横棒を越えて

 なるほど、その通りだと、その2文字にじっと見入る。「サラダ記念日」の歌人、俵万智さんに一首がある。〈青春という字を書いて横線の多いことのみなぜか気になる〉。確かに縦線よりもずっと多い▲例えば走り高跳びに、障害物競走に、越えねばならない横の棒がある。青春も同じで、ハードルが付きものだと歌人は詠んだのかもしれない。横棒を前にして、跳躍に挑む時が迫る。19日からのセンター試験まで10日を切った▲受験の志願者数は、前年度よりも6千人ほど減って57万人余りという。本県では、この春に卒業予定の現役生と既卒の人を合わせて5500人ほどいる。受験生も親御さんも、ずっと気が張りっぱなしの年始だったことだろう▲以前、週刊誌が「受験生を励ます言葉」を読者から募った。上位に選ばれた作がある。〈クラスみんなで共有できる苦しみが他にあっただろうか?〉。ハードルを越えよう。心は皆同じだった、と▲あまり会話もなく、昼休みも放課後も、皆それぞれ黙々と机に向かう。それでも心のどこかで励まし合っている。筆者にとっては茫々(ぼうぼう)とした往時だが、受験前の教室の凜(りん)とした空気は忘れられない▲ささやかな声援にすぎないが、小欄の「黒い三角」を、線で結べばVサインになるよう置いてみる。横棒の君、頑張って。(徹)

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