その名は「幸福」

 きのうの昼間、道路の脇に晴れ着姿の若い女性がいた。そうか、長崎市の成人式に出て、その帰りなんだな、と思っていたら、1台の車がそばに止まって、女性は笑顔で乗り込んだ。迎えに来た父親だろう、運転席の男性もまた、ほほえんでいた▲式典会場では友人たちと新成人を喜び合った皆さんが、うちでもまた、記念写真に収まったりして、笑顔を浮かべたことだろう▲詩人の吉野弘さんに「一枚の写真」という一編がある。おめかしをした幼い姉妹が写った1枚を詩にしている。〈この写真のシャッターを押したのは/多分、お父さまだが/お父さまの指に指を重ねて/同時にシャッターを押したものがいる/その名は「幸福」〉▲今はシャッターよりも、スマートフォンの画面でパチリと撮る方が多数派だろうか。着飾った笑顔の人を撮ろうとするその指を、上から押す別の指があるらしい▲祝ってもらって幸せだな。今、感謝の念を抱いてそう感じる新成人もいれば、いつの日か写真を見返して、撮ったその場に幸福が“同席”していたのを知る人もいるかもしれない▲着飾る「晴れの日」を終え、きょうの「成人の日」はいつもの服装で、家族や親しい人にお祝いされる若い人もいるだろう。笑顔の記念撮影に指を重ねる“もう一人”は、きょうもまた忙しい。(徹)

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