地下アイドルが見た闇   薄給、過重労働、脅し… 「まるで奴隷契約」

言葉乃あやさん(左)とおぎなつみさん(右)

 4人組のアイドルユニット「Revival:I(リバイバル・アイ)」が27日、東京・秋葉原でお披露目ライブをする。そのうちの2人、言葉乃(ことばの)あやさん(23)とおぎなつみさん(22)は、インターネットライブ配信で人気を集めていたグループ「虹色fanふぁーれ」の元メンバーだ。「闇から抜け出し、やっとここまできた」。ずっとアイドルを夢見て、実現させたにもかかわらず、以前のグループを続けられなかったのはなぜか。小規模なライブハウスや地方で活動する「地下アイドル」が見た〝闇〟とは―。(共同通信=小川美沙、礒部真悠子、平林未彩)

 ▽手取りゼロ、衣装代も自腹

 「友達に『奴隷契約みたい』と言われたが、これが普通だと思っていた」。虹色fanふぁーれ時代をそう振り返る言葉乃さん。5年間は辞められず、辞めた後2年間は芸能活動できない契約。月給3万8千円からレッスン費が差し引かれ、手取りはゼロ。会員制交流サイト(SNS)の更新や動画の配信など、課される仕事への報酬もない。衣装代もほぼ自費で賄った。

 レッスンではみんなの前で体重計に乗るよう言われ、目標通り減量できないと厳しく叱られた。追い詰められ、3日間ほど何も口にせず、ライブ前に倒れたことも。その際も「プロ意識が足りない」と言われた。

 劣悪な労働環境。改善を求めても事務所は取り合わず、途中からはレッスンもなくなった。言葉乃さんら4人はたまりかねて脱退を申し出た。うち1人はその後、女性マネジャーと面談した際、低い声でこう言われたという。「絶対芸能やるなよ。全力でつぶすぞ」。伝え聞いた他の3人もショックを受けた。

 4人は2017年11月、契約解除と賃金支払いを求め東京地裁に提訴。昨年5月に和解した。内容は非公開だが、弁護士は「4人が納得できる結果を得た」と話した。

 ▽有名グループでも…

 「ブラック職場」とも言えそうな状況は「虹色」だけではなさそうだ。

 ある有名グループの20代の女性も「過酷な仕事」と打ち明けた。休みは多くて月1回。イベントはほぼ毎日あり、その後にはグッズ販売もあって、帰宅は夜11時すぎ。風呂に数日間入れないこともあるという。

 月給は平均3万円で、イベント会場への交通費も自腹だ。生活費は、アイドルになる以前に勤めていた一般企業でためた貯金を切り崩し、やりくりしている。体調を壊して休むには事務所への診断書提出が必要だが、発行手数料を支払えないほどの困窮さ。契約は原則3年で、脱退すると高額な違約金を請求される。

 地下アイドルの知人の中には、リストカットの痕がいくつもある人や鬱になった人もいる。深夜のレッスンなのに、未成年もよく来ているという。明らかに異常な状況だが、彼女も「ふつう」と語った。「何がおかしいのか正直、分からない。まひしちゃって」

 事務所と契約した際、無料通信アプリLINE(ライン)やツイッターなどを退会させられ、周囲との接点を断たれた。「愚痴が言えるだけでもいいから相談できる環境がほしい」と訴えた。 

専属マネジメント契約書(一部を加工)

▽労基署「手の出しようがない」

 彼女らが過酷な環境から抜け出せない要因は、事務所と結ぶ「専属マネジメント契約」にあると指摘されている。

 日本エンターテイナーライツ協会の河西邦剛弁護士によると、契約内容の妥当性を見極めるのは少女には難しく、不利な契約を結ばされる場合がある。ノウハウや経験の乏しい中小事務所が増加していることも要因の一つ。ある中小事務所の代表は「明確なルールがないため、どうしたらいいか分からず、運営は手探り」と吐露した。

 労働基準監督署も指導に二の足を踏む。アイドルは契約上、個人事業主と扱われ、労働基準法が適用されないためだ。

 愛媛県のご当地アイドル「愛の葉(えのは)Girls」の大本萌景(おおもと・ほのか)さん=当時(16)=が昨年3月に自殺した後、母幸栄さん(43)は松山労基署に相談したが「グレーな契約書だ」と言われただけだった。「他にどこに相談したらいいのか分からず、ショックを受けた」と振り返る。

 松山労基署の担当者は、取材に「契約内容から労働者とみなせないと、労基署としては手の出しようがない」と答えた。

 ▽「優越的地位乱用」に当たる恐れも

 地下アイドルに限らず、タレントと事務所のトラブルは頻発している。近年もSMAPや女優のん(能年玲奈から改名)の移籍が話題になった。事務所側が強い立場を利用して不当な契約を結んだり、過度な移籍制限をしたりすると指摘されてきた。

 「芸能人が契約更新を拒否したくても、事務所の判断で1度更新できるとの規定がある」「契約更新を望まない芸能人に翻意させるため、報酬の支払いを遅らせる」「離籍した芸能人に関する悪評を流す」―。公正取引委員会の有識者会議が以前に開催したヒアリングでは、事務所の移籍制限に関する声が寄せられた。

 こうした状況を受け、有識者会議は昨年2月、独占禁止法上の問題となり得るとの報告書をまとめた。報告書は「複数の発注者が共同で移籍を制限する内容を取り決めることは独禁法上問題となる場合がある」と指摘。優越的な地位を乱用し、不当に不利益を与えるのも問題があるとした。

 この報告書について、法政大の浜村彰教授(労働法)は「優越的地位の乱用に当たり得ると判断したのは意義が大きい」と評価している。移籍制限の不当性についても「憲法に規定された職業選択の自由を奪い、芸能人の活動を見たいという消費者の利益も阻害している」と解説する。

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