坂道のアポロン

 きっと坂が多いのに慣れていない。横須賀から佐世保に転校してきた高校生が、登校中にぶつぶつ言う。「いまいましい坂だ…」。着いた学校の外観には、県立佐世保北高の校舎が使われている▲舞台は1966年の佐世保。昨年公開された映画「坂道のアポロン」は、知念侑李さんの演じる転校生が同級生を通じてジャズにのめり込む話で、爽快にしてほろ苦く、切なくもある▲主に佐世保市でロケがあった。浅子教会も、白浜海水浴場も美しい。外国人バー街のにぎわいが佐世保らしさを際立たせる。文化祭で2人がピアノ、ドラムでジャズをやる圧巻のシーンは、旧花園中の体育館で撮られた▲多くの人の心に、佐世保の魅力が届いたのだろう。この映画が、地域を盛り上げた作品と自治体に贈られる「第9回ロケーションジャパン大賞」の優秀賞(支持率部門)に選ばれた。34作品中、総合点では4番目の高評価だった▲一般投票と審査員の評価で総合点が決まったが、一般投票では6割ほどの支持を集めた。なるほど、開放的で活気ある佐世保の町と作風とが、すっと溶け合っている感じがする▲時を経て2人が再びセッションをする、心に染みるシーンがある。佐世保の黒島天主堂で撮影された。ステンドグラスから差し込む光がひときわまばゆく、柔らかく。(徹)

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