現場と事業側の「適材適所」から――DeNA岡村球団社長が目指す“地産地消”構想

新たな球団の在り方について語ったDeNA・岡村信悟球団社長【写真:荒川祐史】

監督が替わっても方針は変わらない一貫したチーム作り

 横浜DeNAベイスターズは、1949年に山口県下関市で株式会社まるは球団として産声を上げ(1950年開幕後に大洋ホエールズに改名)、今年創設70周年目を迎える。2012年から現体制となったチームは、中畑清監督の下での再建期を経て、アレックス・ラミレス監督が就任した2016年から2年連続でクライマックスシリーズ(CS)に進出。2018年こそ、わずか1勝差でリーグ4位となったが、主砲で主将の筒香嘉智外野手を中心に、若く活きのいいチーム作りに成功している。
 
 事業面では、横浜市と連携して「横浜スポーツタウン構想」を進めながら、未来につながる新しい球団・球場の在り方を探るDeNA。先人が文化として根付かせた野球を、より発展、成長した形で未来へ引き継ぎたいという思いは、チーム編成の面にも現れている。「追浜で育ち、ハマスタ(横浜スタジアム)で活躍し、そして指導者になるという好循環を生み出したい」という“地産地消”構想を語るのは、岡村信悟球団社長だ。

 球団が目指すのは、監督が替わっても方針は変わらない一貫したチーム作りだ。

「野球は本当にプロフェッショナルなスポーツですので、長い伝統とそこに尽力してきた人脈があってこそのもの。私たち事業側に野球の専門性があるとは、まったく思っていません。だからこそ、その専門性がより生かされるための、より魅力的な環境を作ることに尽力しようということですね。

 これまでも高田繁前GMにチームの基礎を作っていただき、中畑さんに人気の基礎を作っていただいた。そして70年間、OBの皆さんに支えられている。こういった方々の力なしには、野球やチーム作りは語れません。ですが、2019年からは選手経験のない球団代表の三原(一晃)が球団代表ということでチーム編成のトップに立ち、チーム統括部やデータ分析部門などの環境をしっかり整え、皆さんの専門的な知識を存分に生かしていただこうというわけです」

現場と事業側の融合「専門的な知見を持つ人が適材適所で」

 事業側がチーム編成権を持った場合、選手出身の現場と距離感が生まれ、スムーズなチーム運営が為されない恐れもある。そこで岡村氏が掲げるキーワード「適材適所」だ。

「現場と事業側はお互いにいいところを出していけばいい。そっぽを向いた相容れないものであってはいけないと思います。現場に対する尊敬を持ちつつ、皆さんの力を発揮できるように、我々背広組は環境作りをやっていきたい。DeNAという企業が持つIT技術を生かしたデータを操るシステム環境、追浜のファーム施設のようなトレーニング環境の整備、オーストラリアの球団など海外との折衝というような仕組みを作ることは、中長期的な視点でチーム作りを考えた場合に重要だと思います。どちらが主導権を握るというわけではなく、それぞれ専門的な知見を持つ人が適材適所でチームを作っていければ」

 事業側が作ったシステムや環境で、現場が力を存分に発揮する。あるいは、現場がより大きな力を発揮するために、事業側がよりよい環境を整える。選手も含めた現場とフロントが両輪となり、チームに関わる人すべてを巻き込んで、1年1年チームを強くしようと勝負し続けることこそが、球団経営のあるべき姿だと考えているという。

「何よりもファンの夢を背負うのは選手たち、そして勝敗の責任を負うのは監督。でも、彼らが伸び伸び力を発揮する環境を作るのは事務方の仕事。現場も頑張っている。我々も頑張っている。そういういい意味での緊張関係があるからこそ、チームを強くしたいと一層燃えると思うんです」

 横浜、そして神奈川とともに発展するチーム作りを目指す上でも、1つのモデルとして確立したい形がある。それが「追浜で育ち、ハマスタで活躍し、そして指導者になる」という流れだ。

岡村氏が考える「ベイスターズらしさ」とは…

「基本的には2019年に完成するファーム施設をきっかけに、追浜で育ち、ハマスタで活躍してもらい、その姿をファンや地域が見守った後は、指導者になる、という循環を生み出したいですね。

 今年で言うと、25年間も横浜一筋でプレーしてきた三浦大輔さんが投手コーチとしてチームに戻る。そうすると、チームを見守ってきたファンにはそれぞれ、新人の頃、日本一の時、ベテランになってから、あるいはコーチとして、さまざまな『あの時の番長』という記憶が生まれると思うんですよね。この先、そういう循環を繰り返していければ。筒香や山崎(康晃)もまた、ファンや地域が育てた選手ですから」

 未来につながるチーム作り、地域に根差した球団・球場の在り方について熱く語り続けるのも、岡村氏自身がベイスターズの魅力に惹かれているからだろう。岡村氏が考える「ベイスターズらしさ」について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「あまりにも自分に近くなってしまったんですけど……(笑)。2017年の日本シリーズってすごく盛り上がったと思うんです。ベイスターズって、ドラマを生んでくれるというか、爆発する瞬間があるというか、たまらなく魅力的になる時がある。また、マツダスタジアムも盛り上がりますし、甲子園も熱狂的ですけど、ハマスタにも初めて見た人が感動してしまうドラマチックさがあると思うんです。ホームラン3連発でドキドキするような勝ち方をしたり。ドラマが生まれる場というか、心に響く何かが出てきやすいチームになりましたね」

 今年で8年目を迎えるDeNA体制で、チームはどんな進化を遂げるのか。2019年も横浜DeNAベイスターズは大いなるドラマを届けてくれそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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