ドゥカティのマシンに装着された“棒状パーツ”の正体【イギリス人ライターのMotoGPオフテスト分析】

 イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラム。MotoGPオフィシャルテストで見えた各メーカーの動きをオクスリーが分析する。

ーーーーーーーーーー

 2018年11月28~29日に行われ、中上貴晶がトップタイムを記録して終了したへレスオフィシャルテスト。ここでの大きな話題はドゥカティがテストした新しい技術的トリックだ。

 ドゥカティ・コルセのボスであるルイジ・ダリーニャは、常にピットレーンにちょっとした技術爆アイデアを仕掛けることを楽しんでいる。

 まずウイングレットがあり、次に“サラダボックス”、そして今回登場したのが“平行四辺形状のリヤ”だ。このうち、いくつかのアイデアはF1からヒントを得ているとされ、ダリーニャはすべての施策に満足している。

トルクロッドを使用したドゥカティの“平行四辺形状のリヤ”

 しかし、“平行四辺形状のリヤ”は新しいものではない。(イタリアのバイクメーカーである)ジレラは1930年代に4気筒エンジンのグランプリバイクに、“平行四辺形のリヤ”を使っている。

 この技術は1970年代と1980年代に好まれていた。勃興した2サイクルエンジンが劇的にパワーを上げ、シャシー設計に対してさまざまな要求が生まれたのだ。

 エンジニアは、チェーン、制動力、サスペンションに関わるさまざまな種類の“平行四辺形状のリヤ”を使い、マシンの安定性向上に加え、チェーンのテンション(たるみ)を一定に保ち、リヤが浮くことなどを防ぐようにした。

“平行四辺形状のリヤ”は通常、リヤブレーキキャリパーとフレームをトルクロッドで固定させたものを指す。“平行四辺形状のリヤ”は、効果が出ているときもあれば、出ていないときもある。そのため、この技術については懐疑的な意見を持つ人もいるかもしれない。

 では、ダリーニャは懐疑的な意見もある技術を使って何を解決しようとしているのだろう? それは、リヤタイヤからブレーキング中のグリップをさらに得ることであることは、ほぼ確実だろう。

 過去に登場した旧型の“平行四辺形状のリヤ”は、トルクロッドがフレームに直接ボルトで固定されていたが、ダリーニャのシステムではそれがリヤサスペンションに固定されているため、サスペンションなどに合わせてセッティングの調節が可能だ。

 ヘレステストでドゥカティは、新パーツの効果が定かではないなか通常の研究開発手順をとった。まずこのシステムを試したのは、手術から回復中のレギュラーテストライダーであるミケーレ・ピロの代役を務めたアルバロ・バウティスタだった。

ジャック・ミラーのデスモセディチGP19に装着されたトルクロッドを使用したドゥカティの“平行四辺形状のリヤ”

 その後ドゥカティはこのユニットをジャック・ミラーのデスモセディチGP19に取り付けたが、彼はそれで最速タイムを出した。

「リヤブレーキをかけた時、バイクはより安定しているようだった。でも開発を完了するまでには、まだ時間がかかる。今はまだ初期的な段階なんだ」とミラーは語った。ミラーはへレステストでトップタイムを記録した中上貴晶からたった0.262秒遅れの総合7番手でテストを終えた。

「僕たちのバイクはますます良くなっているよ。ここではたくさんのアイテムを試して、かなり進歩した」

 この結果を見たダリーニャは、ファクトリーライダーのアンドレア・ドヴィツィオーゾとダニロ・ペトルッチのテストスケジュールを変更し、新パーツをテストさせた。

 ドヴィツィオーゾはそれほど違いに気づかなかったが、ペトルッチは新パーツでドゥカティ勢の最速タイムを出した。つまり、それほど新パーツの効果に“懐疑的”ではないということだろう。

■リヤにも空力カウルを備えたパーツが登場

 ドゥカティのダリーニャがへレステストで二番目に見せた技術的トリックは、デスモセディチGPのフロント空力カウルに合わせた、リヤの空力カウルだ。

へレステストに登場したドゥカティのリヤ空力カウル

 リヤ空力カウルもコーナー進入時とブレーキングの際に、リヤの荷重を増加させるために設計されている。ライダーはコーナーに進入する時により強力なリヤグリップを得ることができ、フロントに頼らずコーナリングを行うことができる。

 リヤカウルの空力は、ライダーがスロットルを開けている時にリヤダウンフォースを増加させる意図は決してない。それでは(マシンのバランスが)台無しになるだけでなく、注意深く調整されたフロントダウンフォースの価値がなくなってしまう。

 バウティスタ、ドヴィツィオーゾ、ペトルッチの全員が改良された空力リヤカウルを試したが、正解となる結論は出なかった。

リヤ空力カウルを装着して走るアルバロ・バウティスタ

「2度の連続したテストをこのシートで行ったが、理解するのが難しかった。なぜならそれぞれの走行で最も重要なのはタイヤのコンディションだからだ」とドヴィツィオーゾは語った。

「最終的にそのシートは取り外した。なぜならブレーキングのときには多少良かったけれど、高速コーナーでエイペックス(コーナー内側の頂点)をキープするのに苦労したんだ」

 ペトルッチはテストの間、かなりの速さを見せ、へレステストを総合5番手で終えた。ペトルッチのタイムは、トップの中上からは0.164秒差で、1日目に大きなクラッシュに見舞われたチームメイトのドヴィツィオーゾよりコンマ2秒速かった。

 ファクトリーライダーへ昇格するペトルッチは、2019年に大きな変化を生み出すだろうと考えている。

© 株式会社三栄