ:私のところに来る人は解放できる場所を見つけた。素晴らしいと思う。だから私は自分の仕事が大好きなの。

——例えばセックスワーカーの女性に上から目線で差別的に振る舞う人は?

イライザ:私が女王だからなんだろうけど、私のお客さんは会社での役職とか男としての役割とか、そういうの取っ払うために来てるのね。そんなもん私のとこでは通用しないしね。ただね、若い頃は舐められたことがあったな。でも粛々と技術を身に着けて、そしたらきちんとした客だけが来るようになった。ふるいにかけてよかったわ。若い頃は舐められることが悔しくてね。バンドでも上から目線でアドバイスしてくるおっさんがいたり。今はおっさんのクソバイスはなくなった。凄く楽しい。ただね、女ってだけで舐められることもあるわけよね。辛いわよね。ナチュラルに生きていたいだけなのに、何故、まず舐められまいってかまさなきゃないのかっていう。

WAKAKO:朝の満員電車に乗る時もなるべく女の人の側にいるようにしたり、夜道でも遠回りしたり。本来しなくていいことをしなきゃいけない現状。あの私、もうすぐ25歳になるんですけど、実はちょっと、これからどうなるんだろうって思ってて。

イライザ:楽しいわよ! でもそれ、ババアのマウンティングってとられるから、考えてから言ったほうがいいよって言われるの(笑)。

WAKAKO:特に男の人から、今が一番いい時だねってスゲェ言われるんだけど、大きなお世話っていう。

イライザ:オマエが20代の頃ピークだっただけだろ。オマエの経験をなんで世間一般ってツラして語るんだっていう。一番いい時なんて自分で決めるわ。

WAKAKO:常に今が一番いい時ですよね。昨日より今日。

イライザ:ホントにそう!

——そうそう! 最後に、WAKAKOちゃんはドイツから帰ってフェミニストたちと「I AM」というグループを作って、「私は黙らない」という街宣を新宿でやった(2018.4.28)。イライザさんと行ったんだけど、「私たちは」じゃなく「私は」なんだよね。

WAKAKO:「私は黙らない」って、私は黙らない、だけどあなたが黙っているのはOKってことで。私たちって言ってしまうと、特に日本の社会では、私が消えちゃう。私はSEALDsのWAKAKOでもなく「I AM」 ってグループのWAKAKOでもなく、ただの個だから。それをわかってくれないと人権もクソもないし。ちゃんと主語を持ってくれよってこと。私っていうのをみんながもっと持ってくれないとダメだよねっていうことです。英語の「I」はホントに個を差すんですよね。日本語の「私」には「I」が持つパワーはなくて。「私」って言葉に「I」ぐらいのパワーを持ってほしくて。だから日本語で「私は黙らない」にしたんです。でもね、黙りたい人もいますよって言われたり。

イライザ:それをわかってるから「私たち」じゃなく、「私」なのにね。

WAKAKO:そうそう。それは「私」が選択することで。

イライザ:それぞれが選択するってことが個なのにね。個として選択があって、「私は黙らない」。

——もう一つ最後に。WAKAKOちゃんはクライシスセンターを作ることが目標で。

WAKAKO:長期的な目標なんですけどね。街宣でも私はレイプされたことを言ったんですけど。その時、ショックでパニックで、ホットラインみたいなとこに電話したんです。そしたら対応が全然ダメで。で、街宣で自分の体験を話したら、ツイッターにメッチャメッセージがきて。自分もこういう経験をしたって。こんなに言えてない人が、言う場所がない人がいたんだ! って。ケアする機関はあるんだろうけど、言えてない人がこんなに多いってことは、まだまだ必要なんだと思う。性教育の知識を得られたり、検査ができたり、コンドームやピルをもらえたり、フェミニズムに理解のある産婦人科やセラピストとかと繋げたり。そういうサポートする場所がないとマズイなと。そういう場所を作りたい。あと、私は実際にレイプという体験をして、そんなことがなくてもクライシスセンターをやろうと思えればよかったのかもしれないけど、実際に体験したからその痛みはわかる。でも在日の人や障碍を持つ人の痛みは実際にはわからない。想像するしかない。その想像力を鍛えたい。だから勉強していきたいんです。

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