日産 リーフ e+(イープラス) 試乗|航続可能距離570kmをマーク! ハイパワー版リーフの実力を徹底評価

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

ゴーンショックを吹き消せるか! 渦中の日産から高性能版リーフがデビュー

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

昨今の日産といえば、カルロス・ゴーン元会長の逮捕問題で騒がれているが、商品に関しては、以前から話題性が乏しかった。国内で売られる日産車を見ると、発売から長い期間を経過した車種が目立つ。例えばキューブの発売は2008年、フーガは2009年、エルグランドとジュークは2010年という具合になる。2011年以降は、新型車の発売が1~2年に1車種まで減った。

その結果、日産の国内販売は、ノート、セレナ、軽のデイズ&同ルークスなど、一部の車種に支えられている。新型車が少ないため、既存の車種のグレード追加も重要になった。

そこで注目したいのが、2019年1月9日に発表された電気自動車の「リーフe+」(イープラス)だ。

e+はリーフのパワーアップ版に位置付けられる。本来は2018年11月下旬に発表する予定だったが、カルロス・ゴーン元会長の不正問題が生じて先送りになっていた。

リーフ e+に搭載される大容量62kWhのバッテリーでどこが進化した!?

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

JC08モード570km/WLTCモード458kmの航続可能距離を達成!

日産 リーフ e+の変更点は多岐に渡る。まず駆動用リチウムイオン電池の容量を、ノーマルグレードの40kWhから62kWhに引き上げた。これによって1回の充電で走れる最大距離(航続可能距離)は、JC08モード走行で570kmになった。WLTCモード走行では458kmだ。リーフ(ノーマルモデル・40kWh)の航続可能距離がJC08モード400km/WLTCモード322kmだから、リーフ e+であれば1回の充電で走れる距離が1.4倍になる。

WLTCモードは実走行に近いとされ、この計測方法で458kmを走行できれば、実用的には十分という見方も成り立つ。

動力性能の大幅向上や充電時間の短縮など利点は多い

駆動用電池の容量が62kWhになると、急速充電に要する1kWh当たりの時間を短縮できることもメリットだ。電池残量が50%の状態から30分間充電した時の充電量は、40kWhの1.4倍になる。

さらに同じモーターを使いながら、リーフe+は動力性能を向上させた。ノーマルグレードの最高出力は110kW(150馬力)だが、リーフ e+は160kW(218馬力)に強化されている。比率に換算すると1.5倍だ。最大トルクも320Nm(32.6kg-m)から340Nm(34.7kg-m)に増えた。

性能向上に伴い剛性を向上させサスペンションも改良

このように駆動用電池を高性能化しながら、電池自体のサイズはあまり大型化されていない。最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)を15mm下げて135mmに抑えるなどの変更は生じたが、居住空間の広さはノーマルグレードと同じだ。

リーフe+は動力性能の向上に応じて、ボディ剛性も高めた。大容量の電池を搭載するためにボディの下側が変更され、特にサイドシル(乗降時に跨ぐ敷居の部分)など、両端を強化した。

サスペンションも改良され、ノーマルグレードの40kWh仕様も含めて、ショックアブソーバーのバルブなどを変えている。

62kWhの駆動用電池を搭載する高性能版、日産 新型リーフe+の気になる運転感覚の違いについて、デビュー早々に確かめる機会を得た。さっそくテストコースで試乗してみよう。

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

テストコースでリーフ e+を徹底試乗!【よいところ】

ノーマル比1.4倍! ちょっと過激なくらいの圧倒的なパワー差を実感

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

リーフ e+を発進させて最初に感じたのは、モーターの動力性能が大幅に高まったことだ。最高出力が1.4倍に増えたことを実感する。もともとモーターは瞬発力が強いが、リーフe+ではこの特性が明確に表現された。例えば時速60km前後で真っ直ぐ走っている時に、アクセルペダルを素早く深めに踏み増すと、駆動輪の前輪がホイールスピン(空転)を発生するほどだ。普通のエンジンを搭載したクルマでは、激しいシフトダウンなどを行わない限り、走行中にホイールスピンが発生することは考えにくい。

しかも電気自動車だから、当たり前の話だがノイズが小さい。アクセルペダルを踏み増した次の瞬間、ほぼ無音で力強い加速に見舞われると、ちょっとビックリさせられる。ほかのパワーユニットでは味わえない電気自動車独特の加速感だ。ノーマルグレードの動力性能を従来のエンジンに当てはめると、2.5~2.7リッター相当だが、リーフe+は3.2~3.5リッターと受け取られた。

高回転域の伸び悩みもなく、ダイナミックな走りを堪能出来る

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

高回転域の吹き上がりも良い。モーターの性質により、リーフのノーマルグレードでは加速を続けると次第に速度上昇が鈍るが、e+はこの限界速度が高い。少なくとも法定速度内で走るなら、モーターの回転伸び悩みを感じる機会はほとんどないだろう。初代(先代)リーフが2010年に発売された頃に比べると、電気自動車の技術と動力性能は大きく進化した。

開発者にリーフe+のチューニングについて尋ねると、「パワーの立ち上がり方をもう少しマイルドにすることも考えたが、結論としては、ドライバーの操作次第で駆動力を一気に高められる設定にした」という。

ちなみに電気自動車が先に述べたホイールスピンを発生させると、タイヤがグリップを回復して空転が止まった段階で、モーターに大きな負荷を与えてしまう。そのために電気自動車やハイブリッド車は、トラクションコントロールを確実に作動させてホイールスピンを徹底的に防ぐことが多いが、リーフe+は相応に許容する。動力性能と併せて信頼性も高まり、ダイナミックな走りを味わえるようになった。

