ゆるキャラの今

 漫画家みうらじゅんさんが二十数年前、全国各地の名産品の展示会に出向くと、それは所在なげに立っていた。当時は「マスコット」と呼ばれていた着ぐるみで、客は誰も寄り付かない▲ある県の名産品を模した奇妙な姿に、みうらさんは感興をもよおす。これを機に地方マスコットにのめり込み、やがて「ゆるキャラ」と名付けた、と著書「『ない仕事』の作り方」にある▲感興ならぬ、違和感や嫌な感じを与えてしまったらしい。九十九島パールシーリゾート(佐世保市)をPRするキャラクターが本年度末で活動を終えることになった。九十九島の海域に浮かぶ島をモチーフにした「ブツブツくんとブツブツちゃん」を巡り、外見に悩みを持つ人への「配慮」を求める声が寄せられたためだという▲引退も致し方ないと承知しつつ、一方でこう思う。世に「ゆるキャラ」があふれる中、より個性的なキャラを、よりユニークなものを、と求めた結果ともいえないか、と▲熊本県の「くまもん」が初代王座に就いた「ゆるキャラグランプリ」の参加数は近年、大幅に減っているという。優劣や個性を競う時はもう過ぎたのかもしれない▲九十九島のPRキャラは、デビューから1年足らずでお役御免となる。どこかしら、ゆるキャラの立つ曲がり角を思わせる引退劇でもある。(徹)

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