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

テストコースでリーフ e+を徹底試乗!【気になるところ】

圧倒的な動力性能の向上に車体剛性や足回りが追いついていない面も

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

ただし動力性能と走行安定性のバランスは良くない。リーフe+はノーマルグレードに比べてボディ剛性と安定性を高めたが、それ以上に動力性能が勝るからだ。

リーフはカーブを曲がる時に4輪それぞれにブレーキを作動させ、車両を積極的に内側へ向ける制御を行う。この作動もあってリーフe+は良く曲がり、旋回軌跡を拡大させにくいが、後輪の安定性は少し頼りない。危険を避けるために曲がっている最中にアクセルペダルを戻したり、少し素早い車線変更を行ったりすると、後輪の接地性が削がれやすい。

昨今の足まわりの考え方は、安定性を重視して、曲がりやすさよりも後輪の接地性を優先させるのが常識だ。それなのにリーフは、ノーマルグレードも含めてグリップバランスが少し前輪寄りだ。高性能版リーフ e+はこの傾向が特に強い。

先代からキャリーオーバーしたプラットフォームの限界を感じる

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

現行リーフは、プラットフォームとボディの主要部分を先代型から流用しており、潜在的な性能があまり高くない。そこにリーフ e+ではさらに強力な動力性能を組み合わせたから、安定性の実力が露呈した。

車両重量も重い。ノーマルグレードは1490~1520kgだが、e+は1670~1680kgに達する。実際にカーブを曲がる時も、ボディの重さを意識させられた。この点を開発者に尋ねると「ボディとのバランスから、リーフe+は限界的な性能を与えている。これ以上のパワーアップは、もはや無理だ」という。

乗り心地は閉鎖されたコースを走る分には悪くないが、カーブの手前でハンドルを切り込んだ時などに、ボディがやや唐突に傾く違和感があった。これも安定性の不満に結び付いている。

燃費重視のタイヤや、サポート不足で柔らかいシートも改善の余地あり

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]
日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

タイヤの設定も影響した。試乗車のタイヤは17インチ(215/50R17)で、銘柄はダンロップ・エナセーブEC300だ。指定空気圧は250kPaになる。転がり抵抗を抑えた低燃費指向のタイヤで、サイズもあまり太くないから、動力性能を高めるとグリップ性能が不足しやすい。

シートにも足まわりと似たことが当てはまる。前席は着座位置が高めで、周囲は良く見えるが、ボディの傾き方を強く感じやすい。座り心地は柔軟で心地好いが、座った時に着座姿勢がいまひとつ落ち着かない。そのためにカーブを曲がる時のサポート性も良くない。

後席も同様だ。体を深く沈ませる独特の座り心地はリーフの特徴だが、沈み切ったところで、体をもう少し確実に支えて欲しい。シートを改善すると、独特のリラックス感覚が生じて、電気自動車の静かな走りと優れた相乗効果を生み出すだろう。

つまりリーフに必要なのは、パワーアップではなく、走行安定性、乗り心地、シートを改善して、車両全体のバランスを整えることだ。動力性能は40kWh仕様で十分だから、質を高めることに力を注いで欲しい。

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

リーフの高性能版“e+”から見えてきた、電気自動車の次なる一手

リーフ e+にこそ、徹底チューニングを施した“NISMO”仕様が必要だ

一方、リーフe+の圧倒的な動力性能には、別の活用方法があると思う。

リーフに搭載するなら、ボディと足まわりに徹底したチューニングを施し、価格が高まってもNISMOのようにスペシャルティな世界観を表現したい。そうなればこのパワーが生きてくる。

より上級な電気自動車バリエーション展開にも“e+”の高性能は有効

リーフe+の優れた動力性能は、もう少しボディの大きな上級指向の電気自動車にも似合うだろう。

専用開発された日産の電気自動車は現在リーフのみだが、今後は車種展開も増やすことだろう。リーフe+の性能があれば、上級車種にも十分に搭載可能だ。

2019年1月14日より開幕の北米・デトロイトモーターショーで披露される予定のインフィニティ版EVコンセプト(QX Inspiration concept)にその答えがあるかもしれない。

日産 新型リーフ NISMO(ニスモ)
INFINITI QX Inspiration concept[2019北米デトロイトモーターショー出展のインフィニティ版EVコンセプトカー]

リーフe+は2グレードの展開、価格はノーマル比で約50万円高

リーフe+は2グレードが用意される。価格は、リーフ e+ Xが416万2320円、リーフ e+ Gが472万9320円になる[価格は消費税込、以下同]。ノーマルグレードも踏み間違い衝突防止アシストやLEDヘッドランプを全車に標準装着して価格を高めたが、リーフ e+ Xは、ノーマルグレードのX(3,661,200円)に比べてさらに約50万円高い。これには少し割高感が伴う。

リーフe+をお勧めしたいユーザーはこんな人

日産 リーフ e+(イープラス)[62kWh版]

リーフe+の価値を生かせるのは、高速道路を移動する機会の多いユーザーだ。高い動力性能は、登坂路や追い抜きをする時の余裕に繋がり、航続可能距離の拡大も高速道路での安心感と利便性を高める。

また現時点でリーフを使っていて、走ることの出来る距離や動力性能に不満のあるユーザーにも適する。

日産 リーフはエコカーの代表とされるが、リーフ e+の加速力には迫力が伴って、スポーツカーのような気分を味わえた。電気自動車を走りの楽しさで語れる時代が到来したことを、まずは喜びたい。

[筆者:渡辺 陽一郎/撮影:和田 清志]

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